一難去って、また一難
「リリス!戦闘ちゅ……」
戦闘中止と叫ぼうとして止めた。転移後、視界に飛び込んで来たのは、悪魔族の大人たちだった。誰も彼も蔓で縛られ、木に吊り下げられている。怪我は……して無いみたいだ。
合流した時点で既に戦闘は終わっていたのだ。慌てて来たが、心配して損した。
「トリアたちがやったのか?」
リリスたちと一緒にダフネとドライアドたちがいた。ちなみに、トレミーだけはいない。食堂で、子供たちに混じってタルトを食べているからだ。あの食いしん坊さんめ。
「いえ、ダフネ様が一人で拘束しました。私たちは、情報収集と視線を逸らす妨害を入れただけです」
「私たちが到着した時には、既に殆どがこの状態でした」
「ちゃんと生かして捕まえましたよ。それとも殺しますか?」
ダフネの言葉で、拘束されている悪魔族たちの表情が青褪めた。悲鳴は、口を塞がれているので出なかった。
「いや、必要ないから。それより、怪我はさせて無いよね?」
「してない筈ですよ。フェイントも交えつつ、バレない様に背後から拘束して行ったので」
やられた連中は、一瞬の恐怖体験だっただろうな。隣を振り返ると仲間がいないっていう。
「リーダー格は誰だ?」
悪魔族たちの視線が、1人の男性に収束していたので直ぐに分かった。ダフネを見るとコクリと頷き、彼を下ろす。また、身体の拘束は解かず、喋れる様に口だけ解いた。
「では、話を聞こうか。目的が救出作戦だって?」
「そうだ!子供たちを返せ!この人でなし!!」
「いや、いつも返してるだろ? というか、誘拐してないが?」
「では、何故村の周囲に1人もいないんだ!村の子たち、全員だぞ!しかも、一番若い大人のイブもいない!」
「子供たちは、うちでおやつを食べてるよ。ちなみに、イブも一緒だ。イブもアンタたちと同様に誤解してた。俺たちを悪人だと決め付けて乗り込んで来たくらいだ。現在は、開放しているけどね」
「誤解だと!? 人間の言葉を信じられるか!」
そこから説明しても否定するというのが、10分程続いた。
「マジ、面倒くせぇなぁ……」
「やはり、殺しますか?」
「私が殺りましょう。ご主人様を罵ったのです」
「いや、殺さなくて良いから。殺したらエリーたちに恨まれるぞ」
子供たちに恨まれたくは無い。
「俺は、一切手を出してはいない。子供は、元気にしてるよ。だから、ついて来ると良い」
論より証拠。百聞は、一見にしかず。見た方が安心するだろう。
「リリスたちは、彼らの周囲を警戒。暴れたら攻撃許可を出す。しかし、殺してはダメだ」
『了解です』
「ダフネ。全員の蔓を1つに繋いでくれ。俺が引っ張って行くから」
「分かりました」
という事で、受刑者を引っ張る看守の気分で妖精の箱庭へGo!
別段暴れられる事も無く、食堂についた。扉を開けたら、追加を頼んだらしく、違うお菓子を食べていた。
子供たちは、色取り取りのマカロンを口いっぱいに頬ばっている。イブもマカロンを食べながら紅茶を飲んでいた。
「そんなに食うと晩飯食えないんじゃないか?」
『大丈夫、少ないから!』
『………』
「そっ、そっか、少ないのか……」
大人たちの悲しい顔が印象的だった。育ち盛りの子たちだもんね。そりゃあ、食べるよ。
「あれ? お父さん、何やってるの?」
「あっ、ホントだ! パパもいる!」
子供たちは、次々に自分の親に気付いた様だ。駆け寄ってくる。
「拘束を外してあげて」
「はい」
拘束していた蔓は外れ、ダフネの手に球体となって集まった。
「エリー!」
なるほど。彼が、エリーの父親か。拘束が外れると大人たちは、次々に子供たちを抱き締めていた。
「これで、無事は確認出来ただろ? 大体な。竜王国は、竜を頂点にした多種族国家だぞ。なんで、悪魔族を迫害する必要がある」
ガイアス爺さん曰く、竜王国で悪魔狩りを行った記録は一切ない。しかし、逃げて来れた者は少数で、現存する悪魔族も少ないらしい。
「それに、俺は半身が神だ。しかも、竜種の縁者ときている。エリーとかは、会ったよな?」
「うん!とっても凄かった!竜のお爺ちゃんとかは、大っきな身体で、樽に顔を付けてガブガブ飲むの!」
ガイアス爺さんの事だな。竜体化して樽酒呑んでたし。
「後、初めて空を飛んだの!竜のお姉ちゃんの背に乗って!」
そういえば、エミリアが背中に乗せて、空を飛んだんだっけ?
