ぺルツェ村
イナホとその母親は、抱き合って泣いている。それにつられて周囲では泣く者たちが増えて来た。
「イナホ。感動の再会を邪魔して悪いけど、それくらいにしようね。お母さんたちを治療しないといけないから」
「はっ!? そうでした!」
イナホは、ガバッと顔を上げて抱き締めていた手を離した。
「それにちゃんとクロエも紹介しないとね」
「そうでした」
「クロエ?」
「私とユーリさんの子供です!」
「えっ?ええっ!?」
イナホのお母さんは、目を白黒させている。
「でも、その前に治療をしないとね。談話室に置いてるポーションの入った治療箱を取ってきてくれるかな?」
「はい!」
「あと、誰かリリィを呼んできてくれないか? 治療を手伝わせたいんだよ」
1人で見るには、多過ぎる。鑑定しながら治療出来る者を増やそう。
「なら、私が母さんを呼んできます」
「すまん、リリス頼むわ。子供部屋に居ると思うから」
「分かりました」
イナホとリリスは、屋敷へと駆けていった。
「他の皆は、宴会用の椅子や机を並べてくれないか? 今日は、天気も良いし、ここで食事にしよう」
『了解です』
皆が動き出した所で、俺は神社の石段に腰掛ける。魔力的には大丈夫だけど少し精神を疲労した。
やはり、ここが一番落ち着くな。
どうして石段って落ち着くのだろうか?
何か、呪術でも掛かっていたりして。なんて事を思わなくもない。
「あの……私たちは……」
「少し待ってね。直ぐに椅子と机が来るから。何なら、一緒に石段に座っても良いよ」
俺は、彼女たちに薦めてみる。
「いえ、そこまでは大丈夫です」
「そうか……」
少し残念だ。同じ気持ちを実感してもらいたかったんだが……。
まぁ、椅子を持って来るのが見えているし、仕方ないよね。
「ユーリ君、来たわよ。治療するんでしょ?」
「おう、頼むよ」
「ポーションもお持ちしました」
椅子に座らせてゆっくりさせている間にリリィがやって来た。イナホもポーションを持って帰ってきた。
「さて、始めよう」
鑑定しながらの治療が始まった。
「思いの他、怪我が酷くないな」
売られる前の商品というだけあって、怪我が殆どない。重くてもストレスによる胃炎とかだった。
後は、奴隷刻印消し。
前にも思ったけど、どうして際どい所にしかないのかな?
イナホたちは、太ももとかだったけど、今回は質が悪い。
背中とかは良い方だったが、お尻とか胸とか……下手したら2〜3ヶ所押された人も居た。これは酷い。
エリクサーを付けた布を押し当てると消えるが、色々見えるし、触る事になった。
彼女たちの旦那さんもしくは、未来の旦那さん、すみません。でも、ちゃんとした治療なんで勘弁して下さい。
色々葛藤はあったものの治療は無事に終了した。
「さぁ、頑張って作ったんだ。遠慮なく食べてくれ」
久しぶりに、外へ調理台を用意して料理する。
治ったとはいえ、あまり食事を食べていなかったので胃に優しい物を用意した。
『美味しい……!!』
「それは良かった。皆も食べよう」
『頂きます!』
途中から家に籠もっていた悪魔族たちも出て来たので、自由にして良いと伝え参加させた。
夜ではないから酒は出さないが、一種の宴会の様になっていた。俺たちは、青空下で食事を楽しむのだった。
「さて、行くか?」
食事の片付けが終わり、皆が食後のデザートやお茶をゆったりと楽しんでいる所で言った。
「何処へですか?」
「彼女たちの身内がいるかもしれない場所」
「「「ホントですか!?」」」
俺の発言を受けて3人程席から立ち上がった。
「うん。また、転移門で行くよ。だから落ち着いて」
「「「……はい」」」
彼女たちは、ゆっくりと席に付いた。
「お兄ちゃん。そこはなんて場所なの?」
