召喚! ユリシーズ!!
ダンジョンの4階層ボス部屋。俺は、そこで仁王立ちしている。
その正面には、タクトたちとは別の生徒たちが正座している。彼らの服装はボロボロで、一人の生徒に関しては両頬が腫れ上がっていた。
「お前たち……死にたかったのか?」
俺がそう聞くと生徒たちは全力で首を横に振った。
「だろ? だったら、何故、サポートである冒険者の話を聞かない! おかげで、彼らは死ぬ所だったんだぞ!!」
俺は、本日何度目かの説教を生徒へと行う。
「ゆっ、ユリシーズさん。もうそのくらいで……」
「そうです。結局、俺たちは助かったんですから」
説教を止めに入ったのは、生徒たちを担当していた冒険者たちだった。彼らは、生徒以上にボロボロだ。服の端々は裂け、血痕もついている。
しかも、助かったと言った通り、先程まで彼らは瀕死の重傷を負って死にかけていたのだ。
「………」
冒険者たちが、もう気にしないとアピールするので、俺はため息を付いた後、説教するのを止めた。
いや、止め時を探していたのかもしれない。
何故なら他の生徒たちも似たようなものだったからだ。
ことの始まりは、数時間前に遡る。
「う〜ん、よく寝た! ユーリ君たちに会えて助かったわ」
セーフゾーンに設置したベットからエロースが起きてきた。
「やっぱり、肉体疲労をどうにかするのは重要だからな」
「うちの子たちも順調に回復しているよ」
カレーを食べて、皆のメンタルは回復したが、肉体疲労が回復する事はない。
なので、いつも通りのダンジョン用のベットを2台設置し、エロースたちと俺たちで1台ずつ使う事にした。
「おはよう。次はタクトたちね」
「了解。その間、よろしく」
俺たちのベットからは、ミヤノを筆頭に女性陣が起きてきた。交代でタクトとゲンタがベットにいく。
「布団に埋もれて、匂いを嗅いだりしないでね?」
「嗅がないよ!?」
連れ違い様に、ミヤノがニヤニヤしながらタクトをからかうと顔を真っ赤にして反応していた。
青春だね〜とツッコミたくなる。
「悶々として眠れないなら、仮眠はやめとくか?」
新しいベットを用意しても良いが、このままの方が面白い気がした。
「お風呂に入れてないですからね〜」
「大丈夫よ。そんな光景を見たら……矯正するわ」
そう言ったリリカの目は、マジだった。過去に何かあったのか?
よし、タクトたちよ。素直に寝るが良い。男のままでいたいなら。
こんな感じで皆が休憩をしていた時、事件が起こった。
「おっ!」
俺の足下に魔法陣が出現したのだ。
「ゆっ、ユリシーズさん!?」
「これは、トラップ!?」
俺がトラップにかかったと勘違いして混乱する生徒たち。
「いや、違うぞ。これは……」
「「「召喚陣」」」
俺やアイリスたちの見解は一緒だった。
「何処かのチームに何かあったみたいだ!」
俺は、事前にアダムスと相談し、生徒たちに召喚アイテムを持たせていた。
以前、召喚アイテムを作りはしたものの起動した事が無かった。今回は、起動させる状況になりそうだという事も有り、実験を兼ねて生徒たちに持たせていたのだ。
また、他の目的も有る。本来、ダンジョン内における転移では回数等の制限を受ける。
しかし、転移に似ている召喚。つまり、召喚獣等には制限がなかったのだ。その事から召喚で人を移動させるのは有りではと考えた。
「アイリス、ギンカ! 後を頼む!!」
そして、俺は光に呑み込まれて転移した。
「っ!?」
召喚され最初に視界へ入ったのは、危機的状況だった。
召喚アイテムを握りしめた状態で倒れ伏した冒険者たち。彼らは、血塗れで傷も深そうだ。
そして、それをしたであろう血に染まった人狼型の魔物。そいつは、生徒たちを襲おうと結界に攻撃を加えていた。
結界に籠もった生徒たちは、ギシリと結界が軋む度、魔物を見て怯えていた。
「ハッ!」
俺は、直ぐ様対応する。速攻で魔物の首を撥ねて、身体を細切れにした。
名称:ウルフマン
危険度:B+
説明:狼の牙と爪。人型故のフットワークを活かし攻めてくる。また、生命力が強く並の傷では死なず、傷も直ぐに癒える
