ギンカちゃん、魔法学校で大暴れ!
「ふむ、予定通り転移1回で来れましたね。ご主人様が、ベルさんに持たせた簡易座標のおかげですね」
現在、ギンカは魔法学校の校門から数百m離れた位置に立っていた。
「しかし、魔法学校に張られた障壁と干渉して、ベルさんの側ではなく1〜2km程ズレるかもとおっしゃいましたが、殆ど誤差が有りませんね。さすがは、ご主人様です」
いや、持ち上げ過ぎだからと本人がいたらツッコむだろうけど、現在ツッコミは不在である。
「まずは、入口の小屋で守衛に手紙を見せるんでしたね。そういえば、手紙を何処にしまいましたっけ?」
ギンカは、服のポケットをあさり探すも目的の手紙が見つからず悩む。
「はて? 何処に?」
とりあえず、上着を脱ぐ。裏返すも何処にもない。次は、シャツに手をかけボタンを外していく。
「おっ?」
自慢の胸が顕になった所で、谷間に挟んだ手紙が目に入る。
「そうでした。無くしたら不味いと思い、肌身離さずいる為にも胸の谷間にしまったのでした」
ギンカは、手紙を見つけたので、上着を羽織り守衛のいる小屋を目指す。
「おい、そこの銀髪!少し止まれ!!」
小屋までもう少しの所でギンカは呼び止められた。
「何か、御用ですか? こちらは、ご主人様の為に急いでいるのですが?」
振り返った先には、貴族らしい少年と従者らしい者たちがいた。
「女。我の物にならぬか? 何処ぞの従者の様だが、今以上の給金も約束しようぞ」
「唐突ですね。お断り致します。私は、ご主人様を崇拝しておりますし、貴方より逞しい御方なので」
「貴様、口が過ぎるぞ!この方をどなたとーー」
「ジオグラビティ」
『ぐはっ!?』
ギンカは、重力魔法を発動し、貴族らしい少年と従者の男たちを纏めて、過重力空間で押し潰した。
「ご主人よりナンパ即殲滅との命を頂いております。命は取らないので感謝して下さい」
重力魔法で男たちが動けなくなっている間に、小屋で守衛に手紙を見せる。
「ヴァーミリオンの使いの者です。現在、ここで講師を務めているベルフォート・ミューズに用があって来ました。これがご主人様よりの手紙です」
「拝見させて頂きます。……なるほど、了解致しました。どうぞお入り下さい」
「感謝します」
守衛の許可がおり、ギンカが敷地内に入ろうとした時、事件が起こった。
「うう……舐めやがって。ベオウルフ……あの女を抑えろ!」
従者の1人が、必死の抵抗で狼の召喚獣を呼び出した。大人のヒグマ程の大きさが有ることから、この従者の実力が伺い知れる。彼は、それをけしかけギンカを襲わせたのだ。
「……意識を刈り取っておくべきでした。とりあえず、邪魔です」
虫でも払う様に振られたギンカの右手によって、召喚獣は学校の敷地内に吹き飛ばされた。そして、それが原因で校内の魔物侵入警報が鳴り響く。
『はぁ!?』
「召喚獣ですし、ちゃんと殺しておきましょう。これ以上、邪魔されても困りますし」
そうして、魔物警報が鳴り響く学校内にギンカは入っていった。
**********
魔物警報が校内に鳴り響く頃、ベルの元へ1人男性教師が駆け込んで来た。
「大変です!ベルフォート先生、魔物が侵入しました!!討伐をお願い出来ませんか!?」
「………」
魔物と聞いて、ベルの頭にある女性が思い浮かんだ。そう、ギンカである。彼女は、招待状によりギンカが迎えに来るのを知っていた。
「すいません。それ、知り合いの従魔かもしれません。なので、私が行ってきます」
「お願いします! それとその近くでうちの生徒たちが暴れていると報告を受けました。その件もお願いします!」
それくらい、自分たちでやりなさいよ!と、ベルは思ったが口に出す事は無かった。出したら出したで面倒くさくなる事を知っているからだ。
魔法学校にも派閥がある。臨時講師のベルだが、冒険者業界では有名だ。その為、ベルを巡ってあちらこちらが関与してくる。正直、うざくて仕方ない。
「まずは、魔物が優先ね。場所は、何処でしょう?」
そういえば、聞いていなかった。まずは、そこを話しなさいよと思う。とりあえず、窓から見えないかしら?
