古代遺跡
盗賊たちが逮捕され、演奏会も無事に終わった翌日。俺たちは、ゲンチアナの町長宅へお呼ばれしていた。
「いや〜、昨日は本当に助かりました。おかげで、町への被害も無く、演奏会も無事に終わらせる事が出来ましたよ。まさか、音楽隊が入れ替わっているとは露ほどにも思いませんでした」
「確かに、楽器も本物でしたね。演奏も普通にされてたのでしょ?」
「そうです。だから、余計に騙されてしまった次第でしてね」
こっちの楽器は、1つ1つが手造りによるものだ。その為、買うと結構な額がする事もあって、演奏出来る者は少ない。
「しかし、まさか、町の地下にあの様な通路が存在したとは……」
「どうやら、元々あったものを拡張した様ですよ。通路自体は、大戦前にあった遺跡の一部みたいです」
「我が町に遺跡が!?」
「はい。どうやら、闇ギルドだけはそれを知っていた様です」
どうも拡張したのは、彼らのようだしね。
「それで、地下の遺跡を調べたのですよね?」
「ええ、中々面白かったですよ」
俺は、地下通路での探検を町長に話して聞かせる事にした。
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エリーを回収し宿へと送り届けた後、俺たちは町に出来た大穴へと帰ってきた。埋めるにしても現状を調べる必要がある。
しかし、俺達の自慢の魔力感知では細かい分岐の先まで見通す事が出来ない。
ダンジョンの様に魔力を纏った壁や天井なら別だけどね。
「魔力感知じゃ、ダメだったから別の手段で確認するね」
「どうやって?」
俺には、普通に歩いて調べるしか思い付かない。
「いつも水路の清掃してるのと同じだよ」
そう言うとアイリスは、眷属の巨大スライムを召喚した。
「分かれ道で分裂させれば、細かい分岐も調べられる筈だよ」
「なるほど。その手があったか」
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
アイリスは、巨大スライムを地下通路に投入した。
「ユーリ、地図と同じ大きさの紙を出して。この子に地下通路の地図を書かせるから」
アイリスの手には、巨大スライムの一部が乗っていた。
「はい、紙。インクはいる?」
「体液が青いから大丈夫」
アイリスが受け取った紙にスライムを置くと、潰れて紙上に広がり、線状のシミを作っていく。
「うん?」
それを見ていたアイリスは、何かに気付いた様だ。
「あれ? おかしいな? 一部動かない子が……うんうん違う。これは……。ユーリ、もう1枚頂戴」
「何かあったのか?」
「多分、更に下の階がある」
「地下2階?」
「場合によっては、更に下まで有るかも……?」
どうやら、この通路は俺たちが思っていたものより複雑らしい。
アイリスは、スライムを分割すると2枚目の紙にもマッピングを始めた。
「ユーリさん」
ちょうど、そこへマリーが帰って来る。
彼女は、盗賊たちを騎士団へと引き渡しに行っていたのだ。そのついでに、町長への連絡もお願いしていた。
「こっちの進展はどうですか?」
「今、マッピング中だよ。どうやら、地下通路は思った以上に複雑みたいだ。地下2階まで確認出来た」
と、マリーに説明していたらアイリスから訂正が入った。
「ごめん。ユーリ、もう1枚。地下3階」
「「………」」
アイリスに追加の紙を渡すと更に小さくなったスライムが、マッピングをしていく。
「あっ、2階は終わったみたい」
2枚の紙では、スライムの作った染みが増えていなかった。
「……ちょっと行ってみようかな?」
なんか、地図を見ていたら探検したくてワクワクしてきた。
「あっ、でしたら私たちが同行しますよ。面白そうですし」
「竜種も知らない隠し通路。ワクワクします」
「ダンジョンもそうですけど。こういうのって、心が踊りますよね?」
どうやら、リリスたちも同じ気持ちだったらしい。
「でしたら、私も同行します。この地を治める竜種の一族ですから」
「あっ、ユーリ君。私も行く。天使の私も知らなかったし」
「ユーリさん、私も連れて下さい!」
その後も参加者が多数名乗り出てきた。
「アイリスはどうする?」
皆が参加を希望する中、アイリスだけは珍しく参加を希望しなかった。
「う〜〜ん。行きたいのは山々だけど三階のマッピングがまだ有るからね。念話でナビゲーションするし、行っておいでよ」
「分かった。行って来るよ」
そして、俺たちは地下通路へと降りた。
その地下通路は、土を掘ったものでなく、なんと石造りだった。完全に人工物な事が分かった。
「マリーとイナホ、エロースは、俺と一緒に地下について来てくれ。何が有るか分からないから安定のメンバーで行きたい。
他は、地図の先を順番に回ってくれないか?
一応、地図と照らし合わせると町の主要施設に繋がる事が分かってはいるんだけど、それが本当か確認したい」
『了解』
スライムの作った地図を片手に光の魔法を発動しながら地下通路を進む。
2階へと続く階段が有る場所へと行くと地面に隠し扉が有り、長年開いた形跡が見当たらない程、埃に埋もれていた。
俺たちは、そこで分かれて別行動を開始した。
「ここは……」
2階に降りて、まず近くにある小部屋へと向かった。
しかし、その小部屋は……。
「住居なの………か?」
部屋の中には、テーブルやイスなどが置かれていた。どれも古いもので、一部朽ちて折れていたりしている。
「ここ数十年って感じじゃないですね」
「あぁ、木材だから朽ち易いと言っても、百年程度でここまでのレベルには、そうそうならないだろう」
「……匂いも私が分かるレベルの物は残っていません」
「イナホ。ギンカなら分かると思うか?」
「う〜ん、どうなんでしょう? ギンカの感知は次元が違いますからね」
「そうか。なら、後日、連れて来て試すか」
その後も順番に小部屋を確認していく。
しかし、何処を見ても同じ様な間取りであった。
「あっ、ここが地下への入り口だな」
2階層のマップに示された場所へとやって来た。
そこには、魔力を帯びた正方形のパネルが置かれていた。
「マジックエレベーター……」
魔力を纏っていたので、鑑定で確認してみた。
その結果は、エレベーター。乗って念じると上下するらしい。
異世界で出会った初めてのエレベーターだ。
「(三階のマッピングはどう?)」
「(大体、終わったかな? ナビゲーションなら何時でも行けるよ。ただ、どうやっても入れない領域が有るから自分で確認してね)」
「(入れない領域? 分かった。こっちで確認するよ)」
入れない領域。結界か何かで守られた領域なのだろうか?
「それじゃあ、行こう」
俺たちは、マジックエレベーターに乗り込んで下へと向うのだった。




