戦いは、激化していく
トーナメントは順調に進み、イナホ VS ユキ。
接近戦に持ち込みたいイナホと接近させたくないユキとの壮絶な魔法戦が繰り広げられた。ユキは、接近戦になったら負けるという認識があるのだろう。
しかし、魔法戦でもイナホの方に分がある。
イナホは、日々成長し、今や竜種に匹敵する魔力量を有する。その為、ユキの方が先に魔力が尽き決着した。
モカ VS スファレ。
モカは、ライカの時と同様にスファレを魔力を纏わせた糸でぐるぐる巻きにした。
これで決着か……と思ったのも束の間、スファレに巻き付いた糸が突然弾け飛んだ。
「やっぱり、ユーリお兄ちゃんにローブをお借りしてて良かったです」
そう言って立ち上がったスファレの全身からは、電気が迸っている。それに伴いローブの下に着ていた服がボロボロと散っていた。ローブには、魔法糸を使用しているので、影響が無い様だ。
「なるほど。通りでローブを借りに来たわけか。でも、後で服を用意してやらないといけないな」
「師匠。スファレちゃんのあれは……?」
「現存する宝石族は少ないから知らないだろうけど、宝石族固有の魔法で森羅。どんな魔法かというと獣化みたいなものだよ。彼女の場合、一時的に雷と同じ性質になるそうだ。尤も、まだコントロール出来ないから服がボロボロになるみたいだけどね」
初めて見た時は、何処ぞの雷○大壮かと思ったよ。ちなみに、人毎に違う様で、ガーネットは火化、マリンは水化してた。
「つまり、自然現象を相手にする感じですか?」
「そんな感じ。とはいえ、スファレは、まだ3分くらいしか持たないけどね。しかも、1日1回だけ」
まぁ、3分有れば模擬戦くらい問題ないだろう。
「ハッ!」
放電と共にスファレの姿が消えた瞬間、モカの身体を電気が駆け抜け背後に姿を現した。
どうやら、雷化した状態で通り抜けたらしい。スピードも雷と同じだから初見じゃ対応出来ないわな。
「っ!?」
モカは、倒れ伏し痙攣している。どうやら、身体が痺れて動けない様だ。これで決着がついた。
「わ〜い、やったー!」
「喜ぶのは良いけど、飛び跳ねると色々見える!!」
飛び跳ねている彼女に転移で近付き、場外へと拉致した。
ちゃんと服を着せたら戻しますよ。ちゃんと服を着せたら戻しますよ〜。
重要なので2回言わせて貰ったよ。
毎度、俺が狼になると思ったら大間違いだぜ。
「……スファレ。今日の夜、一緒にどう?」
「えっ? あっ、はい!」
そして、結果の見えたエミリア VS マリエル。
開始からマリエルは、霧と幻術を組み合わせたエミリアの分身に翻弄されていた。
その数、本人も合わせて全部で5体。しかも、偽物には質量がある様で、マリエルはダメージを受けていた。
マリエルは、反撃するも物理ではダメージがなく、魔法に切り替えて初めて効果が出た。それに気付いてからは、魔法だけに切り替えて攻撃。結局、偽物は全部破壊した。
そして、エミリアに本人に向おうとした所、突如マリエルの身体が吹き飛ばされて場外アウトとなり、決着が着いた。
「何が起こったのでしょう?」
場外に立つマリエルは呆然としていた。それだけでなく、ベルや周囲の生徒たちも何が起こったのか分かっていない様だった。
「あっ、ベルも見えてなかったか?」
「師匠は、見えたんですか?」
「うん。結論からいうと衣服に付いた水が爆発した。マリエルが吹き飛ばされる前の地点を見て。水蒸気が見えるでしょ?」
「衣服の濡れ? 濡れましたか、彼女?」
「分身の質量の正体は、霧なのは流石に分かるよね? なら、破壊された後はどうなってた?」
「魔法により四散して……あっ、彼女の服を濡らしてますね」
「うん。その水は、彼女の魔力を宿している。水魔法は、うちのエリスほど詳しくないけど、彼女はその魔力を操作して液体からいきなり気体に変えやがった。それに伴う体積の変化は約1700倍くらいだったな?
あの量だとこれくらいの威力になるのか。でも、マリエルへのダメージが少ないのはどういう事だ? そこもコントロールしたとでもいうのか?