ベルが外を見た瞬間、ドドドドッと水柱が立ち上った。
「うん、あそこね」
ベルは、急いでそこに向かうのだった。
**********
「すみません。ベルさんに用があるので、竜種の方と争う気はないのですが……」
ギンカは、青髪をした竜種ことエミリアとその取り巻き、それから入口でナンパしてきた者たちに囲まれていた。
「皆さん、騙されてはいけません!その者は、危険度Sの魔物が変身した姿です!」
どうしてこうなった? ギンカは、顔をしかめるしか無かった。
ことの始まりは、数分後前に戻る。ギンカは、吹き飛ばした召喚獣にとどめを刺そうと追いかけた。
追い付いた時、召喚獣は少しでも回復しようと女子生徒を襲う所だった。ギンカは、転移で召喚獣に近付くと首を捩じ切り絶命させた。
「!?」
「初撃で殺しておくべきでした。私の不手際ですね」
「たっ、助けて頂き、ありがとうございます!」
「お怪我は?」
「有りません!あっ、おのっ!お姉様とお呼びしても構いませんか!」
「はい? まぁ、お好きにどうぞ」
「やったー!」
ギンカをお姉様と慕う者が出来たが特に問題は無かった。
しかし、問題が起こったのは、学校に侵入した魔物を狩ろうとエミリアがやって来たからだ。彼女の龍眼により、直ぐ様ギンカが魔物だとバレた。
「生徒を襲う気ですね!? させません!!」
「はぁ?」
ギンカは、エミリアの放った魔法により女子生徒との距離を離された。女子生徒は、ギンカの無実を訴えようとするも。
「違います!お姉様はーー」
「ここに居たのか、銀髪女!!よくも恥をかかせてくれたな!!」
郊外で排除した男たちが追いかけて来て騒ぎ出したので掻き消されてしまった。
「……ベルフォート・ミューズを呼んで頂けませんか? さすがに、招待状の時間に近付いているのですが?」
「貴方の狙いは、ベルフォート先生なのね!会わせません!!」
「その見た目は、俺たちを油断させる為だっただと!? 許せん!!」
「はぁ……、素直にユーリ様にお任せするんでした」
ギンカは、私が代わりに行くと言った事を後悔した。相手に貴族とかもいるので融通が効かない。
「仕方ありません。ご主人様の命により、ベルに会うため押し通ります。解除!!」
ギンカは、人型から本来の魔物体へと戻る事にした。今から行う事は、この姿の方がし易いと判断したからだ。
『っ!?』
皆、ギンカの巨大さに驚愕し、白銀獣毛の美しさに魅入られた。
「私が食い止めます。その隙に、皆さんは逃げて下さい!水の特級魔法アクアストリーム!!」
高速で渦巻く水がドリルの様にギンカへと向かってくる。
「重力衝撃波」
それに対抗するは、威力を弱めた重力の特級魔法。ギンカは、ユーリたちと研鑽する事で魔法の有効な使い方を学んでいた。
今回もその1つ。馬鹿正直に正面からぶつけ合うのでなく、斜め下からぶつける事で、周囲への被害が出ない上方へと打ち上げた。
それによって、魔力消費も相手に比べて少なくて済む。
「満足しましたか? わたしは、争う気は無いのですが?」
「まだ……まだよ!負けていないわ!!」
「そうですか。なら、奥の手を使います。エーテルドレイン!」
『っ!?』
ギンカが上部へと向けて大きく口を開くと周囲の者たちから魔力柱が立ち、ギンカの口へと呑まれていく。
エーテルドレインは、ギンカが経口摂取で行う魔力吸収の拡大版の様なもの。認識範囲内の対象から魔力を吸収するのだ。
ギンカは、とりあえずで周囲の者たちから8割程吸収した。急激な魔力消費は、精神に影響を及ぼす。精神疲労により1人を除いて倒れ伏した。
「やはり、竜種は倒れませんか。まぁ、同じ竜種のマリーも倒れませんでしたから予想は出来ましたけどね。ですが、この魔力差で戦っても無意味なのは理解してますよね?」
ギンカの魔力を100とするとエミリアは30程しか残っていない。本来ならギンカの倍ほど有り優位にあったが、水の特級魔法を使った事で2割を消費していた。そこに抵抗したものの、エーテルドレインにより5割を持って行かれたのだ。
「竜種? マリー? まさか、マリアナ叔母様!? 何故、マリアナ叔母様の名を!?」
「それはーー」
「それは、ギンカさんがマリーさんの旦那さん。私の師匠でもあるユリシーズさんの従魔だからですよ」
「やっと見つけましたよ、ベル。さぁ、妖精の箱庭に行きますよ」
「ちょっと待って貰って良いですか? さすがに、この子たちを放置するのはマズいので……」
『ううぅ……』
ベルが見渡す周囲では、生徒たちが呻いていた。
ベルは、回復魔法を使い、生徒たちを順番に癒やして行った。ついでに、事情説明も忘れない。生徒たちの容態は、魔力が急激に減ったことによる目眩の様なものなので、直ぐに回復した。
「これで良いでしょう。ギンカさん、よろしくお願いします」
「それでは、転ーー」
「待って下さい!私も連れて行って下さい!!」
「何故です?」
「マリアナ叔母様の旦那さんに、この度の件で謝罪したいのです!」
ギンカとベルは、顔を見合わせる。
「私は、構いませんよ」
「エミリアさん。ギンカさんがこうおっしゃっているので、一緒に行きましょう」
「ありがとうございます、ベル先生。それからギンカさん。この度は、早とちりをしてすみませんでした。場所は知りませんが、送らせて下さい。今、竜体にーー」
「いや、結構です。転移の方が速いので」
「えっ?」
そして、3人は転移して、ここにやって来たという事らしい。




