彼女たちのその後
結局、身寄りのない元奴隷たちやイナホの母親を引き取る事になったので、妖精の箱庭に住人が増えた。
なので、元奴隷の娘たちには、悪魔族と一緒に農作業をして貰う事にした。
彼女たちは、元奴隷な事で悪魔族の歴史と似た所が多く意気投合し、いい感じに溶け込んできている。一部では、くっつくのではないかと思う程に仲の良いペアも出始めている。
恋愛は自由だ。止める気はないぞ。好きにしろ。
そして、イナホの母親なのだが、ここで暮らす以上は名前がないと不便なので付ける事にした。
「イナホからユーリ様は名前を付けるのが得意だと聞きました。なので、お任せします」
という事なので任されたが、名前を付けるのが難しい。
イナホと似た系列で探したいがなかなか思い付かなった。
色は、イナホと同じ毛並みだからダメ。他の見た目には、これと言った特徴がない。
「普通にイナホを大人にした様な姿なんだよな……うん?」
イナホを大人……稲穂は米の殻が付いた状態の事だ。米の銘柄で良いかな?
そういえば、有名な銘柄で女性っぽいのがあったな。え〜っと、確か……。
「コマチは、どうかな?」
「コマチですか?」
「ダメかな? イナホの系列で考えたんだけど」
ダメならタマモとか付けてみよう。イナホとは関係ないが、狐の女性といえばそれが思い付く。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。今日からそう名乗ります」
「了解。もし変えたくなったら何時でもいってね」
「分かりました」
彼女の同意も得られたので、イナホの母親の名前は『コマチ』に決定した。
「仕事は、イナホが管理してる神社を任せるよ。イナホは屋敷の掃除もあって大変そうだし。あっ、仕事着はコレね」
コマチさんにイナホと同じ巫女服を渡す。袴の途中にスリットが入っており、尻尾の出せる特注品だ。
やはり、巫女といえば狐だな。2人に巫女服が超似合う。俺は、2人を並ばせ撮影会を行った。
「あっ、そういえばそろそろ更新すべきだな」
元奴隷の娘たちの写真も撮影してペルツェ村に持っていく。
そして、掲示板に貼っていた写真に新しい物を添えて、彼女たちの名前と似た人に関する情報へ賞金を出す旨を書き記した。
獣人族の娘の物には、仕事で汗を拭い匂いの付いたハンカチも添えておく。これは他の人もやっていた。ここまですれば、写真からは分からなくても匂いで気付くだろう。
「あっ、ユーリ様」
振り返ると獣人族の親子が立っていた。
「え〜っと、確か……」
「ゾフィーですよ。そして、この子がゾラ」
「そういう名前にしたんだったね」
獣人族は、小規模な村住みならイナホたちの様に名前を付けない事も多い。
しかし、ここの様な大規模な村……もう町と言って良いのでは?
それ程に人が多い為、名前が必要となった様だ。後日訪れた時に皆が教えてくれたが、俺が付けた訳でないので覚えるのが大変だ。
「元気そうだね。ここでの生活はどう? 旦那さんの仕事は上手く行ってる?」
彼女の旦那さんは、この村に隣接する元クズノズク王国所有の炭坑で炭鉱夫をしていた筈だ。
「ええ、だいぶ馴染んできました。多くの人が同じ経験をしているので、連帯感も有ります。夫の方は、鉱石が安定して採掘出来るそうです。後、今の採掘量なら2百年程は大丈夫だとか」
「そうか。なら、大丈夫そうだね。子供の方は?」
指を咥えながらお母さんの手を握っている男の子。その子の視線に合わせる為にしゃがんで頭を撫でる。
「国からディオスムンド教の司祭様が派遣されていましてね。その方が私塾を開いて下さっているので、通わせています」
ディオスムンド教は、タナトス様たち狭間の者たちを祀る宗教だ。
ガイアスの爺さん曰く、開祖であったマレビトが神への感謝を込めて作ったと言っていた。
そして、それを考えた奴は、厨二病かなと思った。それと同時にしっくり来るなと思った。
確か、ディオスは神を表す言葉だし、ムンドは世界を表す言葉だ。
つまり、神の世界教。
狭間の神様たちを崇拝するのに、これ程ピッタリな言葉もない。
今度、寄附にでも行こうかな?
「しかし、子供たちの全員が父親と会えて良かったよ」
この子供以外にも4人程いたが、全員が無事父親に会う事が出来た。獣人族特有の身体の丈夫さが功を奏した。
「後は、彼女たちですね。見つかると良いのですけど……」
ゾフィーは、掲示板の写真を見る。
「そうだね。元いた村へ行くくらいかな?大体の場所は分かったから調べているよ」
一応、暇を見つけては転移で探しに行ってはいる。
「そうなんですか? お疲れ様です」
「ああ、頑張るよ」
その後、俺は親子に挨拶をして屋敷へと帰った。
「ユーリさん!」
「うおっ!?」
転移で屋敷の前に帰るや否や、イナホに背後から抱き着かれてびっくりした。
どうやら、神社の掃除中だったのだろう?
イナホの手には竹箒が握られていた。
「びっくりした〜」
「すみません!でも、ユーリさんにお礼を言いたくて!!」
「お礼? 何の?」
はて、何かお礼を言われる様な事をしたっけな?
「今回の救出クエスト。わざわざ私たちを指名して依頼を出した事です」
「………何のことかな?」
「さっき、ギルフォードさんが来ていて、その時に依頼主の名前を教えて貰いました。そしたら、シズって……この名前はユーリさんのですよね?」
やはりイナホも覚えてたか。こっちでは呼ばれる事が基本ないので忘れてると思って使ったんだが……。
そういえば、フィロも知ってたな。意外に皆知ってるのかも。
「しかも、他国の事に関与するので、多額のお金も払ったって!」
竜王国なら結構好きに出来るが、ベルトリンデではそうはいかない。
ギルさんに頼んで、向こうの冒険者ギルド経由でクエストを発注して貰い、奴隷商人たちの居場所を知らない騎士団に通報して貰った。
つまり、仲介料やらクエスト報酬金やらで結構掛かった。まぁ、報酬金は皆へのお小遣いみたいなものかな?
また、シズという依頼主は、俺なんだが形式上は向こうのギルドマスターになっている。
そして、成果は騎士団の物。俺たちは、サポートしたという形になっている。実際は、逆なんだけどね。
俺は、イナホを撫でながらどうしてそうしたかを言う事にした。
「イナホなら他人に任せるより自分で救いたいって言うと思ったからね」
自意識過剰ではないが、そこらの辺の騎士団より上手くやる自信が俺たちには有るからだ。
「うぅ……ありがとうございます」
「うん、それで良いんだよ」
俺はイナホを抱き締める。
「それに代金はイナホへの要望で返して貰います」
イナホの可愛さでそろそろ限界だったりするのです。
「今回は何を着ればいいんですか?」
流石、イナホ。あっさり受け入れてくれるよ。
「新しく俺が作った服……というか、下着」
エロさと可愛さのコラボ、猫ランジェリー!
「分かりました。今から着ますね」
「グッジョブ!」
俺は、昼間っからイナホとイチャイチャするのだった。




