宴会は、明るく激しく鮮烈に!
「何してんの、ギンカ?」
「ご主人様の命令を実行したまでです。えっへん」
ギンカが立派な胸を突き出して成果を誇る。俺は、そこまでしろって言ってな……ナンパ即殲滅は言った気がする。
「それで、被害は大丈夫なの?」
「はい、ベルフォート先生の治療のおかげです。それに物損は出ていないので、問題にはならないでしょう」
「なら、良いや。逃げれば良いのに暴れたのは問題だが、人助けは偉いな。よくやった」
ギンカをなでなでしたら、気持ち良さそうに目を細めていた。
「まぁ、元を正せば、俺が悪いんだし。この件は、無かった事にしよう。次から魔法学校に行く時は、俺が行くよ」
「それで、お願いします」
エミリアからもそう頼まれた。でも、俺が行ったとしても騒ぎになったりして? 人間だからそれは無いか。
「あっ、そうだった。エフィメラと一緒にコーリス伯爵を呼んで来て欲しかったんだ。頼めるか? 宴会に招待したいんだよ」
「了解致しました」
その後、ギンカはエフィメラと一緒に行き、伯爵を呼びに行った。
「今日は、宴だからエミリアさんも招待するよ。楽しんで行くと良い。泊まるなら部屋も用意するが」
「エミリアで構いません。それから、ご招待に預かります」
エミリアの参加も決定した。後で、マリーやルイさんに伝えておこう。ガイアス爺さんが孫に会って暴走しそうだし。
1時間後、コーリス伯爵もやって来た。何やら、横に若い少年を連れている。
「ユリシーズ様。お招き、ありがとうございます」
「お久しぶりです。気楽に楽しんで行って下さい。所で、そちらは?」
「私の息子になります。お見知りおき下さい」
「お初にお目にかかります!僕は、テオドールと申します!お噂はかねがね聞いております!」
「宴に参加させて構いませんでしょうか?」
「1人2人増えても問題ないので構いませんよ」
イレギュラーはあったものの、これで参加者が全て揃った。何故なら、伯爵が来る迄の間に全員来たからだ。伯爵とベル以外は、転移門をくぐるだけだから、そりゃあ速いわな。
花見の会場も準備万端。神社の階段をそのままステージに変更だ。
周囲には、テーブルが置かれ食事が並ぶ。酒のテーブルだけは、別枠で置く。皆、ガブ飲みするからだ。
そして、座る為のベンチも要所要所に置いておいた。これなら疲れても休めるだろう。
「それでは、今年も何気ない幸運の日々が続く事を祈って、乾杯!」
『乾杯!』
こうして、異世界で初めての花見が始まった。
「おらおら!アタイが用意した甘酒も有るよ!どんどん飲みな!!」
妊娠して酒が飲めないカトレアが、甘酒を樽で持参した。何でも、手作りだとか。でも、樽は無くない?
「カトレアの甘酒!? 嘘っ!久しぶりじゃない!!」
「ホント!? 飲ませて!!」
「やったー!カトレアの甘酒が飲める!!普段は、お願いしても作ってくれないのに!!」
セレナだけでなく、シオンやベルのテンションも高い。仲間内では、相当好評な様だ。
「そんなに美味いのか?」
「ユーリも飲んでみれば良いさ」
「そうだな。貰うよ」
俺は、カトレアから甘酒を受け取り一口飲む。すると、仄かな甘みが口の中に行き渡りぽかぽかしてきた。
「美味っ!?」
「えっ、ホント? 私も飲む!!……ごっくん。美味っ!!」
俺とアイリスの反応から皆も次々に飲みだす。彼女たちも「美味しい」と言っているから味は確かだ。
「凄いじゃん!料理出来たんだ!」
「あたぼうよ!」
「カトレアの料理は、美味しいですよ。特にーー」
ビリーさんが、めっちゃ惚気けてきた。カトレアは、見た目に反してしっかり料理が出来るらしい。何処ぞの見た目は可愛いのに料理が出来ない子たちとは違う様だ。
「ユーリ〜、キスしようキス!」
「ユーリさ〜ん、ごろごろ!」
突然、アイリスがキスを迫り、マリーが猫の様に擦り寄って来た。いきなりの事に困惑し、周囲を見渡すと。
「暑い……暑いよ!あぁ〜、この服邪魔!!」
「私も!もう脱いじぇえ!!」
周囲では、獣人族の娘たちが服を脱ぎ出していた。
「ここで脱いだらダメ!」
急いで、服を脱ぐ手を止める。なんとか間に合った様だ。その後、抵抗されたが、「俺以外の男に見せ無いで!」とお願いしたら、喜んで脱ぐのを辞めてくれた。これは、素直に嬉しい。
そして、様子がおかしいのは、リリスたちもだった。
「ユーリさん!どうして、私たちにあまり手を出して下さらないのですか!あんまりです!ユーリさんなら、もっと激しくして貰っても良いんですよ!」
いきなり、リリスから思いの丈をぶつけられた。
「しくしく……ロリコンだからですよ。幼い娘が好きなんです!その上、おっぱいも好きで……しくしく。黒タイツやエロ衣装でするのが好きで……」
「よし、それ以上言うの止めようか!」
リディアには、泣きながら性癖を暴露された。
「あはは!母さんがズルい!男を落す巨乳に、褐色肌とか!その癖、淫乱とか!属性盛り過ぎ!」
リリアは、爆笑しながらリリィをディスっていた。そして、彼女の隣にいた母親のリリィは危険を感じたのか、静かにフェイドアウトしていった。
そんな感じで、皆酔っ払ってカオスになっている。……あれ、でも、飲んだの甘酒だよね?