首を撥ねて終わりと思ったが、直ぐに身体が消える事は無かった。
しかも、撥ねた首と目が合った瞬間、危険と思い徹底的に倒す事にしたのだ。
「大丈夫か!」
「ううぅ……」
冒険者たちに、エリクサー劣化版をかけた。彼らの傷は、瞬く間に癒えて意識が目覚め始める。
「……俺たちは、一体?」
「確か、ウルフマンに襲われて……」
「「生徒たちは!?」」
2人は、意識が戻ると飛び起きてきた。
「大丈夫。代わりに狩っておいた」
俺は、2人の前でウルフマンの死体を指す。この魔物は、直ぐにでも消えるだろう。
「すまない。助かりました」
「召喚アイテムに感謝だな」
「感謝は、後で良い。直ぐに、上の階へ行くべきーー」
再び、俺の足下に魔法陣が現れた。そして、乱入者も現れた。
「時間がない! 2人共、上の階に避難するんだ。ここにいたら、また襲われるぞ!」
「GaYaUuuuu!!」
俺は、会話しながら乱入してきた新しいウルフマンを仕留めた。
「直ぐに生徒たちと避難する!」
「すみません。時間稼ぎお願いします!!」
冒険者たちは、生徒たちを連れて近くの階段から上に戻っていった。
それを見届けた所で、俺はまた転移させられた。
そこからは、同じ様に何度目も召喚されまくった。
ホント、どんだけ無茶をしているんだよ!! 死にたいのか!!
と、本気で思ってしまう程、酷いものだった。挙げ句の果には……。
「俺は、悪くない! 悪いのは、弱いコイツらだ! 俺の命令を無視して帰ろうとか言うからーー」
こういうキチガイがいたりした。そういう奴は、ビンタする事にした。
「へぶっ!?」
「何が命令だ! テメェの方が疎いだろうが!!」
「きっ、貴様! 貴族である俺にーー」
「こっちも貴族だ、ボケ!!」
「ハグッ!?」
そもそも同じ貴族位だったとしても継承前の嫡子よりは俺の方が身分が上になる。両頬を叩くと大人しくなった。
そこからは、彼らを正座させて説教をした結果、今に至る訳だ。
「またか〜」
そして、その日最後となる召喚を行われた。その場所は、5階層にある……。
「アレ?」
ボス部屋の前だった。
しかし、周囲には人が居らず、ボス部屋内からは喧騒が聞こえる。感知を行うと中で戦っている事が確認出来た。
どうやら、ボス部屋だと弾かれてズレるらしい。
「召喚したって事は、ピンチなんだよな? どうする?」
魔力感知で見える光景では、皆の動きが止まっている。何かしらの拘束をされた様だ。このままでは、いつ死んでもおかしくは無かった。
「斬るか?」
ボス部屋の扉は、石造りの様だ。しかも、魔力をしっかりと纏っている。通常の攻撃では壊れないだろう。
これを壊すには、それを超える高魔力と耐久が必要だ。
「フラガラッハ!」
俺は、剣に魔力を乗せると純度を高めた。
そして、魔力感知で見える扉の先の魔物に向かって……。
「クタバレ!!」
剣から放たれた斬撃が扉を切り裂き内部へと駆け抜けた。そして、内部から聞こえる衝撃音と共に扉が倒れた。
「無事か!」
そこにいたのは、服を着ていない女性陣だった。彼女たちの身体には、服の代わりに触手が巻き付いていた。
どうやら、斬撃を受けてボスと切り離されたのだろう。
俺は、部屋の主であるボスを見る。人型のゾンビの背中から触手が生えた様な魔物だった。
名称:テンタクルビースト
危険度:A
説明:触手を愛した男の成れの果て。触手を使い女性をもて遊ぶ事に執着している。
「………」
なるほど。俺は、女性陣をもう一度見た。そして、納得する。
触手プレイをしていますのね……。
「そういうのは、嫁にやれ!!」
アンデッドタイプみたいなので、魔法銃による聖魔法の放出を行い、跡形もなく浄化した。
ドロップ品は……触手浪漫。
説明:触手を使って女の子を絶頂させようぜ!
「………」
俺は、黙ってアイテムボックスに入れる事にしたのだった。
今度、使ってみよう。そう、心に思いながら。
今更ですが、うちでのパーティーとチームの違いは、目的事にメンバーが変わるか変わらないかです。
チームは、常にメンバーの変動なし。パーティーは、クエスト事にメンバーを入れ替える感じです。




