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クーデターの鎮圧

「チッ! 間に合わなかったか!!」


 隣から騎士団長の舌打ちが聞こえて来た。


「予想出来た事です。討伐は、こっちでするので、封印を解いた馬鹿たちをお願いします」


 ユーリの視線の先では、洞窟の上に立つボロボロの翼竜の姿が見えていた。ただし、封印されていただけあって全長15m程の巨体だった。


 名称:クラプドン

 危険度:S+

 説明:腐乱死体の様な体表をしており、瘴気を纏っている。見た目はボロボロだが、飛行能力を有する。また、死肉を吸収し成長し、聖属性でしか殺せない。


「これは、瘴気で死んで吸収されてるかもしれないな」


 瘴気は、アンデット系に付きもの。俺たち冒険者や騎士団は対策をしている。


 しかし、封印を解いた者たちは、正規の解除法を知らない様な無知者たちなので瘴気をくらい死亡。もしくは、ゾンビ化しているかもしれない。


「おや?」


 鑑定結果による耐性を確認して驚いた。ホントにどの属性の耐性も持たないのだ。


 なら、聖属性しか効かないというのはホントという訳か。


 聖属性の魔法を行使出来る者というのは、どの国にもそうそう居ない。大抵が付与されたアイテム等を使っている。


「不味い!? 奴が飛び立つぞ!!」


「目視出来たので何とか出来ますから安心して下さい。フィーネ、フラン、ユキ。ちょっと銃を貸して」


 彼女たちから銃を受け取り弄る。理由は、彼女たちの魔力が少ないからだ。


「よし、これで魔力を込めなくても引き金を引けば撃てるはずだ。ただし、魔法が出なくなったら込めてくれよ。そしたらまた撃てるから」


 彼女たちの銃に魔力結晶を取り付けた。魔力結晶は、魔法発動の媒体になる。


「俺が奴を細切れにして落とすから聖属性で撃ちまくれ!」


『了解』


「それじゃあ、作戦開始」


 飛んだ瞬間を狙って、クラプドンの背後に転移した。そこから両羽を斬り落とし、本体を4つ切りにする。


『はぁっ!?』


「お〜い、もう撃っていいぞ〜!」


 クラプドンと共に落ちながら皆に指示を出した。


「撃て〜!」


『お〜っ!』


 アイリスの指揮を受けて、射撃が始まった。俺は、空中に障壁を張り、上から射撃する事にした。






 クラプドンの完全討伐には、1時間を要した。


 理由は、少量の肉片からでも寄り集まり復活しようとする性質があった為、何度も何度も射撃して完全消滅させる必要があったのだ。


 俺が、聖属性の大規模魔法でも使えれば早かったが、知らないものは仕方ない。帰ったらエロースかルイさんに習うとしよう。


「では、今から帰還させますので手筈通りに」


「あっ、ああっ……」


「……ホントに大丈夫ですか?」


 俺たちが、クラプドンの討伐をする間、団長を含めた騎士団員たちの表情が硬直した上、動けずにいたのだ。


「もっ、問題ない」


「そうですか? なら、用意しますので、隊列を組ませて下さい」


「分かった」


 騎士団長の指示で直ぐ様並んだのを見て、正面に転移門(ゲート)を作成した。


「では、お願いします」


「皆の者聞け!現在、我が国内では大規模なクーデターが起こっている。我らが本部も制圧されているだろう!」


 ざわざわと騎士団員たちが蠢き出した。


「なので、本部を奪還する。この門を通り、本部へと奇襲をかけ、囚われている者たちを救出する。潜った瞬間、友が敵になっているかもしれぬ。気を引き締めよ。総員行動開始!」