「ペルツェ村と呼ばれる場所だよ。先の戦争で国は滅び、多くの奴隷たちが解放された。
でも、帰る村は焼かれたりボロボロだったりしてもう無い場合が殆どだった。仮に、住んだとしてもまた襲われるかもしれない。
そこで、奴隷たちは集まり村を作ったそうだ。当然、ベルトリンデの協力の上でだ。
だから、今ではクズノズク王国に虐げられた者たちの集まる拠点になっていてね。中央に人探しの掲示板がある程だ。だから、誰かしら身内が見つかるかもしれないという訳なんだ」
「へぇ〜、そんな村があるなんて知らなかった」
「お兄ちゃんは、どうしてそんなに詳しいのです?」
「あ〜っ……それはね……」
「ご主人様」
俺が言い淀んでいると隣にギンカが転移で現れた。
「ギンカお姉ちゃん! 何処かに行ってたの?」
「そういえば、さっきのクエストで見なかったのです」
「ちょっと別件をご主人様に受けていました」
「それで、大丈夫だった?」
「はい、問題なく集合させています」
「そうか。なら、皆移動しよう」
俺は、席を立ち、ペルツェ村行きの転移門を作成した。
「よし、通って良いよ」
俺の合図で皆が転移門をくぐるのだった。
「貴方!」
「あぁ、無事で良かった!!」
「ただいま!ただいま!」
「お帰りなさい!」
俺の前では多くの人たちが再会を喜びあっている。
事前に、ギンカへと頼んで奴隷だった人たちを連れて行くと村へ連絡していたのだ。
だから、連れて行った瞬間、再会のラッシュが起こった訳だ。そして、その中には、ある親子たちもいた。
「娘がっ!娘が帰ってきた!あぁ、こんなにも大きくなって!!」
「この匂い間違いないわ!無事だったのね!!」
「お父さん!お母さん!よがっだ!!いぎでたよ〜!!」
泣きながら再会を祝福し合うフランたちの家族。
「お前は、変わらないな。愛しい娘よ」
「いつか会えると信じて生きていて良かったわ……。お帰りなさい」
「ただいまなのです!」
それは、ユキたちの家族も一緒だった。
「君には感謝を!掲示板に我が娘の絵を張ってくれなきゃ、出会え無かったよ!!」
フランの父親がお礼を言ってきた。
「お兄ちゃんが?」
「あぁ、ずっと前に数人で訪れた時に掲示板へ絵を張ってね。それから定期的に結果を見にきてくれてたんだよ」
「あ〜っ、その、なんだ。家族が生きている可能性があるなら探すべきだろうと思ってな。でも、イナホの父親はいなかったな。フィーネの親も」
フィーネは、本来ここら辺の種族じゃないから居ないと思ったが、イナホの父親は居ると思ったんだけど……。
「お父さんなら幼い頃に亡くなってます」
「えっ、マジ?」
「ちょうど流行り病に掛かってしまって。貧しい事や医療が進んでいない国でしたので、薬が手に入らず亡くなりました」
イナホのお母さんが詳細を説明してくれた。
「ごめん。知らなかったとはいえ、2人に嫌な思いをさせて」
「いえ、大丈夫です」
「無いものより有るものの方が大事ですから。それに思い出に捕らわれて今が見えなくなってはいけませんからね」
「そうですか」
イナホのお母さんは、娘に似てしっかりした人の様だ。
「さて、掲示板に写真を貼って帰ろうか」
身内に出会え無かった者たちが3人居たので妖精の箱庭に連れて帰る事にした。
イナホのお母さんは、娘と居たいそうなので、当然連れて帰る。
フランたちの両親は、ここでの生活が有るそうなので、残る事にした様だ。なので、フランたちをどうしようかと思ったら、俺のお嫁さんだからちゃんと屋敷に帰ると言ってきた。
だから、両親へ再訪の挨拶をし、投函のマジックアイテムを置いてきた。これで小まめに手紙による連絡が取れるだろう。
……大人だから字が読めないとかないよね?
今度、再訪した時に確認する事にした。




