チョコレートの日
今日は、チョコレートの日。街では、チョコレートの香りがあちらこちらで漂っていた。
そして、それは妖精の箱庭でも同じだった。
俺は、朝からチョコレートラッシュの攻撃を受けている。
「ユーリさん、どうぞ」
「ありがとう、マリー!」
マリーがくれたのは、チョコレートの表面を飴でコーティングした物だった。キラキラしていて綺麗だ。
「私たちからもどうぞ」
「ありがとう」
リディアたちからは、合作の生チョコを貰った。
「あれ、リリスは?」
「『私を食べて』の実験の犠牲になりました」
「今、火傷の治療をしてからお風呂に行ってます」
「あっ、うん。なんか分かった」
たぶん、湯煎したチョコレートを直接身体に付けたんだろう。
湯煎したチョコレートは、高温になる為、直接肌に付けると火傷する事が有るのだ。
「火傷は、大丈夫なのか?」
「エリクサーで完全治癒させました」
「なら、問題ないね」
ちょっと経験してみたかったが、嫁の身体の方が大事である。
「それと母さんが、チョコを持って夜に来るそうです。また、今日の夜は、私が貰うわねだそうです」
「了解。空けておくよ」
その後、フィーネたちからも色々なチョコ関連のお菓子を頂いた。
「俺とアイリスからは、これだよ。平穏なる小世界内で作ってきた」
「昨日、屋敷の厨房に来なかったのは、そういう事なんですね」
前日、皆が屋敷の厨房で俺宛のチョコレートを作っていた。
お互いに交換するものなので、俺も作ろうと思ったが流石にそこで作業する気になれなかった。楽しみも減るしな。
そこで、平穏なる小世界の厨房へ移動して作る事にしたのだ。
「ユーリ、焼き上がったよ」
アイリスがオーブンから出来たものを持ってきてくれた。
「やはり、これなら問題なさそうだな」
俺の前では、オーブンから取り出したプレートに大量の棒状をしたビスケットが並べられていた。
「よし、後はチョコレートを半分纏わせるだけだな」
これに、チョコレートを纏わせれば、皆がお馴染みの『ポッキー』が完成する。
「ビスケットをこの細さにするのに苦労したわ」
最初は、手でこねて細くしてみた。しかし、生地の太さが均一にならず、細いビスケットは完成しなかった。
仕方ないので諦めていたら、昼飯を作る時に閃いた。
「今日の昼飯は、パスタにしよう」
昼飯の準備の為、パスタの生地を機械に掛けて押し出された細麺を適度な長さで切っていたのだ。
それを見た俺は、ビスケットでもイケるのでは?と思った。
そこで、ビスケット生地を同じ機械に掛け、短く切って焼いてみた。その結果により望む太さを実現する事が出来た。
「チョコレートを湯煎して……」
ビスケットスティックを持って、湯煎したチョコレートに持ち手を残して漬ける。
終わったら並べて冷蔵庫へ。これは、チョコレートをはやく固めたいからだ。自然に固まるのを待っても問題ない。
「お店の方にも出すの?」
「ああ、明日から販売する予定だよ」
現在、セリシールでは、休みの子たちにも協力して貰い、大量に作成中だ。他にも生チョコやケーキを販売する予定になっている。
「完成したらやってみたかった事があるんだよね」
「ナニナニ?」
「ちょっとしたゲームさ。明日やろう」
という事があって現在なのだ。
「それじゃあ、ポッキーゲームをやります」
やりたかった事とは、宴会でお馴染みのポッキーゲームだ。
「ポッキーゲームとは?」
「それじゃあ、ルール説明するよ」
ポッキーゲームとは、知っての通り2人がポッキーの両端をくわえて同時に食べ進むゲームの事だ。
このルールには、実は、明確なルールが存在しない。
だが、一般に遊ばれているルールを総合すると、次のようなものが挙げられる。
