閑幕 ユーリの居ない妖精の箱庭
ユーリが和国にて女装したり、如月とイチャイチャしたりしている頃、妖精の箱庭では。
「な・ん・で! グレイたちは呼んで、私たちは呼んでくれないのですか! ユーリさん!」
リリスが、怒りの丈を農作業にぶつけていた。
そんな彼女に対して、畑の側に設置された休憩スペースからリディアが諭す。
「仕方ないですよ、姉さん。私たちには、子供たちの世話という仕事が有りますし」
「しかし……大規模な戦闘をしたのですよ?」
「たぶん、フィーネさんたちに経験を積ませたかったんですよ。それと危機感ですね。昔と違い、ここは平和ですが、いつ何が起こるか分かりませんしね」
「ううぅ……」
リディアの言葉は、尤もだとリリスは思った。
冒険者をしなくても生きていけるだけの収入や恵み、技術があるが、殆どの者たちが冒険者登録をしている。
それは、常に何が起こっても良いようにする為だ。
自分の力を磨くのもそうだ。世の中には、力でしか守れない事もあるのだから。
「とりあえず、姉さんは、リリカとリズにご飯をあげて下さい。そろそろ、お腹を空かせて泣きますよ」
「そうですね。催促される前にあげましょう」
リリスは、休憩スペースに移動して、リリカから授乳を始めた。
「良いですね。赤ちゃん。私も欲しいです」
空を飛びながら、畑の側に植えてある果樹を剪定していた皐月が休憩スペースに降りてきた。
「貴方も直ぐですよ。なんなら、妊娠薬をユーリ様に貰ったらどうです?」
「あっ、それは、ユーリ様が帰って来たら今回の報酬でくれるそうなんです。貰ったら直ぐにでも使おうかな? ティアも認めてくれたし」
「それは、良かったですね」
「報酬といえば、ある伝言をユーリ様から預かっていたんでした」
「伝言とは何ですか、皐月?」
「留守の間も家の仕事をしっかりしてくれたらご褒美として、2人っきりで『好きな場所への日帰り旅行』か『平穏なる小世界内で1日新婚生活』の好きな方をあげるって言ってましたよ」
「それを、早く言いなさいよ!」
「早くも何も、いつも通りやれば問題無いのでは?」
「そうですよね? だから、つい忘れちゃってたんですけどね」
仕事をサボる者は、妖精の箱庭には居ない。
理由は、人数が増えた事で各自の仕事量がそもそも少ないのだ。また、給与も良く、ボーナスも定期的に出るので誰しもやる気に満ち溢れている。
「ですが、退屈ですね」
「良いじゃないですか、退屈で。平和な証拠です」
「それもそう……」
ドカーン!という激しい音が、試験場から鳴り響きリリスたちの所まで轟いてきた。
「……リリンですかね?」
「……たぶん」
「今度は、何をやらかしたのでしょうか?」
「音の感じから粉塵爆発でも起こしたのでは?」
「……ユーリ様。後で修理が大変そうですね」
「一部屋で済むことを祈りましょう」
農業試験場にある壊れた部屋にて。
「しっ、死ぬかと思った!?」
そこには、青褪めたリリンが立っていた。
「まさか、粉塵爆発を起こすなんて!どうしよう、この部屋! ユーリさんに怒られ……一部屋ならセーフか。壊れた物は、仕方ない」
開き直るリリン。でも、もし、ユーリが居たらセーフじゃないからとツッコミを入れるだろう。
「しかし、上手くいかないな」
ことの始まりは、ユーリの言葉だった。
「製粉とか、刻印を使った簡単な方法が有れば良いのにな」
その言葉を受けて、魔法刻印を使った実験を行っていた。
その結果、竜巻を使った製粉に成功。
しかし、リリンは粉末になっても止め無かった。その為、粉末が熱を持ち引火して粉塵爆発が起こったのだ。
「風除けがあったのも運が良かったよ。さて、次は、何をしようかな?」
リリンは、ニコニコしながらイタズラもとい実験を再開するのだった。
屋敷内廊下にて。
「ミズキさんは、行かなくて良かったんですか?」
「私は、昔王族でしたからね。騒ぎになっても困りますから」
ガーネットとミズキが談笑しながら掃除していた。
「分からなくはないですが、流石に和国は大丈夫では?」
「当時、和国は一番の貿易相手国だったんです。和国の装いは、小人族の技術と相性が良かったですから」
「そうなんですか。知りませんでした」
「それに、この髪の色は意外と目立ちますし、既存の染め薬だと痛むのでちょっと……」
「ユーリ様にお願いして、作って貰うのはどうです? たぶん、楽しみながら作るんじゃないでしょうか?」
「あまり迷惑を掛けたくないのですが……」
「そのくらい甘えても良いのでは? たぶん、ユーリさんも喜びますよ」
「……少し考えておきます」
穏やかな空気が流れる妖精の箱庭。
しかし、一部では狩る者と守る者の争いが起こっていた。
「ユーリ君がいない、今がチャンスだと思うのよ!」
「だ・か・ら、ショタは犯罪だって言ってるでしょ!!」
正しくは、アフロディーテとエロースの母娘対決である。2人の間では、火花でなく魔法が飛び交うのだった。
「大丈夫よ! 愛さえあれば問題無いわ! ローシュ君とは、相思相愛だもの!!」
「大人の色香で惑わしてるだけでしょうが! いたいけな少年が、ヤリチン男にでもなったらどうなるのよ!」
「その時は、責任を取って寝るわ!」
「結局、同じじゃん!!」
2人の言い争いに合わせて、魔法戦も激化していくのだった。
ユーリが帰って来るまで、およそ後3日。
エロースは、ローシュの貞操を守りきれるのだろうか?
「ねぇ、ロギアお兄ちゃん。お姉ちゃんたちは、何を言い争っているの?」
ローシュの純粋な瞳が、エロースの付き添いで来たロギアを見る。
「……大人の階段を登る話だよ」
はっきりと言えないので、ロギアは誤魔化す事にした。
「ローシュ。困った事があったら、俺に言うんだよ?」
「うん? 分かった!」
「それじゃあ、向こうで模擬戦しようか。強くなりたいんだろ?」
「良いの!? よろしくお願いします!!」
ロギアは、とりあえずアフロディーテからローシュを引き離す事にするのだった。




