全ての原因は、派閥争い
「如月。一体、何があったか順番に説明してくれ」
「あの、アイリスさんたちを呼びに行ったんじゃ? 彼女たちは、何処に?」
「風呂」
俺たちだけで、如月の話を聞くべきでないと思い、さっきまでアイリスたちを呼びに行っていた。
しかし、現在、アイリスたちは、この場にはいない。理由は、風呂に入っているからだ。
原因は、俺に有るのだが、悪いのは、浴衣だと思います!
最初は、ちゃんとアイリスたちを起こしに行った。
アイリスたちは、睦月さんの手配で大部屋に寝かされている。そこの障子を開けて入る。
「お〜い、起きて……!?」
部屋に入って、ある事に気付いた。
肌色がかなり多い。アイリスたちは、浴衣を着慣れていないので、帯が緩くかなりはだけていた。そして、当然桃の香りも充満している。
見るだけでもエロいのに、香りも合わさってムラムラした。
「う〜ん……」
そこに寝返りをうったフィーネが、トドメを刺す。
俺は、その時知ったね! おっぱいが大っきい人は、ちょっとした事で浴衣からポロリし易いのだと!
「帰ってくるまでに時間が掛かってましたが、何かあったんですか?」
いっ、言えない! 誘惑に負けて、寝込みを襲ってきたなんて!!
「ほっ、ほら、寝ている間に服や髪が乱れたり、汗が凄かったりして着替える前に、身だしなみを整える必要があったんだよ!」
「はぁ……」
如月さんは、よく分かっていない様だ。
そして、全てを察したイナホと卯月は、俺をじーっと見ている。
あっ、うん。当然だよね。イナホなんて特に俺から拉致られて平穏なる小世界に行く訳だし。
「ほらほら、アイリスたちが来る前に要点を押さえておこうよ! 話して話して!」
「……分かりました。まず、先程来ていた者は、冒険者ギルドに務める情報部の者なんです。サーペントトータスの件で違和感を覚えた睦月様が、ある調査をさせていました」
「調査? 封印が解けた件に関してか?」
「そうです。結果は、クロ。封印は、故意に解かれた事が分かりました。それともう一つ。ある場所の封印の調査です」
「この国は、封印している魔物が何体いるんだ?」
「サーペントトータスとそれだけですよ。昔は、今と違い戦える者が少なかったので、封印するしか無かったんです。封印術は、この国の十八番ってのも有りますし。ちなみに、その事が原因で、幼少より武芸を学ぶ文化が根付いたらしいですよ」
なら、その魔物も巨体で魔力耐性持ちなのだろうか?
「話を戻します。情報部の調査によると現在そこに出入りしている者たちが確認されました。どうやら、サーペントトータスを討伐された事で予定が狂ったらしく、もう一体も目覚めさせる事にした様です」
「何の予定?」
「クーデターです。それを行う前段階として、サーペントトータスによる冒険者ギルドの面々や宮廷魔道士の戦力削減が目的だった様です。封印するには、高魔力保持者を人柱とする必要があるので、彼らが優先的に犠牲となりますからね」
「宮廷魔道士を狙うのは分かるが、中立である冒険者ギルドまで標的にする理由が分からないな? 騎士団を標的にするなら分かるけど」
冒険者ギルドは、中立の立場として、原則国家問題には関わらない様になっている。
「騎士団は、両陣営が混ざっているので、中立なんです。
そして、冒険者ギルドが狙われるのは、クーデターの鎮圧に冒険者も駆り出されるからですよ。表向きは、中立ですが、国家が冒険者を雇用する分には問題有りませんからね」
冒険者には、選ぶ権利があるが、国が雇い主なら報酬は安心出来るので、当然そっちに付くわな。
「それともう一つ。派閥争いが原因ですね。睦月様は王侯派の華族ですから冒険者ギルドもそちら寄りになってます。
対して、今回の騒ぎを起こしている者たちは、華族派です」
華族とは、所謂貴族の様な者たちで、王族も含め八華と呼ばれている。
和王を頂点とした華族たち4家による王族派と華族だけで権威を握りたい3家による華族派に分かれていた。
