クーデター 騎士団本部と冒険者ギルドの場合
和国某所、騎士団本部にて。
「団長! 冒険者ギルドより魔物討伐の救援要請が来ています!!」
「何っ!? あの噂は、本当だったのか……」
部下の報告を受けた和国の騎士団長である蒼月には、ある噂が浮かんだ。
『冒険者ギルドが、サーペントトータスの討伐で多大な犠牲を出した事を隠している』
巡回中の騎士が小耳にし、騎士団内でも広がっているので、その噂はここにまで届いていた。
「また、魔物討伐のスペシャリストであるSランク冒険者チームが派遣されています。主に、その者たちのサポートを頼むとの事。ギルドマスターである睦月様の書簡も持参しておりました」
「書簡? 見せてくれ」
「それが、団長にしか見せれないとの事。同行者として、如月殿がいる為、代理は出来そうに有りません」
如月殿が来ている?
彼女は、睦月様の御息女で有り、冒険者ギルドの要職に就いているので、各所に顔が知れ渡っている。
しかし、それらの理由により睦月様から離れ行動する事はあまり無い。
「……分かった。会って直接確認しよう」
蒼月は、如月たちに会うことにした。
部屋に入ると睦月様と同様の麗しい令嬢がいたので、直ぐに如月殿だと分かった。
「蒼月様。この度は、事前連絡も無しに来て申し訳有りません。大変急を要する事態の為、御容赦下さい」
「これはこれは、如月殿。そんなに畏まられなくて大丈夫です。して、そこの者は?」
部屋には、如月殿の他に1人、ローブに身を包んだ者がいた。見た感じ至って普通の人間族の様だ。
「はい。こちらは、サーペントトータスを単騎で討伐した者になります」
「単騎で討伐だと!? なら、あの噂は!?」
「それも合わせて、この書簡をお読み下さい。現状とこれからが記されております」
「拝見します。……っ!?」
如月から受け取った書簡に目を通す。少し読んだだけでも驚きの連発だった。
故意によりサーペントトータスの封印が解除されたこと。
某所に封印された魔物も封印解除されるかもしれないこと。
華族派によるクーデターが起こるかもしれないこと。
冒険者死亡の噂は、ギルドが故意に流したこと。
クーデターに対して、冒険者たちが王宮で待ち構えていること。
騎士団も標的にされる可能性があること。
などなどが記されていた。捺印も確認したが、事実の様だ。
「封印は、まだ解かれていませんが、間に合わないでしょう。間に合えば良し。もしもの時は、この者たちが討伐しますので、周囲の警戒をお願いします。彼らしか討伐出来ませんので」
「分かりました。急いで部隊を編成します。しかし、移動と戦闘で、帰る頃には終わってる可能性が有りますよ」
「そこは、対策済みです。帰りは、彼が取って置きを用意してくれます」
「安心して良いです。一瞬で連れ帰るので」
「……転移ですか?」
転移魔法という珍しい魔法が存在すると聞く。召喚による転移が可能なので、あながち嘘では無いだろう。
「それの同系統です。とりあえず、帰りまで秘密で」
「なら、直ぐに辿り着ける様に馬も用意しましょう。馬に乗れるなら貴方のも用意しますよ?」
「あっ、それは大丈夫です。うちには、馬より速い従魔がいるので」
「分かりました。直ぐに準備させますので、30分程お待ち下さい」
「それなら外で待ってます。如月は、王宮に行くんだろ? 卯月と2人、気を付けてね」
「ええ、貴方も」
ローブの男は、如月殿の頭を撫でると部屋から出て行った。凄く自然な動作だった為、親密な関係だという事が伺えた。
「仲が良いですね。恋人ですか?」
如月殿は、良い年齢なので居てもおかしくないが、そんな噂は聞いた事がない。所謂、高嶺の花だと皆が認識しているのだろう。
「私と妹の旦那です」
「あっ、そうなんで……えっ?」
今、かなり変な事を聞いた気がする。
私と妹の旦那? つまり、3人いる妹君の誰かも彼に嫁いでいるのか?
