ダンジョンの異変
ボスを倒した後、アイテムボックスから俺の服を取り出して、皆に渡していく。少しの間は、これで我慢して貰おう。
「すいません。助かります」
「謝るのはむしろ俺かな? すまん、色々見てしまった」
しっかりと目と心に記録させて貰いましたよ。
生徒や冒険者たちに服を行き渡らせた後、俺たちはお互いに名乗りあった。
生徒たちと一緒に居た冒険者たちは、『アストラル』というBランクの冒険者チームらしい。
リーダーは、ステラと名乗る男勝りな口調と赤毛が特徴的な女性だった。
「所で、何で生徒たちとボス部屋に居たんだ?」
俺は、セーフゾーンへと向かう道中に聞いてみた。
「ああ、冒険者チームによるボス戦を見学させようと思ったんだよ。生徒たちには良い機会だと思ってね。
ボスとは、何度も戦った事があったし、生徒たちのパーティーを担当していた冒険者は、知り合いのケイトだったから危険は少ないと思ったんだ」
「生徒たちの実力からしても戦闘の邪魔にならないと思ったわ。それに、私もここのボスのことは知っていたので守る自信があったの」
俺は、それを聞いていて少し違和感を覚えた。
「うん? 何度も戦ったんだよね? 生きてるって事は、そういう事だし。何で、今回はボロボロになったの?」
彼女たちからは、ボス相手に舐めてかかった様な感じはしない。
「ボスが違ったのさ」
「はい? どういう事?」
「本来、さっきの魔物はこの階層のボスじゃないのさ」
「えっ、そんな事があるの!?」
これには、さすがの俺も驚いた。ダンジョンのフロアボスが変わるなんて初めて聞いた。
「私も初めて知ったよ。でも、この目で見たのなら事実さ」
「なるほど。そんな変な事が起きていたからヤバかったのか……」
「変といえば、道中も変だったわね」
俺たちの話に青肌をした魔族の女性が混ざってきた。
確か、自己紹介の時に彼女はスピカと名乗っていたな。
「スピカさん、変だと思った……その違和感は? 話してくれない?」
「良いわよ。というか、貴方も薄々気付いていたんじゃない? 話によると今日だけで何度も召喚されたのでしょう?」
「それと何か関係があるのか?」
俺が召喚されたのは、生徒たちが無茶をしたからではないのか?
「有るわよ」
スピカさん曰く、関係が有るそうだ。
「それで、結局どんな事に違和感を感じたの?」
「階層ごとにいる魔物が力を増しているのよ」
つまり、通常より強くなっているらしい。
「……増しているのか? 俺が道中に出会った魔物たちは、先程の危険度Aランクのボスを除けば、他に出会った魔物はせいぜい危険度Bランク台の奴らだったけど?」
竜王国のダンジョンも同じ様なレベル帯だったので違いがよく分からない。
「「「えっ?」」」
俺の話を聞いて、冒険者だけでなく生徒までもが口を空けて驚いた。
あれ? 俺は、今変な事を口走ったかな?
「どうしたの? そんな豆鉄砲を食らった様な顔をして?」
「これが驚かずにいられますか!!」
ステラさんに賛同する様に、皆も頷いている。そして、ステラさんは話を続けた。
「この階層ボスは、Bランクだぞ! それにボス以外は、基本Cランクだ!!」
「えっ、嘘っ!」
「嘘じゃない! 本当だよ! だから、生徒たちの体験に使われたりするんだよ。Cランクなら森に行けば普通に出会える強さだしね」
「………」
どうやら、竜王国のダンジョンは、高難易度ダンジョンだったらしい。
そして、俺はとんだ勘違いをしていた様だ。
生徒たちが弱いのに無茶をすると思っていたが、事実はそうではないらしい。そもそもダンジョンの魔物自体が強くなっていたのだ。
「原因はなんだろう?」
「私には、分からないよ。スピカは、何か知らないかい? 貴方100年以上生きてるし、この国の出身でしょ?」
スピカさんは、100歳超えらしい。異世界だと年齢が分かり辛いな。
彼女の見た目は、大学生という感じだ。一応大人だけど子供らしさが少し残っている。
「う〜ん、今の情報だと記憶に無いわね。カンで良いなら、あのボスは関係してそうだけど」
「さっきのテンタクルビーストか?」
「えっ、アレがテンタクルビースト?」
意外な事にボスの名前に反応したのは、ケイトさんだった。
「ケイト。何か知ってるの?」
「知ってるも何も……恥ずかしくて大声で言えないわ」
「「「はい?」」」
「とりあえず、生徒以外の女性陣集合!」
ケイトの宣言により、ステラやスピカ、その他の冒険者がケイトの元へと集まる。
そして、円陣を組んで相談会が始まった。俺は、蚊帳の外から眺めるしか出来ない。
「……触手……少女……妊娠………快楽……」
「エロ本……この変態………趣味………マゾヒストリ……」
「伝承……事実………生贄………」
聞こえてくる内容が変なのは、俺の気のせいかな?
