食べる宝石
開業するにあたり、アンケートにあった修正箇所を改善した。
例えば、メニューの問題。
従業員の様に、読み書き出来ない者は意外と多い。その為、メニュー表に何が書かれているか分からない。また、知らない料理の名前が多いので、手を出し辛いとアンケートに書かれた。
そこで、メニュー表には、こちらでお馴染みの写真付きで掲載する事にした。効果は、抜群。一目で、どんな料理か分かると従業員たちも言っていた。
そんな風に、何ヶ所か修正して、開業の準備は終わった。その後、時間はかかったが店の名前を決定した。
その名も『セリシール』。
記憶が確かなら桜をフランス語にした時の呼び方だったはず……。
うちの会社、サクラカンパニーの直営店なので、桜由来で考えた時に思い出した。
「只今よりセリシールを開業致します!」
という訳で、本日営業開始です。
「うわぁ……」
プレオープンの結果から予想はしていたけど、凄い人だかりだ。店の前には、焼き菓子を求めて折返しの列が4列目に突入した。
そもそも甘味が似たり寄ったりで少ないからなぁ〜。
現在、俺の作った特製プレートのおかげも有り、大量のワッフルが一度に焼けるので、客がどんどん捌かれていく。しかし、食べた人たちが再購入を求めて列に並ぶ為、どんどん伸びて行くな。
材料は……まだ、大丈夫みたいだ。足りなくなったら隣の店から買って来よう。
カリスさんは、事前に予想していたのか、店の左右には、穀物屋と乳製品屋が営業していた。おかげで、足りない材料を直ぐに買い足せる。
とりあえず、入り口は大丈夫そうだな。さて、店内は……。
「ユーリ様!大変です!!」
何故か、厨房を任せている筈のロダンが俺の所へやって来た。
「どうした? 何か、あったのか?」
「琥珀糖が底を尽きそうです!」
「はぁ?」
琥珀糖とは、別名琥珀羹とも言われる和菓子のことだ。
食用色素を使う事で、カラフルな色合いが出せ、人によっては『食べる宝石』ともいう。琥珀と名が付くのは、その昔、クチナシを用いて琥珀色に色付けしたためだと言われる。
作り方は、煮溶かした寒天に砂糖・水飴などの甘味を加えて、固めて乾かし、表面の砂糖を結晶化させる事で出来る。また、固める時の型により様々な表現が可能だ。
茶道とかでは、涼しげな夏のお菓子として人気で、錬りきりと組み合わせて夜空・川などを表現したりする。
一口食べると中はとろっ、外はシャリシャリという不思議な食感がして病みつきになる。
「でも、何故だ? アレは、一応うちの高額商品だろう?」
琥珀糖は、お茶とのセットメニューにして銀貨1枚で販売している。琥珀糖は色違いを3個、お茶は基本的には和国産の抹茶、希望すれば紅茶に出来る。
「宝石の様な見た目から竜種の方々が大量注文しています!」
「あぁ〜……」
そういえば、琥珀糖は、マリーのお気に入りだ。彼女の反応から気付くべきだった。竜種は、光り物が好きなのだ。
しかも、竜種は貴族並みに金を持っているからな。何故なら自分の鱗が金になるからだ。滅多に剥がれないが、鱗1枚で大金が手に入る。
「後、持ち帰りの注文が多いんです!」
持ち帰りの場合、琥珀糖を1個中銅貨1枚で買う事が出来る。
「数量制限が無いから大量買いが発生しました!」
「数量限定にしとくんだったわ……」
俺は、すぐに在庫を確認した。どうやら、残り10セット程しかない。つまり、全部で30個だけ。
「足りねぇな。今更、数量制限出来る程ないし。なら一層、今日だけはオープンセールで特別という事にしてと……。あっ、今の最大購入数はいくつ?」
「100個ですね」
「なら、今日だけ100個まで購入可能としよう。足りない分は、今から作るぞ」
「今からですか!? でも、冷却が!?」
「そこは、最強の助っ人を呼んで来るから大丈夫。材料は十分に有るな?」
「はい、それなら有りますが……」
「なら、水と砂糖、寒天を溶かしといてくれ。可能なら色素を加える所まで。冷却は任せろ!だから、こっちは頼んだぞ!」
「りょ、了解しました!」
「ーーという訳で、エリス頼む」
「つまり、水質操作で冷却と表面の加工をして欲しいと?」
「イエス!」
「エリス様。俺からも頼みます」
「………」
エリスは、呆れた顔をしている。精霊魔法をこんな事に使うなんてと思ってるんだろうな。
「報酬に好きな物作ってやるから……なっ?」
「ホント?」
「ホント、ホント」
「……バケツプリン」
「うん? プリンか?」
「前に話してくれた特大プリンを作ってくれるなら良いよ」
「ok。契約成立だな。それならこれらを頼む」
エリスの前に、型に入れた液状の琥珀糖を出す。
「ハァアアーー!」
液状化していた琥珀糖の表面が型の端からどんどん結晶化していく。どうやら成功の様だ。
「……終わったわよ」
少し切り分けて食べてみる。うん、問題なし!
「助かった!急いで切り分けよう!」
「はい!」
「約束忘れないでね〜」
「帰ったら仕込んで、明日のおやつで出すよ」
「やったー!」
初日は、エリスのおかげも有り、注文は何とかなった。翌日からは、数量を制限する事にした。
店での注文は、数量限定で30セットにした。これは、注文者の数から決めた。
次に、持ち帰りに関して当日買いの場合、最大20個までとした。その代わり、1日5名のみだが、予約注文の場合、数量自由とした。
これらの取り決めは、翌日少し苦情が来たものの最終的には受け入れられた。
「お疲れ様でした」
『お疲れ様でした』
「今日の問題を活かした変更点をボードに書き出しておいたので、帰りに確認して下さい。変更点は、明日から実践します。それでは、本日は解散。新しい寮で、しっかり休んで下さい」
寮は、店の裏庭に建築した。これなら遅刻する事も無いだろう。
皆が働いている間に、恒例の空間魔法でどんどん組み立てて行った。2階を超えた辺りで、店の外から見える様になり、少し騒ぎになった。
騒ぎを要約すると、突然現れた建造物に警戒して、騎士団を呼ばれただけさ!
そして、造りは試作寮と同じものになった。ただ、唯一の変更点は、転移門だろう。店と試作寮とを繋ぐものから寮と屋敷の地下を繋ぐ物へ切り替えた。
「さて、帰ろうか」
「「「は〜い」」」
エリス以外に、リゼとエヴァも同行する。彼女たちは、寮でなく屋敷の方に住む事にした様だ。出勤には、地下の転移門から通う事になる。
また、屋敷に住むからには、ミズキたちの手伝いもしてくれるそうだ。しかも、寮と同じ家賃を俺に支払うと言っている。俺は断ったが、けじめだと言うので、本人の意思に任せる事にした。
琥珀糖は、アマゾンとかでも注文出来るので、気になる人は見てみて下さい。綺麗ですよ。