「今回の件では、睦月様が死ねばラッキー、死ななくても他の者たちの犠牲を理由に権威の失墜は免れません。
しかも、華族派のトップは、和国商会ギルドの会長です。
本来対等である冒険者ギルドの力が弱まれば、必然的に商会ギルドが力を持ちます。王侯派から寝返る者も出るかもしれません」
「睦月さんが出掛けて行ったのもそれが理由?」
睦月さんは、話を聞くなり直ぐに出掛けて行った。その為、如月さんが説明しているのだ。
「現在、睦月様は和王に謁見し、八華全員の招集と宮廷魔道士をお借りする為の要請に行ってます」
「ちょっと待って! 宮廷魔道士を借りたら王宮の警備が手薄になるじゃん! 国の重要人物たちも集まるから、確実に狙われるぞ! そこを制圧されたら、終わりじゃん!」
「狙われるでしょうね。だから、あえて隙をみせ襲撃させます。そこに冒険者たちを出て行かせ、鎮圧させる流れです」
「っ!? そうか、だからあんな面倒くさい事をしたのか!!」
昨日、サーペントトータスの討伐に参加した冒険者たちを治療と称し、王宮に最も近い建物へ隔離した。
その際、町まで歩いて2時間程なのに逆召喚を使った転移を持ち出したので不思議に思っていたのだ。それは、人目を避ける目的もあったのだろう。
「そうです。その為、世間ではサーペントトータスの討伐が成功したものの、帰還者が少ない事から死者が多数出たという噂が流れています。無論、こちらからも故意に流しました。
さて、その状況に、もう一体の魔物が現れても冒険者たちは出れませんので、必然的に騎士団が戦う事になりますよね」
「すると、騎士団本部も手薄になるので、制圧し易いと思う訳か。クーデターを起こす側からしたら最高の状況だな」
王宮、冒険者ギルド、更に騎士団本部を押さえられたらクーデターは成功と言っても良いだろう。
「なので、ユーリさんにお願いしたいのは2つ。
1つは、騎士団と協力して魔物を討伐する事です。ユーリさんの実力なら問題ないでしょう。
そして、もう一つは、転移門を創って頂き、騎士団ごと帰って来て欲しいのです。制圧された騎士団本部を取り返す為にね。団長は、王侯派なので討伐後に説明すれば理解してくれると思います。念の為に書簡もお渡ししましょう」
「なるほど。王宮は、冒険者で鎮圧して、騎士団本部は、団員たちに鎮圧させるのか。冒険者ギルドは?」
「数人残して、制圧された所を施設ごと結界で隔離します。主要施設ですが、最後まで放っておいて大丈夫ですから。ただ、問題なのは、もう一ヶ所の地点なんです」
「もう一ヶ所? 何処だ、それ? 商会ギルドは、敵方だから無いだろ?」
「迎賓館です。竜王国の大使たちがいますからね。たぶん、襲われると思います」
「あっ……」
完全に彼女たちを忘れていた。そもそも俺は、彼女たちの護衛なのに……。
「大使たちが襲われても大丈夫な様に、うちから面子連れて来ようか? そこそこ強いぞ。それかーー」
「彼女たちに対処させれば良いのでは? 一軍程度なら1人でも余裕で相手出来ますよ」
声のした方を向くと風呂上がりの為、火照っているマリーが横に立っていた。
……良かった、賢者モードはまだ続いていた様だ。
しかし、話し込み過ぎて、近くに居たのに気付いていなかった。
「途中からなので、よく分かりませんでしたが、大使たちが襲われるのなら、自分たちで対処させれば良いと思いますよ? なんなら、私が伝えて来ましょうか?」
「マリー、頼む。彼女たちに襲われたら自分で鎮圧してと伝えてくれ。お礼になんでもするから」
「なんでも……」
「マリー様、私からもお願い致します。事は、急を要します。報酬は、可能な限りご用意致しましょう」
「……分かりました。今から伝えてきます」
マリーは、俺たちの説明も聞かずに部屋を出て行った。少しすると外から羽音がしてきたので、早速迎賓館へ向かったのだろう。
俺もアイリスたちに説明して準備を始める事にした。




