閑幕 俺のパンツ何処行った?
「あれ? おかしいわね……」
その事件に最初に気付いたのはミズキだった。
洗濯が終わったユーリの服をタンスに直そうとした時に気付いた様だ。
「1、2、3……やはりパンツが1枚足りない」
パンツが収められた引き出しには、折り畳まれて綺麗に並べられている。その為、数が数え易くなっていた。
「元々の枚数からユーリさんが履いている物を引いても……うん、やっぱり1枚足りないわ。ユーリさんの出し忘れかしら?」
アイテムボックスに入ってる事もあるし……と言いながらミズキはユーリの元へ向かうのだった。
「えっ、パンツ? 知らないよ?」
突然、ミズキからタンスにないパンツを知らないかと尋ねられた。
「そうですか……」
俺は、アイテムボックスを見ながら言う。
「アイテムボックスにも入ってないみたいだよ? 最近、長期のクエストに行ってないしね。破れたとかで捨てたんじゃないの?」
「それはないです。その場合は、バラして服の材料にするので」
「そうだよね。布って意外に高いし」
異世界で高い物の定番である紙は、量産に成功して安いが、布は高い。正しくは、服が高い。技量を持った者が少ないからだ。
それに伴い、生産される布の量も少ないので必然的に高くなる。
「では、何処に有るのでしょ……」
ミズキが困った顔をしている。
俺は、彼女を手招きして近くに呼ぶと膝に座らせて抱き締めた。小さくてスッポリと収まる。
これくらいが、色々する上でも丁度良いんだよな。
「ユーリさん?」
「このまま、一緒に考えよう?」
「膝に乗せて抱き締める理由は?」
「最近、こういうイチャイチャをミズキとしてないから」
「毎日、やってますよね? マッサージのついでに」
「アレを普通のイチャイチャと言うのかな? マッサージとしてすら怪しいのに?」
「それはそうですけど……大っきくなってません?」
「ミズキのせい。いつもこの状態でやらせるから。後で慰めてね。それじゃあ考えよう。まず、気付いたのはいつ?最後に数が揃っているのを見たのは?」
「昨日の昼に補充した時は有り、今日の昼にはもう有りませんでした」
「つまり、昨日の夜か今日の朝に無くなった訳だ。そして、破れ等による除外はないと?」
「はい、有りません」
「干し忘れとかは? 飛ばされたとかは?」
「植物園だと天候関係なく乾かせるので、そこに干してます。だから、飛ばされる事は無いですね」
「そうだよね。外に干す事はそうそうないから。それに基本2〜3人でやってるんだっけ?」
「掃除より洗濯が大変ですから。ユーリさんが用意してくれた洗濯機というマジックアイテムでだいぶ楽になりましたけどね」
洗濯機は、上下の叩き付けによる洗濯と遠心による脱水でなんとかなるものだった。
頑固な汚れは、手洗いが必要だが、それでもだいぶ楽になった様だ。俺も週一でやってるから勘弁してな。
「でも、ここの人数だと量が多くて、干すのが大変なんですよ」
「そっちは、流石に難しいんだよね。とりあえず、そっちは勘弁してくれ。エリスと考えた方法でも干す行程が必要だったしな」
「そうですか。でも、人数がいれば大丈夫なので気にしなくて良いですよ」
「分かった。さて、後は誰かが持っていた可能性だな」
「昨日、部屋を訪れた人は?」
「ミズキを除いては、モカとリゼ、エヴァ、それから彩音だね」
「彩音さんですね」
「うん、俺も言ってて思った。彩音だな」
「「匂いフェチだから」」
「でも、パンツは回収して洗濯籠に入れたんだよな……」
「その後、持って行ったのでは?」
「あり得るね。彼女に聞きに言って見るか?……鎮まったら」
ミズキの胸に俺の手が触れて彼女は悶える。
「んっ……一回だけですよ。まだ、する事が有るので」
ミズキから許可が出たので2人でニャンニャンとした後、彩音の部屋へと向かった。
「さて、今部屋に居ますかね?」
「待って」
ミズキがノックしようとしたのを俺は止めた。
「どうしました?」
「こういうのは、突然開けないと」
「……ユーリさんは、よくノックしませんよね?」
「うん、ワザと。だって、ノックしない方が面白い光景を見たり、ラッキースケベを見られるから。あっ、でも、人は選んでいるよ」
「選んでたんですね」
「リリスたちとかしないよ。ラッキースケベを見て、目に焼き付けようものなら襲われるから」
「そうなんですね……」
「それじゃあ、御開帳〜」
