竜王国ヴァーミリオン
「見えて来ました。あの国です」
「やっぱ、ドラゴンだと速いね〜」
ホントにあっという間だった。
「見事な大都市だな」
目下に広がるのは、築かれ高い壁と門に出来た長蛇の列。壁の中には、中世の街並みが広がっていた。
そして、中央には周りよりも高い建物がある。おそらく、アレが領主の城だろう。
「久しぶりに来たよ。竜王国ヴァーミリオン」
「ヴァーミリオン?」
その単語に妙な聞き覚えがあるのですが?
「マリー、何処に降りるんだ?」
「あの城です」
「………」
あぁ、思い出した。
マリー。マリアナ。姓が、ヴァーミリオンだった。
「すみません。マリー。君は、王女か何かですか?」
「アレ?言いませんでした?」
「言ってませんが!?」
「私、竜王国ヴァーミリオンの第6王女なんです。上に5人の姉と2人の兄が居ますよ。ちなみに、私が末っ子です」
お嬢様もお嬢様。王女様だった。
「えっ、俺たち、大丈夫なの?王女の背で街に入るって」
「大丈夫じゃないですか?下からだと見えないし」
それ、見られたらマズイって言ってるのと一緒では?
「大丈夫だって!経験的にちょっと兵士に囲まれるだけだから!」
「それ、全然大丈夫じゃないからな、アイリス!」
なんだろ。凄く心配になってきた。
「そういえば、エリクサーを売りに行くんですよね?」
「あぁ、冒険者ギルドで登録する為にも現金を作りたいしな」
「だったら、案内を用意しましょうか?」
「それは助かる。場所が分からないからな」
「マリー。例のモノも用意してね」
「分かってますよ。ギルドでの騒ぎを減らす為にも賛成ですし」
「はい?何かあるの?」
「ふっふっふっ、それは後のお楽しみ!」
悪い事……ではないだろう。
「2人共、着地するので気を付けて下さい」
ズズン!
無事着地出来たのでアイリスと一緒に飛び降りた。
「さて、覚悟を決めるか」
マリーが着地した事で兵士が集まってきている。
「マリー、周りに説明をたのーーんんっ!?」
莫大な魔力のうねりを感じた。
「火竜爆炎波!」
「なっ!?空域断裂領域!!」
空間魔法による防御。独立した空間の層を複数発生させて、あらゆる衝撃を隔絶する。
いきなりの攻撃だったが、ダメージを無効化出来た。
攻撃を放ったのは、厳つい爺さん。
「お父様……」
「はっ?」
マリーの親父さんらしい。
場所を移して、貴賓室。俺の正面に座る厳つい爺さんは、竜王ことガイアス・ヴァーミリオン。つまりは、マリーの親父さんだ。
「ははっ、すまん。すまん。娘が彼氏を連れて来たと思ってな!実力を確認する為じゃ!」
無茶苦茶だな、この爺さん。危険人物認定しておこう。
「アイリス。マリーの親父さんは、何時もこうなのか?」
「私の時は、普通だから男性限定じゃないかな?」
ちなみに、マリーは、現在退室中。何やら準備があるらしい。
何の準備?考えても仕方ない。
「それもどうかと思うんだが……」
「しかし、なんじゃ。彼氏じゃないなら、この国に何しに来たんじゃ?謝罪も兼ねて手厚く対応してやるぞ」
竜王のサポートは嬉しいな。
「それは助かります。冒険者ギルドで登録したり、エリクサー売ろうと思っていたので」
「それだけじゃなかろう?冒険者登録って事は、大会目当てじゃな。特別枠で追加してやろう。まぁ、お主なら問題なかろうて」
「大会?何の話だ」
「何だ、違うのか?10年に一度開かれる大会が3日後に迫っていてな。その大会の上位3名は、冒険者の場合、ランクを自動的にAに昇格するのよぉ。
しかも、本戦は各国の代表が参加するから世間では『人類最強』決定戦って感じになっとる。だから、マリーと来たのかと思ったんじゃが……」
「それで合ってるよ」
「アイリスさんや。俺は、そんな話を知らんのだが?」
「ごめんって、冒険者のランク上げって大変だってマリーに聞いてるからね。この機会にどうだろうと思って」
「俺の意志は?そもそも、国を挙げての大会だろ?強者が沢山いそうなのに俺が早々に負けるとは思わない訳?」
「「それは無い。それは無い」」
2人して言いやがった。
「儂の攻撃防いで何言っとる。普通なら、防御魔法すらも貫通するんじゃからな」
なんつうもん放ってやがるんだ!
「ホント、いきなりで驚いた。……俺、よく生きてたな」
確かにかなりの魔力を込められていた。
「何言っとるか。むしろ、『ノーダメージだと!?』って、儂の方が驚いたわい。どうじゃ、マリーの婿にならぬか?」
「可愛いとは思いますが、嫁なら既に隣に居るので遠慮します」
マリーを褒めつつ、嫁がいるから無理とアイリスをアピールする。
「しかし、半神とスライムの夫婦とはな、長生きするもんじゃ。面白いものが見れたわい」
「そうか?」
「そうだろ。普通は、人とじゃろ。まぁ、半神だから交配で子を作ることは出来るじゃろうて。その場合、どっちなんじゃろか?」
それは俺も気になるが、出来たら分かる問題だな。
「只今、戻りました」
マリーが書類とバッグを抱えて帰ってきた。
「ユーリさん、コレにサインして下さい」
マリーから書類を渡される。
「何これ」
書類には、竜王祭一般エントリーと書かれていた。
推薦者:マリアナ・ヴァーミリオン
参加者:
冒険者ランク:E
誓約:この大会において、死んだ場合、誓約者本人に帰結する事に同意します。
参加者の所だけ記載が無い。
「この参加者の所に名前を書けと?」
「はい」
「まだ、冒険者登録してないんだが……」
「今から行くから問題ないですよね」
「参加するって言ーー」
「言いましたよね?言いましたよね!」
「言いました……たぶん」
なんだろ。マリーの笑顔が怖い。
俺は、マリーの圧力に負けてサインした。
死にそうになったら逃げよう。
「マリーや。一般枠で出場かい?」
「はい、前日の一般枠を用意しました。お父様の名前で特別枠も考えましたが、反発がありそうなので止めました。一般枠も人数は達していましたが、1人くらい増えても問題ないでしょう」
「確かに、100人おるから1人増えてもバレんじゃろうて。バレても書類ミスで通るしの。儂、コヤツに賭けようかの」
おい、人で賭け事すな!
「そうそう、案内用意しましたよ。アンナ、入って来て」
扉からメガネをかけたエプロンドレスの鬼娘が入って来た。
「お初にお目にかかります。アンナと申します。今回の案内を務めさせて頂きます」
メイド長って感じのイメージを受ける。
「あぁ、よろしく。アンナさん」
「アンナで構いませんよ。ユーリ様」
「分かった。善処するよ、アンナさ…アンナ」
見た目が近いと大丈夫だけど年上みたいな人は、やっぱり『さん』付けで呼んでしまうな。
「では、後はお願いしますね、アンナ」
「かしこまりました、姫様」