「カトレア!甘酒にアルコール入れたのか!?」
「はぁ? 入れる訳ないだろう? こちとら妊婦なんだぞ」
「じゃあ、これは……」
「場酔いだよ。場酔い」
「場酔いかい!」
「ああ、だから、私からヨロヨロ草買ったのね」
「ぶふっ!?」
リリィの挙げた薬草の名前に反応して、コーリス伯爵は酒を吹いた。それは、毒霧となって正面にいた息子にかかる。なんと見事な毒霧で……というか、何故吹いた?
「ヨロヨロ草って、酩酊状態にさせる薬草ですよ!? それを甘酒に入れたんですか!? あれ、酒で酔わない人も酔うんてすよ!?」
「カトレア?」
「おう、入れたぞ!アルコールはダメだが、酔いは欲しいからな!」
犯人は、カトレアだった。おい、なんてもん入れてんだよ!
「でも、あれ、一応珍しい薬草ですよね? 森林の奥でしか手に入らないって聞きました。何処から入手したんですか?」
伯爵は、同じ薬師として気になるらしい。
「ユーリ君の薬草畑からよ。沢山あったわ。なんなら、分けて貰えば?」
うちの畑だったよ……。何を植えているか、後でちゃんと確認しておこう。
「害は、無いから大丈夫さ!何かあれば、ポーション飲ませれば良いしね!!」
カトレアの発言を受けて、伯爵とリリィに目を向けると2人共頷いてくれたので、彼女たちは放置する事にした。
「それでは、カラオケ始めま〜す!まず、恒例のあの歌!『異世界ハッピーデイズ』歌いま〜す!」
歌詞アイリス。作曲エロース。振付けフラン。演奏は、リリスたちで生まれた曲。俺が登録した曲たちを聞いていたら、自分たちでもやりたくなったそうだ。そして、これがカラオケの最初の曲になったのだ。
歌を肴に酒を飲む。花がメインなのだが、恒例になっているのだから仕方ない。というか、俺が率先してやってるし。
俺たちは、歌っては飲んで、歌っては飲んでを繰り返し、どんどんカオスになっていく。
「「〜〜〜〜♪」」
恒例のデュエットもかなりの数をやる。最低、嫁たち全員とだからな。おかげで喉が疲れた。
「あれ、もう食事が殆ど無いや」
歌を切り上げて、食事を摘もうとしたら殆ど無くなっていた。なので、その場で料理キットを広げて作る事にした。
「酒にはやっぱり、唐揚げ〜」
唐揚げの下拵えした物は、アイテムボックスへ常時入れているから揚げるだけだった。二度揚げも行い、カリッと出来た。
口に含むと肉汁がじゅわ~っと広がる。ここで酒を1杯……無かった。横に置いておいたのだが?
「おっ、悪い飲んでしまったわ」
仕方ない。樽から注いで……完全に飲み切られとる。
「それも儂が全部飲んだぞい。もっと多く用意せんかい」
「だったら自分で用意せい!というか、残せや、ボケ!」
ガイアス爺さんにツッコミを入れる。酔ってる為に加減なし。爺さんは、ガードするも吹き飛ばされた。
「もう、お父様は毎度何やってるんですか。食事の邪魔ですよ」
俺に吹き飛ばされた先で、今度はマリーに邪魔だと殴り飛ばされた。今度は、ギルさんの所に飛ばされ……避けられた。
その結果、エミリアたちと歓談しながら食事中のルイさんに命中。ルイさんは、酒と料理を落とし、額に青筋が浮く。そこから流れる様な回し蹴り。絶対領域が見えそうで見えない絶妙な足技だ。さすが、お義母さん。
そして、爺さんは、森へと消えていった。また、その流れを見ていた伯爵と息子のテオドールは表情が凍っていた。
「あっ、あの、父さん。ここはいつもこうなのですか?」
「私も初めてだから……どうだろう?」
二人の会話が聞こえたので、素直に答えてあげた。
「いつもの事、いつもの事。飲み過ぎた爺さんを吹き飛ばし、何故かルイさんがトドメを刺すまでいつもの流れなんだよな」
「「………」」
その後、なんとも言えない表情をした2人は森の奥を見詰めるのであった。