俺は、ニヤニヤしながらドアの取っ手を握り、バン!と勢いよく開くのだった。
「………っ!?」
「「………」」
部屋の彩音と目が合った後、バンと再びドアを閉めるのだった。
「あ〜っ、ミズキ。俺の気のせいかな?」
「……奇遇ですね。私もです」
「という事は、現実か……」
部屋の中では、彩音という鬼人族の美少女が全裸でベットに転がっていた。しかも、その手はシャツを抱き締め、襟元には顔を埋めていた。
「ユーリさんとミズキさん。いらっしゃい。何か御用ですか?」
浴衣に着替えた彩音が何事も無かった様にドアを開けて出て来た。
「少し部屋を調べさせて下さい」
「ん? 良いですよ」
彩音は、意外とあっさり許可をくれたので部屋に入る。
「このシャツは……」
「ユーリさんのですよ」
「おかしい……」
ミズキがベットのシャツを見ながら怪訝そうにしている。
「ミズキ、何がだ? シャツも足りない事か?」
「いえ、逆です。実は、足りているんです」
「はい? ここに1枚有るだろう?」
「そうなんですよ。だから、変だと思って……」
「それは、私が代わりを補充したからですわ。減ったままだと困ると思いまして。それに定期的に交換しないと匂いが薄れるんですよ?」
「「………」」
俺たちは、そこまでするのかと思ってしまった。
「今度、1日お風呂に入らずに寝てくれません。私も頑張りますので!」
「……考えておきます」
流石に、するとは言わない。ダンジョン内じゃないんだから。
「なぁ、単刀直入に聞くけど、俺のパンツがこの部屋に置いてあったりするか?」
「パンツですか? 無いですよ」
その後、ミズキが捜索したが俺のパンツは見つから無かった。
なので、昨日のメンバーに聞くことにした。
「彩音も探すのを手伝ってくれよ」
「私ですか? 良いですよ」
彩音もメンバーに加えて、パンツ探しを開始するのだった。
「あっ、モカ。ちょっと良いか?」
廊下で早速モカを見つけた。
「うん? お兄さんどうかしたの?」
「俺のパンツを知らないか?」
「えっ、何。その変な質問。知らないよ」
うん、俺も変な質問だと思うよ。
「ちょっと部屋を探しても良いですか?」
「部屋を? 別に良いよ。あまり物が無いし」
モカの案内で彼女の部屋に入る。
置かれた家具は初期のままで増えた様子が見られない。タンスの中もあまりなく、特に下着は壊滅的になかった。
「やはり、ここにも有りませんでしたね」
結局、モカの部屋からも出て来なかった。
「でしょ。ボクは行くけど、頑張ってね」
階段を登って行くモカ。チラリと見えたが、パンツを履いていなかった。
うちには、結構いるんだよな……。
その後、リゼやエヴァからも見つから無かった。
「見付かりませんでしたね」
「ねぇ、お兄さん。こっちは探したの?」
そう言ったエヴァは、自分のスカートをたくし上げ、パンツを見せてくれた。
黒の大人ショーツか……。この娘は、ことある毎に大人アピールをしてくるな。襲ったらどうする!
「っ!?」
リゼも恥ずかしそうにして見せてくれた。こっちは王道の縞パンだった。
フッ。当然、そっちもイケるぜ。王道最強!
「あっ、私。用事が……」
「待て」
俺は、逃げようとした彩音を捕まえた。今のやり取りで、俺も確認してない事に気付いたのだ。
「ミズキ」
「了解です」
ミズキは、俺の前で彩音の浴衣を捲った。
「「やっぱり!」」
彼女は、俺のパンツを履いていた。
「言い訳を聞こうか?」
「……ユーリさんの匂いを肌身離さず持ちたかったので」
「部屋にないか聞きましたよね?」
「聞かれましたけど、ちゃんと答えましたわ。置いていませんもの。代わりに履いていましたわ」
「屁理屈やん!」
「ちゃんと聞かないユーリさんたちが悪いのですわ」
「ユーリさん、お仕置きをお願いします」
ミズキの顔には怒りが浮かんでいた。
「あら、妊娠中の私に何かするお積もりですか?」
「確かに……」
性的なお仕置きもリリスたちの料理も赤ちゃんの為にするべきではない。
今の彼女は、実質最強じゃねぇ?
「……ミズキが良いって言うまでデザート抜きな」
「は〜い♪」
全く反省していないな。
仕方ないので、こっちが折れる事にした。
後日、彩音は予備のパンツを用意して補充した様だ。
ミズキは、それについて追求するのが馬鹿らしくなったらしく、彩音の罰を解除した。
こうして長かったパンツ紛失事件は幕を閉じた。




