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イザベラ

 私の名前は、イザベラ。地獄に居る1人の少女の名だ。


 そこの地獄は、研究所だった。研究室からは、何処もかしこも悲鳴が木霊する。


 しかし、最も酷いのは、特にこの場所だろう。


 私たちは、大きな鳥籠の様な檻に閉じ込められていた。中には、同世代の少女たちが何十人もいる。


 人数は、良く覚えていない。どうせ、直ぐに減ると思ったから。


 そんな私たちの檻からは、周囲が色々と見える。


 研究者たちに積み上げられる実験で死んだ少女の成れの果て。


 それを餌として食べる改造された魔物たち。


 目を逸しても血飛沫がこちらへ飛んできて、意識を向けさせる。


「ううぅ……!?」


 そばに居た少女が嘔吐した。最初の内は、私も吐いていたっけ?


 今では、その光景を平然として見詰めれる私は壊れたのかもしれない。


「被験体共、時間だ! さっさと檻から出ろ!」


『ひぃい!?』


 研究者は、私たちを威圧する様に怒鳴り声を上げ、檻を叩く。


 それに怯え、周りの娘たちには泣き出す娘もいた。


 あぁ、今日も今日とて実験が始まる。


 ……今日は、何人生き残るかな?


 …………


 ……


 …


 生き残ったのは、自分も含め5人だけ。耳には、周りの悲鳴が木霊していた。


 今日の実験は、一味違った。


 いつもの様に注射を打たれると身体が徐々に結晶化していったのだ。


 そして最後は、結晶になって死んでいく。


「これで、第一段階は上手くいったぞ!」


 何故か、研究者たちは喜んでいた。


 だからなのか? その日の研究はそこで終わり、私たちは檻へと帰された。


「ねぇ、脱獄しない?」


『………』


 1人の少女が、そう言い出した。彼女の目は、とても生き生きとしていた。


 それを見て、死んでいた私たちの目にも光が宿る。


「……何か、策があるの?」


「うん!」


 自信有り気なその様子に、私たちは話を聞いて見る事にした。


「アイツらの1人が漏らしたの! 今日は宴会をするし、私たちの数も減ったから、明日の人数を減らすって!」


「確かに、人数が少ないと逃げ易いわね。でも、何処へ? ここが何処かも分からないのに?」


 そう、私たちはココが何処に有るのかを知らない。


 ここにいる誰もが連れて来る時には目隠しをされた上に、樽詰めされて連れて来られたのだ。


「それで、何処か分かったの? または、出口を見つけたの?」


 分からなくても、出口が有れば何とかなるかもしれない。


「後者よ!なんと、出口は私達の実験を行う部屋の隣にあったのよ!!」


『えっ?』


 流石に、これには私達も驚いた。


「手の混んだ連れてき来方をしたし、研究者の人数も多いから大規模な施設の真ん中位にいるのだろうって錯覚を利用してたみたいなの!」


「それは、ホントなの?」


「ホントよ! だって、()()()()から!」


 その時、私たちはどういう訳か、彼女の言葉を変に思わなかった。


 それが、あんな結末に繋がるなんて予想も出来なかった。






 翌日。


 私達は行動を起こした。


「待て、貴様ら! 逃げられると思っているのか!!」


『………』


 怒る看守を無視して、私達は隣の部屋へと駆け出した。


 しかし、相手は大人だ。そう簡単に逃げる事は出来ない。

 案の定、仲間の一人が捕まった。それは()()()であった少女だった。


「私に構わず逃げて!」


「っ!?」


 私は部屋の扉の側で一瞬だけ躊躇し、足が止まってしまった。


 その瞬間、他の娘たちは横を全力すり抜け中へと入って行った。その際、誰かの肘が胸に当たり、私は跪いた。


 でも、そのおかげで助かったのかもしれない。


『えっ!?……#$%&&%$#!』


 ドボンっという音を後に、部屋に入った娘たちの声にならない絶叫が響き静かになった。


「ああ〜、生き残っちゃったの?」 


「えっ?」


 私の目の前には、発案者の少女がいた。その後ろには、彼女を捕まえていた研究者が立っている。


「何が起こったか見せてあげるよ」


「くっ!?」


 私は髪を掴まれ、痛みに声が漏れる。その後、発案者の娘に引きずられながら隣の部屋へと入った。


「こっ、これは!?」


 そこにあったのは、緑色に輝く液体が貯められた水槽だった。


 その中には、もう殆ど溶けて骨になった先程の少女たちがいた。


「どういう……こと?」