『………』
大人たちの誤解は、少しだけ解けた様だ。
「ユーリ様」
「何、トレミー。お菓子の追加?」
「いえ、ちょっと、姉妹から連絡があったもので」
「連絡? どんな?」
「現在、村が魔物の群れに襲われているそうです」
『!?』
「おい、マジか!原因は?」
「調べてないので私の予想ですが、ここに来る時に村との直線ルートで無く、迂回したのが原因では? その際、魔物のテリトリーを集団で通過してしまった可能性が挙げられます」
『っ!?』
「有り得ますね。戦闘地点がルートからズレてましたから」
大人たちの反応からも、それは確かなのだろう。
「マズいぞ!今、村には戦える者が殆どいないんだ!」
「どうしよう!ここからだと戻るのに時間が……」
「とりあえず、子供たちは無事だから置いて……」
「いや、しかし、ホントに安全かは……」
「それに、今の話が真実とは……」
大人たちは、パニックになって動こうとしない。だから、ついキレた。
「喧しいわ!喋る暇があったら動け!妻や女たちを助けたくないのか!子供たちの安全保障しただろ!だったら、置いて村へと走れば良いだろ!」
俺は、大人たちを説教する事になった。
「昔、ダフネに贈らせたアイテムは村にまだ有るのか?」
「そっ、それは……」
「有るのか無いのかハッキリしろ!今、アレが必要なんだ!」
「……無いです。人間からの贈り物なので、精霊様が帰った後、壊しました」
「だと思ったよ!クソッ!!」
アレが有れば、逆召喚で移動出来たのだが、無いのなら仕方ない。俺は、うちのメンバーに指示を出す。
「ダフネ、トレミー!連携して魔物の居場所にマーカー設置!」
マーカーとは、彼女たちが遠方の植物を操り造る蔓の塔の事だ。攻撃も可能なのだが、遠方からだと精度をかく。だから、目的地への目印にして使っている。
「「分かりました」」
「リリスたちは、大人たちと共に移動後、救援。グレイたちは、人間の為残って警備を頼む!ギンカは、俺と別行動でマーカーに転移!」
『了解!』
「時間との勝負だ!各自、迅速に当たれ!」
俺は、アイテムボックスからローブを取り出し羽織り、フードを被った。フードが有れば、直ぐに人間だとは思われないだろ。
結果から言おう。被害は、最小に食い止められた。怪我人はいるものの、死傷者は出ていない。
「俺の家が……」
「そんな……何処に住めば……」
しかし、村の建物の殆どが半壊もしくは全壊という悲惨な状況となっている。つまり、殆どの者が住む場所を失ったのだ。
元々、建物が少なかったのも原因だ。場所柄、仕方ないといえば仕方ない。
「うちの庭に住むか? 敷地は空いてるぞ。意思は尊重するし、安全も確約しよう。それとも、危険な森で野宿するか? 好きな方を選ぶと良い」
『………』
その言葉により、悪魔族たちは村を捨て、フェアリーガーデンに移動した。フードを取った俺やグレイに怯えているが、命を優先した様だ。
「さて、寝床を作りますか。とりあえず、長屋で良いか?」
「えっと……はい」
久しぶりの空間魔法で建物を建築。避難所といえば、体育館とか思ったからだろう。木造の体育館が出来た。
一瞬で完成した為に、悪魔族たちからは驚かれた。子供たちからは、凄いと目を輝かせて喜ばれた。悪い気がしない。
「プライベートエリアとして区切るから何家族か教えて。出来れば、全人数も教えて貰うと助かるかな」
「13家族、45名になります」
「大体、3〜4人って所か。……よし、こんなもんだろう」
木板による区切りが終わった。防音対策もしたから問題ないだろう。むしろ問題は、この建物の今後だけどな。樹脂を塗ってボーリング場にでもしようかな? 球は、鋳造するか、木で作れば良いし。
「疲れたろ? 今後の事は、明日話すとしよう。風呂は、屋敷の1階に有るから使ってくれ。入浴法は、入口に書いてる」
意外に入浴法を知らない者がいるんだよな。特に、庶民はそうだった。だから、看板を設置する事になった。
「着替えは……いるな。食事と一緒に運ばせよう」
うちには、養う余裕が有るので、色々してあげる事にした。今日は、しっかり休んで欲しい。
ついでに、これで俺たちへの偏見が無くなれば、御の字だな。




