ダンジョンカレー
「そうそう、そうやって認識出来た範囲を紙に書いていくんだよ」
タクトたちは、魔力感知で見えた物を手元の紙に書き記す。
感知の精度は、俺たちに比べて低いものの、5人でやる事によって精度の高い地図が出来上がりつつある。
「よし、出来た。配布された地図を見せて下さい」
「はい、どうぞ」
「……うん、そっくりだ。これなら大丈夫ですよね?」
タクトたちの地図と配布された地図を比べると同じ物が出来ていた。
「問題はなし。大丈夫だろう」
「範囲は狭いけど、合ってるよ。これなら、今日1日の移動分は大丈夫だね」
彼らの地図に、アイリスからのお墨付きが出た。
「それじゃあ、少し早いけどセーフゾーンに移動して休憩にしよう。道中の索敵も忘れない様に」
『はい!』
彼らの地図を頼りにダンジョンを進む。1時間後には、無事セーフゾーンへと辿り着いた。
道中、魔物との戦いが幾度となく有ったものの、以前までとは違い、戦いで先手を打てるまでになっていた。
「うん? あれは……」
「あっ、お兄ちゃんだ!お兄ちゃ〜ん!!」
セーフゾーンに入るとフランが全力で抱き着いてきた。
「ユーリ君たち、お久〜♪」
先にセーフゾーンに居たパーティーから見知った天使族が近付いてきた。
「おっ、エロースも居るじゃん!お疲れ!」
どうやらフランは、エロースとパーティーを組んでいた様だ。
「そっちのパーティーは、順調?」
俺は、エロースの後ろにいるパーティーに目を向けた。
メンバーは、女性だけで構成されており、疲労しているのか、彼女たちは地面に座り込んでいた。
「う〜ん、フランちゃんが抜きん出てるかな? 場数を踏んでる事もあるし」
「えへへ、沢山倒したよ。見てみて、このドロップの山」
彼女に持たせていたマジックバックの中には、色々な素材や鉱石がぱんぱんに詰まっていた。
「凄いぞ。頑張ったな」
「うん、ありがとう♪」
フランの頭をなでなですると気持ち良さそうに目を細めていた。
「エロースも頑張ってるな。よく鼻血を耐えた!」
「はうっ!?」
不意打ちでエロースの頭も撫でると、彼女は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていた。
「ちょっと!? 髪が乱れ……それに恥ずかしいんだけど!?」
「安心しろ。後で、梳いてあげる」
恥ずかしがっているエロースが可愛いので撫でまくる事にした。
「お兄ちゃん。エロース先生は、さっき女の子を助けた時に鼻血を吹いちゃったから増血剤の予備を頂戴。また、吹きそうだし」
あ〜っ、やっぱり鼻血を吹いてたか。女の子だけのパーティーだからそんな気がしたよ。
「はい、フラン。頼まれたポーションだよ。ついでに、エロースが暴走しそうになったら抱き締めからのなでなでしてあげてね」
フランの抱き締め + なでなでならエロースは気絶するだろう。
「それをされたら死ぬかもしれないから気をつけるわ」
「あはは、嫁が死んだら嫌なので程々で頼むぞ、フラン」
「了解」
「ねぇ、今から私達ご飯なんだけど、エロースたちもどう? もちろん、ユーリの手作りだよ」
「そうね……」
エロースは、フラン以外の娘たちを見ると頷いた。
「一緒に良い? あの娘たちを休ませたいし」
「ok、分かった。なら、肉料理にしよう。家から持ってきたのが、沢山有るし。タクトたちもそれで良いか?」
一応、俺たちの行動はタクトたちがメインなので聞いてみた。
「ええっ!? また、料理を作ってくれるんですか! 食べます食べます! 他のパーティーと一緒でも良いですよ!」
「今度は、何を作ってくれるのか楽しみね」
「昨日のしゃぶしゃぶも美味しかったよねぇ〜。脂も少なくあっさりしてたし」
「野菜も美味しかったです〜」
「しかも、一緒に出された白米の美味いこと美味いこと! 3杯は、余裕だったぜ!!」
『いや、それは食い過ぎだから!』
タクトたちは、昨日の晩飯を思い出して笑っている。他のパーティーと一緒だけど問題ない様だ。
「さて、何を作るか……」
「ユーリ! カレーが良い! カレー!」
「あっ、私もカレーが良い!!」
ふむ、カレーか。スパイス残ってたかな?
え〜っと、香り付けのクミン、コリアンダー、カルダモン、オールスパイス、色付けのターメリック、辛みのチリペッパー。
よし、カレーの材料であるスパイスは全部有るな。
あっ、ちなみにガラムマサラは無い。異世界に来て知ったのだが、ガラムマサラはミックススパイスだった様だ。
ガラムマサラの基本となるスパイスは、シナモン、クローブ、ナツメグの3種類。
その他にカルダモン、胡椒、クミン、ベイリーフなどを加えたり、ナツメグをメースに替えることで作られるそうだ。
「よし、今回は豚肉を使ったカレーにしよう」
俺は、鍋に油を引いて肉を炒める。ある程度火が通った所で、野菜に移った。
「アイリス。野菜を任せた」
「任せて、直ぐに終わらせるから」
アイリスにボールを持たせ、彼女に人参やジャガイモ、玉ねぎを投げる。すると一瞬で一口大にカットされてボールの中に転がり落ちる。ゴミは、アイリスがいつも通り食べて消えた様だ。
『えっ?』
皆、初めてみる調理の工程にびっくりしたようだ。しかし、うちではこれが日常だ。
アイリスからボールを受け取り、野菜を肉に加える。玉ねぎの色が変わった所で水を加え煮込む。
その後、スパイスたちを使い、味を整えたら完成だ。
「ほらよ。完成だ」
アイテムボックスから出したテーブルに並べていく。
『いただきます!』
いつもの感謝をして食事を開始した。タクトたちは、俺たちの動作に混乱した様だが、真似て食事を開始した。
『美味っ!?』
「凄い! 昨日のよりかなり美味いよ!! マジで美味い!!」
普段のタクトからは考えられないくらいテンションが高くなっていた。
「飯が凄い進む!しかも、肉が美味い!!これ、何の肉ですか!!」
『………』
何の肉か知ってるアイリスたちは、笑顔のまま無言になった。
「レッドボア」
「はい?」
「レッドボアの肉を使ったカレーだよ」
『ぶふっ!?』
彼は、盛大に吹いた。そして、混乱が起きる。
「えっ? えっ? レッドボアって確か……」
「危険度の高い魔物だよね……」
「あはは、美味けりゃ、何でもいいじゃん!」
ゲンタだけは、気にして無いようだ。こいつは、大物になるのではと思った。
そんな感じで、ダンジョン生活2日目ものんびりと流れるのだった。