2人で行う場合。
2人が向かい合って1本のポッキーの端を互いに食べ進んでいき、先に口を離したほうが負ける典型的なパターン。お互いが口を離さずに食べ切った場合は、そのまま2人でキスをする。
複数人で行う場合。
これには、複数通り存在するらしい。
まず、2人で食べ進み、ポッキーがある一定の長さに達した所で、2人のうちどちらかが別の人に交代する。そうしてポッキーが食べ切られたときに残った2人はキスをするパターン。
または、チームに分かれ、目をつぶって上記のルールを行い、終了時のポッキーの長さが、最も短いチームが勝ちとなるパターン。途中で折れた場合や、唇が触れた場合は負けとなる。
「なので、短い方が勝ちというルールでチーム戦をしてみよう」
「2人で行いキスするパターンだけで良いんじゃないですか?」
「ああ、それな。アイリスやギンカとやってみたんだよ。とりあえず、見れば分かる。アイリス」
俺は、ポッキーを口に加えてアイリスの方へと向ける。
「パクッ。カリカリカリカリ♪」
それは、物凄い速さでアイリスの口へ飲み込まれる。俺は、ポッキーを落とさない様に維持しつつアイリスに近付いていく。
「んちゅ」
「んっ。……なっ?」
無事に食べ終わりアイリスとキスをした。
「ギンカの場合だとな……」
「パクッ。ちゅるん♪ んちゅ!」
ギンカにポッキーを向けるとストローで吸うかの如く飲み込まれてキスに繋がる。
「吸うのは有りなんですか?」
「これでちゃんと噛んでるんだよ」
「ちゃんと咀嚼してるよ」
「という訳で、キャンディキスみたいな変わったキスってだけになりそうなんだよ。だから、あえて残すのさ」
ポッキーゲームによるチキンレース。
これは、アイリスたちとやると面白くなると思ったのだ。だって、最近こういうイチャイチャしてなかったしね。
「さて、やろう。あっ、魔力感知は無しね」
魔力感知だと長さを確認出来る事は、事前に確認済みである。
「勝ったチームには、報酬のデザートを用意してます。チーム選びも重要だからね」
各自ペアを作ってやってみた。
「あっ、折れた!?」
「おっ、落ちっ!?」
意外に折れたり落ちたりする者が続出した。
「んんっ!?」
「あっ、食べ過ぎちゃった」
女の子同士がキスするシーンを沢山見れた。なんか見ていてエロいね!
そして、俺と組む子の場合は。
「カリカリカリカリ! んちゅ!」
「んんっ……ワザとキスに走ってない?」
「これは、ただのミスですよ!」
何故か、相手が変わろうとも結局キスで失敗に終わるのだ。
「優勝は、フィーネとミズキのペアに決定」
2人は、相性が良いのか? 一度もミスる事がなく、短いポッキーを量産した。
「次は、私とやりましょう」
「私もお願いします」
その後、ポッキーが尽きるまで嫁たちとイチャイチャしたのだった。
そして、夜。リリィからもチョコレートを渡される。
「召し上がれ♪」
渡されたのは、リボンの巻かれたリリィ自身だった。娘と同じ発想ですね。
褐色肌をチョコレートに連想と思ったが、よく見ると違っていた。リリィは、ボディペイントならぬチョコレートペイントをその身に施していたのだ。
「どうやって!?」
同じ事に挑戦して火傷したリリスが驚愕した。
「あら、まさか。普通に湯煎したものをつけたとかじゃ無いわよね? 火傷するわよ?」
リリィ。娘さんは、既に火傷しましたよ。
「人肌まで冷まして筆とかで塗るのよ。後、普通のチョコレートだと乾いてパリパリになるからクリームを加えて、チョコクリームにして纏うと出来るわ」
なるほど、それなら熱く無いし、ある程度粘度もあるな。
「では、頂きます」
そして、長い夜をリリィたちと過ごしたのだった。