 決着は、直ぐ着いた。


 人数差が有り過ぎた為、本部が取り囲まれるや否や降伏したのだ。


「蒼月さん」


「なんでしょう、ユーリさん」


「はやく決着が付いたので、他の場所の応援に行きます。なので、冒険者ギルドをお願いします。今、うちの者が結界に封じ込めていますので」


「なるほど。冒険者ギルドには、一部隊を差し向けましょう。ご武運を」


 ここから俺たちは、二手に別れる。


 俺は、アイリスやイナホ、卯月といった戦力を連れて王宮へ向かう事にした。


 ギンカには、フィーネたちを連れて危険の少ない迎賓館や商会ギルドへ順番に行って貰うことにした。






 王宮正面まで転移して城内に駆け込んだ。場所は、分からなかったので、魔力感知しながら移動する。


「ユーリ! 睦月さんを見つけた! 右のずっと先!」


 アイリスのいう方角を魔力感知すると睦月さんの姿がはっきり見えた。認識できたので、転移する。


 辿り着いた場所では、傭兵たちと冒険者たちが殺り合っている。睦月さんは、豪華な着物を着た人を中心とした数名を守り防衛戦を強いられていた。


「睦月さん、助けにきたよ!」


 睦月さんを攻めていた者たちを倒し、アイリスたちと警護する。


「ユーリさん!」


「ほう、この者が……」


「助かります! 予想に反して均衡していたので!」


 周りを見渡すとどこもいい感じに均衡していた。


「睦月さんに提案。俺に一気に制圧する手段が有るんだけど。ただ、味方をちょっと巻き込む可能性があるんだけど」


「う〜ん、それは……」


「我が許可しよう」


「和王様!?」


 あっ、やっぱり。服装からそんな気はしていた。


「このままでは、浅虫たちが逃げかねない故な」


「上の人の許可も出たしやるよ。良いよね?」


「……お願いします」


「よし! ふう〜……」


 目を閉じ呼吸を整え、対象を意識する。そして、宣言する。


「英雄覇気!!」


 室内の空気がドクンと脈動した。


 そして、傭兵たちは、気を失い倒れ伏す者と恐怖に顔を歪ませる者に分かれた。冒険者の方は、……どうやら被害はないらしい。上手く行った様だ。


「だいぶコントロール出来る様になったみたいだわ」


「英雄覇気だと!?」


 和王が凄く驚いた顔をしている。


「ご存知でしたか」


「直接目にするのは初めてだが、先々代が使っていたと聞く」


「そうなんですか? その話詳しく聞いてみたいですね。俺自身、この能力を完璧にコントロール出来ていないので」


 今回は上手く行ったが、次も上手く行くとは考えていない。


「(ご主人様)」


 おっ、ギンカからの念話がきた。


「(どうした? 問題でもあったか?)」


「(いえ、逆です。無事全ての制圧が終わりました)」


 どうやら、ギンカの方も終わったらしい。


「(迎賓館では、敵に同情する程の悲惨さでした。クーデターの終了を告げた瞬間、土下座の上、泣いて感謝されました)」


 マリーさん!? 貴方、大使たちの暴走を止めに行ったんだよね!? まさか、一緒に暴走してないよね!? ねっ!?


「(冒険者ギルドでは、少し抵抗されましたがグレイたちと騎士団が協力して鎮圧しました)」


 良かった。ここは、普通の……。


「(なお、グレイたちにより手足の欠損者が多数出た為、騎士団が急ぎ治療を行っています)」


 ……あっ、うん。グレイたちがやったのね。


「(問題の商会ギルドは?)」


「(現在、宮廷魔道士たちが証拠の押収をしています。行った時は、用心棒や商人による激しい抵抗が行われていました。その為、宮廷魔道士の半数が戦闘不能になったので、私が敵を全員気絶させておきました)」


 えっへん!と胸を張っているギンカが目に見える気がした。


「(そっ、そうか。そのまま、サポートしてやってくれ)」


「(了解です)」


「睦月さん。ギンカから連絡受けました。全部制圧が完了したそうです」


「あっ、そうなんですか?」


 俺とギンカが喋っている間、睦月さんは敵を縛りあげていた。意外に手間取っているみたいだったので、アイリスにお願いして糸で縛って貰うことにした。


「なら、如月たちと合流して貰えませんか? 首謀者の屋敷に踏み込んでいるので」


「あっ、道理でここに居なかったのか!」


 王宮に行くと言ったのに、来てみれば居なくて不思議に思っていたのだ。


「マーカーは……渡したよな? 行くか」


 アイテムを起動して転移すると立派な大名屋敷に辿り着いた。内部から如月と弥生の気配がしたので、無断で入る。


「おっ、いたいた。何してるの? こっちは全部終わったよ」


「あっ、ユーリさん」


 如月さんたちは、座敷牢の前に集まって何かをやっていた。牢の内部には、数人の少女が見えた。


「彼女たちを解放しようと術式を解析しています。彼女たちは、良家の娘で人質として浅虫に監禁されていました。その為、鍵は浅虫だけが持ち、牢には厳重な魔法が幾重にもかけられていました」


「なら、俺が壊すよ。離れて」


 皆が座敷牢から離れたのを確認して、フラガラッハで斬り刻んだ。


「これでよし。術式ごと切ったからペナルティがあっても消えてるはずだよ。他に困った事はある?」


「たっ、助かりました。他は、大丈夫です」


「じゃあ、マリーを迎えに行くから、後は任せたよ。頑張ってね」


 そして、色々あったクーデターは1日で収束したのだった。






 後日談。


 浅虫と華族派の長たちは、クーデターを起こした罪により死罪。複数の悪行や監禁されていた娘たちの証言が有り、刑が確定した。


 しかし、彼らの一族に関しては、お家取り潰しを免れた。


 理由は、今回の件を受け内部から瓦解した為だ。本家は多くの罪人が生まれ、分家は離縁する者が多数出るなどした事で力を失った。なので、温情を受け取り潰しは無くなったらしい。


 商会ギルドでは、役員の総入れ替えが行われた。


 役員の多くが、クーデターに関与した罪で騎士団に逮捕された為だ。その結果、役員の席の多くは空席となり王侯派の者たちが付く事になった。


 竜王国の貿易交渉では、この影響を受け商会ギルドの介入が無くなり、上手く進んだ。これには、大使たちも大変喜んだ。


 こうして、和国にまた平穏な日々が戻るのだった。

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