そして、ステラが罵る声だけは意外によく聞こえてくる。
「理由が分かったぜ!」
数十分後、話し合いは終了した。
そして、何故かステラ以外は顔を真っ赤にしていた。
「それで、魔物が強くなった理由は?」
「色禍の影響っぽい」
ピンクハザード……なんとも卑猥な気がするのは俺だけだろうか?
「ハザードというだけあって災害なんだろ? 何が起こるんだ?」
「手当たり次第に女たちが拘束されて、魔物の子を孕むまで陵辱されるだけさ」
親指を人差し指と中指の間に入れてこぶしを握る『女握り』と言われる形。それをしながら言うステラ。
俺は、ケイトたちを見ると顔をそらされた。どうやら、ガチらしい。
「そういう理由で全裸にされた訳か。災難だったな。それで、魔物が強くなった理由とどう繋がるんだ?」
「う〜とだな。……スピカ、任せた」
「忘れたのね。仕方ない。私が、説明するわ」
「悪ぃ、頼む」
「魔物が強くなったのは、テンタクルビーストから漏れるフェロモンの影響よ。奴は、それを使って魔物の使役と強化を行っているからなの。ただし、それが効くのは奴より弱い魔物だけね」
「下層には、奴より強い魔物は基本いないからフェロモンで強化出来た。だから、魔物が強くなった訳か」
要は、下位の魔物を使役してバフまで施すって感じかな。
「なら、もう倒したから安心だな。いずれ魔物たちの強化も取れるだろう」
「それが、そうもいかないのよ」
「まだ、何かあるのか?」
「実は、奴はある魔物の眷属なのよ。しかも、その魔物はテンタクルビーストを量産出来る」
アレを量産って、結構ヤバい案件な気がする。
「それって、マズくないか?」
「マズいよな……生徒たちが下層でダンジョン探索を楽しんでいるのも魔物が弱いからだな」
「しかも、ダンジョンを封鎖するレベルの案件よね」
なんか、無性に嫁たちが心配になってきた。
あの程度の魔物にやられるとは思わないけど、生徒たちを庇ってとかならあり得る。
そして、助けた生徒たちの事も心配になってきた。
「とりあえず、今すぐにでも生徒たちは避難させた方が良いよな。ステラたちもダンジョンから脱出するか?」
「えっ、どうやって?」
「逆召喚を使ってね。外にいる奴と連絡するよ」
内部で召喚魔法が使えたのだ。離脱でも使えるだろう。
「(もしもし、アダムス聞こえる〜?)」
俺は、アイテムボックスから水晶を取り出すとダンジョンの外にいるアダムスに念話を送った。
「(おお、聞こえているよ。何か問題でもあったのかい?)」
「(有った。それもかなりヤバい案件。帰ったら話すよ。それより、全員の避難が先が良い。設置した召喚陣を起動してくれない?)」
「(任せたまえ。直ぐに行おう)」
会話が切れて数分後、生徒や冒険者の足下に光輝く魔法陣が出現した。
「ほら、手を繋いで」
俺は、ステラたちと手を繋ぐ。そうする事でも魔法陣が一人と認識するのだ。
「跳躍!」
魔法陣の発動キーを唱えると発光と共に、俺たちはダンジョンより消えた。




