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とある獣人族の女性

 とある奴隷商人の奴隷たちを監禁する部屋。


 ここでは、主に女性たちが監禁され、片腕を壁の鎖に吊るされてる。片腕は自由だが、代わりに片足へ重りを繋がれていた。


 また、男も居なくはないが、せいぜい年端もいかない幼い子たちだけだった。


 その為、商人たちは、女を慰み者にしようとここへやって来る。今日もかと覚悟を決めた所で、今日は違った。


 突然、ドドドドッンという連続した爆発音と共に建物が揺れたのだ。


「何の騒ぎだ!?」


 天井からパラパラと埃が降りしきる中、私を今から弄ぼうとしていた太っちょの男が仲間に問いかける。


「分かる訳ないだろ!ここで、お前と一緒に女たちを犯そうとしてたんだから!!」


 部屋にいる男たちにもこの状況が分かっていない事が伺い知れた。


「はぁはぁ……おい、襲撃だ!表に騎士団の旗が見えるぞ!!」


 男が荒い息をしながら部屋に走り込んできた。彼は、ドアに手を付きながら現状を知らせる。


「あの様子じゃ、俺たちは囲まれてる。だから、強行突破で逃げる為に皆入口へ集まってるぞ。奴隷たちは放っておいてお前たちも来い」


「分かった!今からいーー」


「あちゃ〜、まだ敵がいたか」


「ぐわぁ!?」


 突如湧いた声の主に、ドアに手を付いた男は吹き飛ばされた。


「あぎゃっ!?」


 その後、その者は何かを投げ、男を壁に縫い付けた。そこで投げた物が細い剣だという事が分かった。


「おっ、お前は一体!?」


 声の主は、ローブを身に纏った男性であった。今のいざこざで部屋の薄明かりが一部消え、顔がよく見えない。


「ここで名を明かすバカはいないよ。それでは、蹂躙せよ!」


 ローブの男の指示を受け、彼の背後からは同じローブを身に纏った者たちが数人現れた。その者たちは、部屋に居た男たちの頭を残し、次々と氷漬けにしていく。


「ひぃい!? よっ、寄るな! この奴隷がどうなっても良いのか!!」


「ちょっ、止めて!?」


 太っちょの男が、私の首に手を回し腰の短剣を胸に当てた。


「ママから離れろ!!」


 声からローブを着た者の1人が少女だという事が分かった。その者が私をママと呼び駆けてくる。


 私の中には、1人の娘が思い浮かぶ。


 それは、奴隷商人たちが村を襲う前に、行方不明となった私の娘だった。


 しかし、彼女からは、匂いが無い。また、顔が隠れており、確認する事が出来ない。


「イナホ。彼女は任せろ。好きにやれ」


 ローブの男は、少女を追い越し駆け込むと私のお腹に手を触れた。


「お前っ、あれ程近付くな……とっ!?」


 不思議な現象が起こった。


 私を捕えていた筈の男がいつの間にか視線の先にいた。


 そして、私の目にはローブの少女の背中が大きく見えた。


「アブソリュートゼロ!」


 少女の手に持つ武器から放たれた魔法が、太っちょの男を氷漬けにした。しかし、効果はそれだけでなく、太っちょの男は氷の結晶となり砕け散っていった。


「あっ、ああっ!?」


「ひぃい!? 殺さないで!!」


 それを見て、他の氷漬けにされた者たちは怯え出した。


「片腕が壁に拘束されたままじゃ、辛いだろ?」


 男が剣を一閃すると壁の鎖たちが同時に斬れた。


「足にも有るのかよ。逃げるのに苦労するから斬るか。え〜っと、何処だったっけ?鎖切りは……あった」


 男が虚空で何やら操作すると大きめのハサミが2つ出てきた。


「イナホは、魔法の刃で鎖を斬れるか?」


「大丈夫です。出来ます」


 私をママと呼んだ少女は、手の武器に刃を出現させた。


「よし、これはフランたちが使ってくれ」


「了解」


「了解なのです」


 声が幼い事からその子たちも少女なのだろうか?


「それじゃあ、手早く終わらせよう」


 ローブの者たちが次々に鎖を切断していく。おかげで、手足に少し残るものの自由となった。


「ここに他にも奴隷はいるのか?」


「いえ、いません。今は、昼間なので奉仕の時間はありませんし、男たちは労働場に輸送されるので……」


「それじゃあ、君たちは?」


「ここにいる者たちは、商品か育児の必要な子供です」


「なるほどね。……よし、全部切り終わった。それじゃあ、皆で逃げよう」


『はぁ?』


 驚いている私たちを尻目に、ローブの男が手をかざすと突如扉が出現した。扉の先には、外の景色が広がっている。幻術か何かだろうか?


「ほら、速く」


 いの一番に扉をくぐったローブの男がおいでと手招きをする。私たちは、現状がよく分からないものの、それに従い扉をくぐり抜けた。


『えっ……?』


 その先は、ホントの外だった。裸足故に足の裏から土を踏む感触がよく伝わってくる。


 また、視界の先では、建物を騎士団が包囲していた。


 そして、扉はローブの者たちが部屋を確認し、全員が通り抜けたのを最後に消えていった。


「あっ、ユーリたちお帰り!」


 私たちの元へローブを身に纏った青髪の少女が駆けて来た。ローブの男は、ユーリと言うらしい。


「こっちは、終了したよ。そっちは?」


「何時でも終わらせれるよ」


「なら、一気に終わらせよう」


 ユーリと呼ばれた者は、口元に手を添えて叫んだ。


「ダ〜フ〜ネ〜、よろ!」


 それを合図に地面がゴゴゴッと鳴動し変化が現れる。


『なっ!?』


 突如、地面から現れた根たちが建物を飲み込んでいく。


 そして、建物の周囲には実った果実の様に拘束された者たちが逆さに吊るされていた。


「ネギル〜、後は任せて良い? 奴隷たちを治療しに連れて行きたいんだけど」


「はい、大丈夫です!お任せ下さい!!」


 ユーリの言葉にネギルだろう騎士が応えた。


「よし、移動しよう。明日、騎士団に行くから頑張れよ!」


「はい!」


 騎士の返事を受けて、ユーリはまた扉を作った。今度は、素直にくぐる。


 出た先は、大きなピンク色の花が咲き誇る大木の下だった。


 周囲には、大きな屋敷と家々が目に入る。何処かの領主が治める村の様だ。


「ママ……」


 私をママと呼んだ少女が、フードを取り抱き着いてきた。


「あぁ……貴方は!?」


 今度は、顔がよく見えて、匂いも伝わってきた。それは、懐かしさを呼び起こす。数年前には当然私の側にいた愛しき存在。


「私の娘……」


 娘を抱き締めると辛い奴隷生活で忘れた筈の涙が溢れるのだった。


「イナホちゃん、良かったね!」


「はいなのです!」


 娘の後では、同じローブを身に纏った娘たちが貰い泣きをしていた。どうやら娘は良い場所を見つけたらしい。


「お帰りなさい、ママ」


「ただいま……イナホ」


 私は、先程呼ばれていた娘の名前を呼ぶ事にした。同時にそれは初めてする行為で恥ずかしくなった。


「うん!」


 私は、娘の満面の笑顔に包まれるのだった。

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