「あっ、その表情良いねぇ!騙したかいがあったよ!」


 私はそこで騙された事に気付いたのだった。


「研究者さんとの約束でね!ここに皆を落とせば、私だけは生かして上げるって言われたのよ!」


 どうやら自分が生きる為に私たちを売ったらしい。


 私は、彼女を睨むのではなく、後ろの研究者へと目を向けた。その人は、私の意図を理解して説明してくれる。


「この液体はね。いつも君たちに注射していた物の原液だよ。昨日、安定した製法が完成してね。結晶化した少女たちを溶かした成れの果てでも有るんだよね」


「……こんなものを作って何をするの?」


「特に何も。いや……上にとっては、戦争の為の戦力だったね。戦力増強の為に天使を作っているのさ」


「天使を……」


 会った事は無いけれど、死んだ娘たちの身体から飛び出た羽根を思い出した。どうやら真実らしい。


「それじゃあ、話は終わった? 貴方が死ねば私は助かるの。だから、早く死ん……えっ?」


 彼女の身体がふわりと飛んで水槽へと落ちて行った。

彼女のいた場所には研究者の手が有り、彼が押した事は直ぐに分かった。


「#$%&&%$#!?」


 彼女は私の目の前であっと言う間に溶けていった。


「誰も助けるとは言ってないよ。考えるとは言ったけどね。でも、仕事は楽できたよ」


 私は、悪魔がそこに居ると思った。


「しかし、彼女も失敗か。上手く行けば、天使が産まれる筈だったのに。彼女たちも拒絶反応で、皆と同じになってしまった様だ」


 どうやら、適応しなければ死ぬらしい。


「さぁ、君は最後に残したのは、何故か分かるかい?」


「………」


 私は、無言で首を左右に振った。


「君は、ここに居た娘の中で、一番適応値が高かったのさ。だから、最後にとっておいたんだよ」


 だから、私はいつも最後なのかと思った。


「さぁ、好きな方を選ばせてあげよう。自分から飛び込むか? それとも僕が押そうか?」


 聞いた瞬間、選択肢は決まってしまった。


 私は、振り返ると水槽へと向かいダイブした。その瞬間、身体を痛みが襲う。


「(ここに皆が居るのなら……)」


 皆、酷くない? なんで、死ななければいけないの?まだ、何もしてないんだよ?


 大人になって、恋人を作って、両親の様に結婚して、それから子供。


 私たちが、いつか経験するかもしれなかった筈のそれらを奪った者たちが憎くない?


 私は、憎いよ。だって、夢だったんだもん。


 お母さんみたいに、相手を作って、町に行って、デートして、それから一緒に家へ帰るの!そして、子供に聞かせながら幸せな時を過ごすの!


 だから、許せない。許せないのは、皆も同じだよね?


 だったら、力を貸してよ! 私は、アイツら許したくないの!


「(良いわね。その夢。私は、その夢を応援したいわ)」


 初めて聞くけど、知ってる様な優しい声が聞こえた気がした。それを皮切りに他の声も聞こえてくる。


「(あ〜あっ、結局こうなったか。ごめんね)」


 まず聞こえて来たのは、研究者に落とされた少女の謝罪だった。


「(貴方に全部任せて良いかな?)」


「(貴方なら私たちが出来なかった事が出来るかも?)」


「(とりあえず、全員殺してね)」


 私の身体を蝕んでいた痛みがすっかりと消えた。その代わりに力が漲ってくる。


 数分後、水槽の液体は全て消えていた。


 そして、私の見た目は完全に変化していた。背中には、黒い羽根がある。


「(使い方は、こうするのよ)」


 私は、頭に聞こえる声に意識を傾けて飛翔する。


「凄ぃ!凄いぞ、これ……」


 感動していた研究者の首が転がり落ちる。


 声に従い生み出した黒剣が研究者の首を切り落としたのだ。


 その後も研究者を次々に殺していった。


 しかし、彼らも馬鹿ではない。知識を活かして反撃してくる。


 私の身体は傷を負う。でも、生命力が上がったのか、直ぐに癒える様になっていた。


 そこからは、一切守る事を忘れ、研究者たちを追い詰めていく。


 でも、それが行けなかったのだろう。


 魔法で作った剣により私の動きは封じられた。意識が途切れる前に、残りの研究者を殺して意識が途切れた。


 柔らかい感触がした。それを受けて、目を開ける。


 視界には、紅いコートを纏った男性が映っていた。


 あぁ、まだ、敵が残っていたのか。


 私は、彼を殺す為に、心の声に向かって意識を預けた。

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