「……嫁が2人ですか。少し羨ましいですね」
その言葉を聞いて、如月殿がニコリと笑う。妻子のいる自分でも、ドキッとする微笑みだった。
「その内、分かるので言いませんけど、知ったらびっくりしますよ」
「えっ? 何がです?」
「ふふふっ、それでは彼らをよろしくお願いします」
結局、如月殿ははっきり言わずに去って行った。
そして、道中知る事になった。彼には嫁がかなりいて、一人や二人は些細な問題でしかない事を。
我々騎士団は、討伐対象が巨体な為、ベテランのみで編成し、見習い騎士とあえて華族派の騎士を数名残して出動した。
その為、自分たちが目的地に着いた頃には、当然華族派の騎士を筆頭にした部隊が予想通り、本部を制圧していた。
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騎士団本部が制圧された頃、冒険者ギルドでは。
「俺、ユーリ様って、結構無茶させる人だと思う」
『何を今更』
妖精の箱庭にいる筈のグレイたちの姿があった。
「この人数で敵を全員敷地内に引き込めとか聞いて、鬼かっ!って思わなかった?」
「出来ると思ったんだろうよ」
「ギルド職員より俺たちを囮にした方が、危険性が少ないという判断だろ? それに軽く抵抗しなきゃ、罠だとバレるだろうからな」
「私は、元々職員だから居たら信憑性が増すって理由かな?」
グレイたち3人に混じって、皐月が紅一点としている。
「でも、これを乗り越えれば、ティアが認めてあげるって言ってたし! ユーリ様も子作り用のポーションをあげると言ってたから頑張ろう!!」
皐月が燃えている横で、ライドたちは、グレイの肩に手を置いた。
「「頑張れ!」」
2人の笑顔が凄く眩しかった。
「これ以上嫁が増えません様に、これ以上嫁が増えません様に!!」
グレイは、必死に祈るのだった。
バン!という激しい音と共に、突如数人の男たちが入ってきた。
ドアの外にはまだ何人か人影が見える。皐月は、前に出て彼らを注意する事にした。
「こら、もっと静かに入れないのですか! ここは、冒険者ギルドですよ!」
「知ってるよ。だけど、今日から俺たちが支配するけどな。泣いて謝るなら、犯すだけで許してやるよ」
男たちが、武器を手に皐月たちを威嚇する。
「ほう、なかなかのゲスですね。なら、全員で相手をしましょう。弱い者虐めは好みませんが、少しは耐えて下さいね」
「あぁっ、ナメてーー」
「遅い」
「ぎゃあぁぁぁ!! 腕っ!? 俺の腕がっ!?」
皐月の斬撃で、男の両腕が無くなった。その叫びを聞いて、人が更に雪崩込んで来ていた。
「おっ、おい! だいーー」
「皐月。可愛そうだろ? 片腕だけにするか、両手両足の骨を折るだけにしようよ」
「ゴギャアア!!」
心配して近寄ってきた男の両腕がグレイによって背後からへし折られた。
「てへっ♪ ごめん〜♪」
「あっ、その動作可愛いな。でも、やる事は鬼だな」
「あがっ!? ヒギィイイ!?」
グレイは、男を地面に落とすと彼の足を踏み抜いた。鈍い音と共に男の悲鳴が響く。
「いや、お前も十分やり過ぎだから」
「うぐっ!?」
「右に同じ。片腕片足だけで良いんだよ。行動不能にするだけなんだから」
「ごがっ!?」
ライドとエルドラは、確実に減らしに掛かっていた。既に、最初に入った組が終わり、次に入ってきた組に移っていた。
「どけどけ退け!俺が相手をする!!」
「あっ、兄貴っ!!」
男たちの背後から鬼人族の男が現れた。
「おっ、少しは強そうだ。猫武者より弱そうだけど」
「なるほど。貴方が、この者たちのリーダーですか? 通りで脳筋しかいない訳です。いつも怯えていたのに、今日はヤケに強気ですね」
「相変わらず、気の強い女だ。貴様に付けられた傷が疼いて仕方ねぇよ」
「知り合い?」
「昔、求婚を迫った挙げ句、断ったら襲ってきた者です。だから、半殺しにしました。下史と言います。これでも華族の分家筋ではそこそこの者ですね」
「リーダー格なら潰して良いよね?」
「どうぞ、どうぞ」
「アハハハッ、笑える! 人間族風情が鬼人族相手にやろうってのかい? そんなにひ弱なのに?」
「ユーリ様も言ってたが、弱い奴ほど良く吠えるのな。ここを汚したくないので中庭に行こう。なんならお前の無様を晒したいから全員連れてきな」
「はっ、いい度胸だ。おい、お前ら中庭に行くぞ。誰も逃げない様に入口に3〜4人いろよ」
男たちと一緒にグレイたちは冒険者ギルドの中庭へと移動する。その後、皐月が仕切りを行う。
「それでは、尋常にーー」
「してられるか! 死ねっ!!」
合図を待たずに下史は、グレイを殺しに掛かった。
「予想通り過ぎて笑える。しかも遅い」
「えっ?」
下史は、視界からグレイの姿が掻き消えると同時に地面に倒れる衝撃を受けた。
『ひぃ!?』
「えっ、えっ?」
下史が困惑する中、周囲からは悲鳴が上がる。彼の周囲には、関節部分で斬り刻まれた手足が落ちているからだ。
それは当然、すれ違い様にグレイが行った事だった。
「これで、リーダー格は戦闘不能。襲撃者も中庭を中心に集まったからもう良いんじゃない?」
「そうだね。発動するよ」
皐月が懐から出した物を地面に投げ付ける。するとそこを基点に正方形の結界が冒険者ギルドを覆い尽くした。
「なっ!? 結界だと!?」
「外部と隔離するつもりか!?」
「だが、それは奴らもーー」
「バイバイ〜!」
「転移!」
皐月が手を振り、グレイがカードを片手に転移と唱えると結界内から4人の姿が掻き消えた。
グレイの持つカードは、転移符と呼ばれる物で、一度きりだが設定したポイントに移動出来る。これは、冒険者ギルドの秘蔵アイテムなのだが、今回の為に如月が内緒で持ち出したのだ。
こうして、男たちは冒険者ギルドに閉じ込められる事になった。
長くなり過ぎたので、二回に分ける事にしました。




