リリスたち料理の練習ガチで始めるってよ
談話室で、いつも通りに皆でだらけていると。
「「「料理を作らせて下さい!」」」
「………」
リリスたちが、開口一番にそう告げて来た。内容が内容なだけに詳しく聞いてみる事にした。
どうやら、先の一件で、皆に試食(罰ゲーム)して貰った結果から本気で練習するべきだと自覚したらしい。
だから、広い心で受け止めてやろぜ、みん…………いない。
俺の周囲には、誰一人いなくなっていた。
おかしいな。さっきまで、俺の膝を枕にして寝ていたアイリスまで居ないよ。
おそらく、リリスたちの料理という言葉に反応して逃げたのだろうな。アイリスにとっては、食べ物で初めてトラウマだから。
これは、仕方ない。仕方ないが、最近練習している転移まで使って逃げるかな、普通?
「そっ、それで、練習とは何から始める気なんだ?」
「はい、来月にはチョコの日がやって来ます」
「その為、市場でチョコの塊が大量に売られていました」
「この前の選択でもチョコが人気だったので、それから始めようと思います」
それは、チョコが一番混ざり物が少なくて、まだ食えたからだよ。
「チョコの日か……」
チョコの日とは、年に一度親しみやお礼を込めてチョコレート配る日である。
元々の始まりは、過去の大戦時、軍内での高エネルギー非常食としてやり取りされたのが始まりである。チョコレートは、士気高揚とカロリー補給のつもりで配っていたのだが、いつしか報酬の1つ変わっていたそうだ。以後、感謝や敬意を示す際にチョコレートを贈るのだとか。
「分かったよ。厨房の使用を許可する」
「「「やったー!」」」
「ただし、使うのは平穏なる小世界の厨房だ。また、厨房を破壊されたら困るからな」
以前、おでん? を作ろうとして大根にしっかり火が通らない事から火の魔法を使用。鍋が内側から爆発して、コンロの一部を破壊した。
「いや……あれは……ちょっとした、ミスで……」
「いい機会だから教えてあげる。基本、料理に魔法は使わないんだよ」
「「「ええっ!?」」」
マジで驚いたよ、この娘たち。チョコレート作り、大丈夫かな?
「とりあえず、俺も着いて行くから指示通りに作ること」
誰かに任せたいが、たぶん逃げて無理だろう。
「良いんですか!」
「ありがとうございます!」
「頑張って、美味しいチョコレートを作ってみせます」
という訳で、チョコレート作りを行う事になった。
こういう時にイレーネコスモスって、便利だなと再確認した。壊れても再生するから後処理が楽だし。
所で、チョコレートって、スキルで作ってるから分かり辛いけど、美味しく作るには、技術がいるよね? リリスたちに出来るの?
まぁ、簡易版なら問題ないか! 刻んで湯煎して固めるだけだし!
「まずは、買ってきたチョコを細かく刻む。というか、チョコの塊を刻むのは、辛いから削ってね」
「「「了解です」」」
その間に湯煎したりする時の道具を用意する。
用意するのは、温度計付きのヘラ。無いなら温度計を輪ゴムなどで取り付ければ良い。
次に、ボウルに冷水、お湯を用意する。お湯は、沸騰したものでなく、少し冷めた60度くらいの物が良い。
「こっちの準備は完了だ」
リリスたちは、順調に削れただろうか?
「お〜い、ちゃんと細かくしたチョコは用意出来たか?」
「あっ、はい。この様に」
リリスの見せて来たボウルには、細かくなったチョコレートが入っていた。このサイズなら、湯煎でちゃんと溶けるだろう。
「ok。なら、お湯で湯煎してくれ」
「了解です」
「どのくらいを基準に溶かせばいいんですか?」
「ヘラで掬った時に、とろりとするくらい滑らかな状態までだな。とりあえず、チョコの塊が無くなるまでは、しっかり溶かしてくれ」
「分かりました」
「溶け終わりました。次は、何を?」
3人共、溶かし終わった様だ。なら、ここからテンパリングを行う。
テンパリングとは、チョコレートを溶かしてから温度調節する事で、チョコレートの成分を安定させる作業だ。これにより、綺麗に固まり、口溶けも滑らかになる。
「溶かしたチョコレートが入ったボウルの底を冷水の入ったボウルで冷やし、25〜26度くらいになるまでかき混ぜながら冷やす。その後、再び湯煎をして29〜30度まで温める」
「ふむふむ。なるほど」
「この作業を複数回繰り返す。今回は、5度ほど行おう」
3人共、ここまで順調……では、ないな。とりあえず、近くにあったリリスの手を掴んだ。
「リリス。君は、何を入れようとしてるのかな?」
「りっ、リキュールを……」
リキュール入りか。風味も増して美味くなる。
「そういうのは、ちゃんと作れる様になってからやること。という訳だから2人も投入するなよ!マジで!!」
「「えっ?」」
リディアは、水あめで、リリアは、ハチミツか?
