待ちに待った、和国へ行こう!
ガイアス爺さんは、相変わらず、昼飯を食いに妖精の箱庭へやって来る。
今日のメニューは、炒飯だった。
ゴマ油の香りが食欲をそそり、卵や細かく刻んだピーマンやにんじんで色鮮やかだ。
また、完璧な火加減により米はコーティングされてぱらっぱらに仕上がった。おかげで口当たりも良くてスプーンが進む。
それを大皿に盛り、取り分けて食べるのが我が家流だ。なんせ、各人毎の食べる量に差が有り過ぎる。
例えば、アイリス。既に大皿1枚分を食べ終えた。その上、一緒に出したホウレン草の卵綴じスープも平らげ、お替りを頼んでいる。
ちなみに、ホウレン草のスープは、鶏ガラスープにホウレン草を入れて煮込み、卵で綴じた物だ。完成後、隠し味としてゴマ油を数滴加えるのがオススメだ。味も風味も段違いに変化する。
ガイアス爺さんも、それらをがつがつと食べていた。そしたら、突然顔を上げたと思ったら、突然呟いた。まるで、今思い出したかの様に。
「そうそう、明日の朝に和国へ親善大使送るから護衛よろしく」
『………』
「リピート。後、もっと簡略的にいって」
「明日、和国への護衛よろ」
「よく分かった。だが、唐突過ぎだろ!爺さん!」
確かに、春頃に和国と交易すると聞いていた。だが、前日に知らされるなんて思いもしなかった。
翌日、マリーの背に乗り、竜の群れと一緒に海を飛翔。彼らが竜王国の大使だ。
「これ、護衛いるのか?」
「あはは、実際要らないですね。彼らも普通の人より強いので」
マリーは、笑いながらそう言った。久しぶりの竜体の為か、少しテンションが高い。
「私共よりマリー様の護衛をお願いします」
マリーの横を飛翔していた竜が顔だけ向けて言って来た。
「何を言ってるんですか。今は、護衛対象でなく冒険者なんですよ?」
「それでも何かあったら責任取れないのですが……」
「大丈夫です。その時は、私の旦那様が何とかしてくれますよ」
マリー、お願いだからそんなに安請け合いしないで。まぁ、何かあったら直ぐに動くけどね。
「ねぇねぇ、卯月。まだ着かないの?」
「もう1〜2時間だと思いますよ、アイリスさん。しかし、相変わらず竜種は速いですね! 普通に陸路だとここまで来るのに、数ヶ月かかりますよ。まぁ、その分揺れたり、突風がきつかったりしますけど!」
「でも、船とかと違って怖くないです」
そういえば、イナホは船が怖かったな。……久しぶりに乗せてみたいな。だって、あのイナホは保護欲が湧くほど可愛いんだもん。
「あの〜、ユーリさん? 私も来て良かったんですか?」
フィーネが申し訳なさそうに聞いてきた。
何故なら、今回の護衛もとい旅行に俺が誘ったからだ。フィーネには、日頃から育児等を任せっきりにしているので気分転換に連れて来たのだ。
それに、彼女も何だかんだで、冒険者登録をしている。滅多にクエストへ行かないので、Bランクしかないが。
今回のクエストは危険度がかなり低い割には、大使たちが護衛対象な事もあってポイントが高い。だから、フィーネのポイント稼ぎにも丁度良いのだ。
「良いの、良いの。たまには、しっかり休んで羽根を伸ばそう。育児ならリリィとエロースが居るから大丈夫だって。それに武力案件ならリリスたちが対応するから」
今回、フィーネを連れてくる代わりにリリスたちを全員置いてきた。たまには、エルフ組なしで行こうと思ったからだ。
「そうだよ。フィーネお姉ちゃん。そしたら、私達も居て良いのかって話になるよ?」
「そうなのです。私達は、イナホと違い大規模遠征は初めてなのです」
そう、今回は、フランとユキも来ている。彼女たちの場合は、クエストをそこそこやってはいるが、遠征は初めてだから経験させようと連れて来たのだ。
まぁ、別の目的もあったりするが、それは着いてのお楽しみ。
「だから気にしない。気にしない。心配なら夜に一回連れて帰ってあげるから」
「そうですね。分かりました。もう気にしません」
フィーネは、納得した様だ。とりあえず、今回の遠征を楽しんでくれると嬉しい。
「皆さん。和国が見えてきましたよ」
「あっ、ホントですね。アレが和国です」
マリーの発言を受け、卯月が指さした先には、海に浮かぶ陸地が見えていた。
「それでは、予定通りに桂花の貿易拠点に着陸します。各員、気を引き締め参りましょう」
『はい!』
マリー以外の竜たちが、気合いを入れた。そう、口から火が漏れるくらいに。
敵じゃないよ。彼女たちは味方だよ。
他者に見られたら、敵だと認識されるのではないだろうかと思った。
「到着です。気を付けて降りて下さいね」
無事に和国の首都である桂花に到着する事が出来た。俺は、マリーから先に降りて、皆が降りるのを手伝う。高さがあるので、気を付けないと怪我をするのだ。
「ここが和国か」
俺は、皆を降ろしてから周囲を見渡す。
事前情報通りに、白壁の建物が無数に建ち並んでいた。
そして、その軒先には、無数の提灯が下げられている。俺は、昔、山口県の柳井市で見た『金魚提灯』を思い出した。
柳井市には、商家の建物がそのまま残り『白壁の町並み』と呼ばれ人気観光スポットがある。
その軒先で、民芸品の赤と白のすっきりした胴体に、パッチリと黒い眼を開いたおどけた顔の金魚型の提灯が揺れていた。
それが、夜になると提灯に灯りが灯り、幻想的な風景を創り出していた。ここでも似た風景が見れそうで楽しみだ。
夜に皆で写真を撮ろう。暗闇でも撮れる様に加工したからな。
あっ、でも、夜来るなら台湾の九份に近い気がするな。
ざわざわざわ。
周囲の人たちが、マリーたちの竜体を見て騒ぎ出した。竜が大量にやって来た事で怯え、騒ぎになった様だ。
「ようこそ、竜王国の皆様。お待ちしておりました」
卯月の様な上質の着物を着た者を筆頭に、武装した集団がやって来た。
「彼らが和国内における要人警護の集団です」
そう卯月から説明される。マジで俺たち要らないんだなと思った。
その後、事前連絡により待機していた人たちの手で騒ぎは収束した。マリーや大使たちが、人型に変身した事で少し安心したのも有りそうだ。
しかし、やはり大使は全員女性か。竜種のオスは少ないと聞くからそんな気はしていた。しかも、全員美人ときている。これなら外交も上手くいくわな。
「私共は、今から簡単な手続き等を行うだけなので護衛は必要なさそうです」
「でしたら、夜に宿で合流しましょう。私達も冒険者ギルドに顔を出さないといけませんので」
「では、その様にしましょう。マリー様もお気を付けて」
大使たちは、案内に従い何処かへ行った。俺たちは、卯月の案内で冒険者ギルドに行く事にした。