だが、そんなコントロールはエリスたち精霊と同じレベルだぞ? 竜種だからってそんな……」
「師匠! ねぇ、師匠ってば!!」
「……ハッ!?」
一瞬、不思議現象について考え過ぎてトリップしていたわ。
「悪い、すまん」
「師匠、ニヤケ顔で危ない人みたいでしたよ」
「次は、気を付けるよ」
その後もトーナメント戦は続き、準決勝と相成った。
組み合わせは、イナホ VS 生徒とエミリア VS スファレとなっている。全員、やる気十分だ。
まず、イナホ VS 生徒の戦い。そこでは、イナホが奥の手を出して来た。
「水×10! それから氷!!」
「「なっ!?」」
俺とベルは、顔を見合わせた。なんと、イナホがルーン文字による魔法を使ったのだ。
彼女は、空中に水のルーン文字を連続して書いていき順番に発動する。それにより水弾の連射が可能となった。
しかし、相手も然ることながらそれを回避していく。流石は、準決勝戦に残るだけの事はある。
だが、イナホの狙いはもう1つ有り、氷のルーンで相手の足下が凍結した。それにより、一瞬とはいえ生徒の足が完全に止まる。
そこを逃がすイナホではない。生徒に短剣を押し当てて降参させた。
「師匠……いつ、イナホちゃんに教えたんですか?」
「……教えてない。多分だけど、昔直接書いて見せてたのを今まで練習してたんだと思う」
イナホは、昔の俺と同じで素直にルーン文字を書いていた。
しかし、今の俺はワンアクションでルーン文字を書き、発動させれるのでまともに書く事は無くなった。だから、ちゃんと書く姿を見せたのは相当前になる。
「イナホ……いつの間に?」
模擬戦が終わって近付いてきたイナホに聞いてみた。
「驚かせようと秘密にしてたんですよ。それより、ルーン文字って、文字の意味と現象を理解している事と魔力放出が出来れば可能みたいですね」
「俺は、そこまで考えて使って無かったよ……」
「私は、見せて貰って実践するからそれを自然とやってた……」
「それより、今いくつ使えるんだ?」
「う〜と、実際に使えるのは9個くらいですね。文字は知ってても使えない奴が有りますので」
「今度、特別に秘密の個人授業してあげる」
「えっ? 本当ですか? やったー!」
イナホは、俺が秘密の個人授業というと凄く喜んでくれた。欲望に気を付けてしっかり色々教えておこう。
「あっ、2人共。スファレちゃんの試合が始まるよ」
模擬戦を行うフィールドには、着替えたスファレとエミリアの姿がある。審判の合図と共にエミリア VS スファレの戦いが幕を切って落とされた。
エミリアの行動は、前回と同じ分身による攻撃を行う。分身にも質量がある為に前回みたいになる可能もある。
しかし、今回は相手が悪かった。
「チェインレイ!」
スファレが放った雷魔法が枝分かれし敵から敵へと連鎖しながら放電していく。
「っ!?」
当然、本体であるエミリアは回避するものの、その手にダメージを受けた。しかも、この行動で本体だという事が誰の目にも明らかとなった。
この攻撃や雷化から分かる通り、スファレは雷魔法の使い手だ。水魔法の使い手であるエミリアにとっては相性が最悪だった。
しかも、彼女を指導したのは、妖精の箱庭で1番雷魔法が上手いマリーだ。だから、こんな魔法も教えてた。
「轟雷閃!」
エミリアを中心に雷柱が発生した。
轟雷閃は、広範囲魔法でその範囲は術者の魔力に依存する。それ故に範囲は小さいものの、分身の四散によりエミリアの周囲には水が溢れていたので、回避不能なまでの範囲へと成長していた。
「ハァアアーーッ!」
スファレが限界まで魔力を変換すること数分、ようやく雷魔法は収まった。
「ハァ……ハァ……エミリアちゃんは?あの程度でやられるはずがないから……えっ?キャッ!?」
魔法の影響を確認しようとスファレが轟雷閃による爆煙の中を注視した時、彼女の足に何かが巻き付き逆さ吊りにした。
「……よし、スパッツ履かせて正解だった!」
逆さ吊りされた事によりスカートが捲れ、内部が顕になっている。
「いや、お兄さん! 重要なのは、そこじゃないから!!」
モカにツッコミを受けた。
「俺にとっては結構重要なのだけど……」
嫁のパンツを他の野郎に見せたくないっていう気持ちは、重要だと思うのだが……。
「降参しませんか?」
煙が晴れ姿を現したエミリアは、水で出来た球体の中にいた。また、その球体からは、水の触手が伸びてスファレの足を持ち上げていた。
「……え〜っと、嫌だと言ったら?」
「ポイします」
「えっ? わっ!? わわっ!?」
スファレが答えるより先に触手は動き、場外へと放り投げた。スファレは、空中で急いで反転し、たたらを踏みながらも無事着地した。
しかし、場外の為、失格となりエミリアの勝利で終わる。
「ううぅ……エミリアちゃんに負けました」
「ドンマイ。良い勝負だったよ。でも、轟雷閃の後、注視するより貫通力のある攻撃で確認するんだったな。そしたら、アレは破れたよ」
「次は、頑張ります」
俺は、スファレにアドバイスしながら励ました。
しかし、嫁がエミリアに立て続けに負けてるのは、なんか嫌だな。竜種なら勝つのは当然なのだけど一度くらい負かしてやりたい。
「イナホ。ちょっとおいで」
「はい、何でしょう?」
「イナホはさ。今から言うーー」
準決勝の終了後は、インターバルを置いて決勝となる。その間に俺は、イナホへとエミリア攻略の手段をいくつか教えるのだった。
目安の7〜8ページ。文字にして、大体2700文字くらい。
今回は、それを超えて10ページくらいになったけど、決勝戦まで入れきれなかったです。多過ぎるので、次に回します。