「しかし、これでは他と大差なく……」
「差なんて要らねぇんだよ。しかも、量は分かっているのか?」
「そっ、それは……」
「カンで……」
「適量入れれば大丈夫かと……」
ほう、君たちの適量はビン1つなのか。スプーンを用意せずにビンを掴んでいるからそういうことだろ?
「……混ぜるのは止めて、型に流して固める作業に入ってくれ」
「「「……はい」」」
3人共、シュンとしている。でも、心を鬼にしないと食べれる物は作れないのだ。
溶けたチョコレートを型に入れて冷やす事、数十分後。
「思い思いの型は取れたか?」
「ハート型になんとかなりました」
「四角とかならもっと余裕なんですけど」
「後は、フェニックスとか」
「フェニックス!? 何、このクオリティ!?」
俺の目の前には、チョコレートで作られた精巧なフェニックスが鎮座していた。ハート型よりこっちが簡単ってどういうこと!?
それ以前に、何処にそんな型あったの!? そんな物、用意してませんけど!?
「やはり、フェニックスでは反応がイマイチですか」
「邪魔だし、砕きましょう」
「それじゃあ、私がやりますね。えい!」
リリアの木槌でチョコフェニックスが砕け散った。チョコ故に、復活とかしない。
「フェニックスが死んだ!?」
「ユーリさん。フェニックスは、死にませんよ?」
「灰から復活します」
「バハムート火山で見ましたから」
「見た事あるんかい! 今度行ってくるよ!!」
というやり取りがあったけど、無事に完成した。
「それでは、実食に入ろう」
出来たてのチョコレートに手を伸ばして……掴めない。掴もうとした指が、拒絶反応により止まって動かないのだ。
「ユーリさん?」
「リリス。……君が、食べさせてくれないか?」
「!? よっ、喜んで!!」
リリスは、チョコレートを1つ掴むと口に咥え、口移しで食べさせて来た。チョコのほんのりとした甘さと滑らかな口溶けが伝わってくる。いい出来だ。しかし……。
「何故に、口移し?」
「それが要望なのでは、無いのですか?」
「「ずっ、ズルい!」」
「………」
これは、2人ともやる事になりそうだ。
「あっ、ユーリたち。お帰り」
「ただいま」
談話室に戻るとソファーでアイリスがごろごろした。他の皆も戻って来てた。
「長かったけど、上手く行ったの?」
中で色々あって、イレーネコスモスで1日過ごし帰って来た。現実では、丁度おやつタイムの時間だった。
「おお、上手くいったぞ。そうだ、口を開けて」
「?」
言われるままに口を開けたアイリス。俺は、手にチョコレートを乗せて、デコピンで彼女の口に放り込む。
「パクッ。もぐもぐ……おっ」
「おっ?」
「美味しい〜! ナニコレ!! ユーリが作ったの?」
「リリスたちが作った」
「はい、私たちがユーリさんの指示の元、作りました」
「凄い! やれば出来るじゃん!!」
「そんなにですか?」
「マリーも食べて見れば分かるよ」
俺は、アイテムボックスから取り出し、机に置く。
「そっ、それでは、1つ……パクッ」
マリーは、一瞬、口に入れる手が止まったけど、意を決して放り込んだ。
「まぁ……おっ、美味しいです!」
マリーは、感激の声を上げた。それを皮切りに、皆も気になった様で、ドレドレと手に取って行く。結果、皆に好評の元に受け入れられた。
「「「大成功!」」」
リリスたちに、料理への自信がついた様だ。
後日、チョコレートのレベルが元に戻りました。
理由は、色々混ぜる事を覚えたからだ。しかし、3回に1回、激レアの美味が有るから止めろと言えない空気になったのだった。




