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とある竜種の記録

 私は、竜王国に長年住む竜種です。見た目は若いですが、これでも500歳になります。


 分類的には、ごく一般的な色竜(カラードラゴン)。特徴と言えば、竜体を活かして運送業をしているくらいです。


 家族ぐるみで運送会社を起こし、そこそこの業績を挙げています。やはり、大量に高速で運べるのは、他に無い強みですね。


 その為、給与も良くて、従業員も沢山います。一流企業と言っても差し支えないでしょう。


 しかし、そんな会社を従兄弟が退職しました。理由は、サクラカンパニーの直営店セリシールで働くからだそうです。


 内容は、調理兼用心棒。一級の飲食店では、用心棒を置くことも珍しく有りません。


 サクラカンパニーの直営店だし、イチャもんつけて金を強請る馬鹿が来てもおかしくないですね。でも、うちを辞める程ですか?


 はい? 用心棒より調理がメイン? オーナーの料理に惚れ込んだ?


 何でも、偶然商会ギルドに行った時、オーナーの料理を食べる機会があったのだと言う。その後、サクラカンパニーの動向には気を止めていたそうだ。


 それ程の料理なのですか? 教えなさい。開店日はいつです?


 従兄弟から開店日を聞き出し、いの一番にやって来ました。私たちは、長生きしてますからね。美味しい物や目新しい物に目が無いのです。


 早速、店内に入ってみましょう。


 店内は、木を活かした優しさのある店ですね。木の香りに癒やされます。後、店前から漂う甘い香りには、興味をそそられます。


 店内でも頼めるそうなので、あとで注文するとしましょう。金には、余裕が有りますからね。気になったら躊躇しません。


 おやおやおや?


 私の竜眼が、とある事に気付きました。


 この店の木材は全てカリーナの森の百年樹を使っているでは有りませんか。


 カリーナの森の百年樹は、木材や香木として一級品です。


 しかし、カリーナの森は、多数のトレントや凶暴な魔物により危険な場所です。


 いくら上質だからといって、木材の為だけに命を掛ける者なんていません。その為、出回る数も少なく高値で取引されます。それが店を作っている事に驚きを隠せません。


「こちらメニューになります。注文には、メニューの番号もしくは、名前を書いて、私共にお渡し下さい」


「えぇ、分かったわ。ありがとう」


 可愛らしい服を着た店員さんにメニューを渡されました。店内を見渡すと同じ服を着た者たちが多数存在しています。


「店員さん、可愛らしい服ですね。その服は一体?」


 服は、腰から裾にかけてふわっと広がっており、少し波打っている形が夏に咲く朝顔の様です。それが、女性陣の可愛らしさを際立てます。


 長年生きてきましたが、初めて見る服ですね。


「これは、オーナーであるユーリ様がデザインしてくれたフレアスカートと呼ばれる服です。客と店員を区別出来る様に、皆同じ物を着ております」


 店における店内着は基本無く、客が惑う事は度々起こる。特に、人気の店に初見で行く時、よくある事だ。


「そうなのね。あっ、注文するのが決まったら、また呼ぶわね」


「かしこまりました」


 店員の少女が席を離れたのを見て、私はメニューを開く。


「まぁ!!」


 そこには、色取りの絵が描かれています。絵の下に番号と文字、それから値段が書かれているので、それが提供される物だという事が直ぐにわかりました。


 これなら、文字が読めない人でも分かりますね。大抵、数字だけ理解出来たりしますから。万人に優しい仕様です。


「さて、何にしようかしら?……そういえば、琥珀糖がオオスメとか言ってたわね。どれかしら?」


 私は、メニューのページを捲っていき、あるページで手が止まる。


「こっ、これは!?」


 そこには、一際輝く色取りの宝石が描かれていました。


 店で宝石を売っているの?と思ってよく見ると琥珀糖と書かれています。どうやら、これがお目当ての物の様です。


 お茶とセットなのね。付いてくるお茶は、抹茶?


 聞いた事が有るわ。和国から輸入される紅茶になる前の茶葉ね。飲んだ事は無いけれど、苦いと聞くわ。あっ、希望すれば、紅茶に出来るのね。初見だし、紅茶にしましょう。


「店員さん、これを下さいな」


 早速、紙に書いて店員に渡します。すると直ぐに運ばれて来ました。紅茶の横に、花を模したピンクと黄色と青色のお菓子が添えられています。


「頂きます」


 1つ、手に取ってみます。表面に光沢が有り、どうやら飴の様です。


「舐めながら、お茶を飲むのかしら?」


 私は、そう思ったので琥珀糖を口に入れます。だから、軽く噛んでも砕けないと思ってました。


「!?」


 なんという事でしょう! 表面が砕け、口いっぱいに甘さが広がるでは有りませんか!!


「もう、もう一個!」


 今度は、確実に意識して半分だけ食べます。表面はシャリと中はとろっとしています。近年稀にみる不思議な食感です。


 また、紅茶もこれに合わせてあるのか、甘さ控えめで提供されていました。


「ハッ!」


 気付いた時には、全て食べ終えていました。あまりの物足りなさに、追加で注文します。


 今度は、じっくり観察しながら食べる事にしました。


 なぜなら、今回出された琥珀糖は、カッティングダイヤの様な宝石の形をしているからです。光沢の感じから本物で無いのは分かりますが、それでも綺麗です。


 お茶は、基本通りに抹茶にしました。話に聞いた程、苦く有りませんね。しかし、この苦味が紅茶以上に琥珀糖の良さを際立てます。次からは、抹茶で頼むとしましょう。


「それにしても、毎回形が違うのね」


 これは、通う楽しみにもなります。


 ……持ち帰り出来ないかしら? 家でも食べたいのだけど。


「出来ますよ」


 だそうなので、100個注文してみました。他の友達にも食べさせてみたくなりましたからね。


 私は、持ち帰りを受け取ると店を出ました。


「……他を頼んでみるのを忘れてた」


 それは、次回でいいでしょう。明日にでも行く予定です。





 *******************





「完璧、常連になったな」


「すみません。うちの従姉妹が……」


「むしろ、うちの利益に貢献してくれてるからokだよ」


 開店から1週間。気になって見に来ているが、見慣れた人が増えて来た。特に、琥珀糖を大量購入した竜種さんは毎日居る。


「それより、彼女仕事は良いのかな?」


「通い詰めたいから仕事辞めたそうですよ」


「………」


 俺のせいでは無い。彼女が選んだ事だ。


「……もし、彼女が仕事探しに困ったら店員として採用してやるからな」


「その時は、お願いします」


 彼女が店員になるのは、そう遠くない未来の気がするのだった。

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