狂乱の宴 1日目 後編
商業エリアと市場エリアの境界付近では、激戦が繰り広げられていた。
「やっ、やり辛〜い! 何で、相手がシオンなのよ!!」
「出会ったのが運の尽き」
ゴーレムに位置がバレたイナホとシオンは、隠れるのではなく、素直にエリア移動することにした。
しかし、その道中、セレナとマローナのチームにばったり遭遇して戦闘となったのだ。
「私も、ここで出会うなんて思わなかったわよ! 仲間なら頼もしいのに、敵になったら厄介なのね!!」
「私も攻め辛い。近接は、そっちの十八番。だから、距離をおきたいけど、セレナが邪魔する」
「当然よ。近付けさせないし、離れさせないわ!」
「なら、私が抑えるので離れて下さい」
「っ!?」
セレナは、突如自分を狙って飛んで来た複数の魔法をバックステップする事によって、ぎりぎり避けた。
「いっ、イナホちゃん!? マローナは、どうしたの!?」
「彼女なら脱落しましたよ、ほら、あの様に。おかげで、氷じゃないとペンダントを奪えない事が分かりました」
セレナの目には、空へと登る光が見えた。遠目に見えたベティの時と同じ事から脱落した事を理解した。
「えっ? って事は、私一人!?」
「です。だから、素直にペンダントを置いていくなら見逃しても良いですよ」
「う〜ん、逃げ出すのはちょっと。クエストならまだしも遊びだし」
「そうですか。遊びですか」
突如、イナホから膨大な魔力が溢れ出す。また、溢れ出した魔力は大気を振動させた。
「「!?」」
「あっ、あれ? 私、何かに不味い事言った?」
「……遊び?」
「えっ? 嘘でしょう、シオン?」
「たぶん、それ」
「……私たち。ユーリ様の嫁にとって、これは遊びでは無いのです!」
これの原因は、開始前に遡る。
「マリーさんたちを除いたこの場の嫁の中で、誰が一番強いんですか?」
ラズリが好奇心から聞いたこの質問が、イナホたちの心に火をつけたのだ。
「シオンさん。サポートお願いします」
イナホは、前衛に立ち、セレナを抑え込む。その隙に、シオンは行動を開始した。
「了解」
シオンは、一気に離れて弓を構えた。また、その矢には、風を纏わせる。それにより、変則的な射撃が可能になり、セレナの動きを制限する。
「せいっ!」
「わわっ!? ……えっ? これって、ベルの!?」
セレナは、借り物の剣でイナホの銃に付いた魔力の刃を受け止めた。しかし、それは、大きなミスに繋がる。
「ハアァァッ!!」
「げぇ!?」
イナホが力を込めると魔力の刃は、セレナの剣を両断。セレナは、あまりの出来事に女の子に似つかわしく無い声を上げてしまう。
だが、この結果は当然だった。高純度の魔力で編まれた刃は、常時振動もとい流動している為、超振動カッターの体を成している。
セレナが、常時使う剣ならば防げなく無いが、借り物の剣は安物の為両断される事になった。
「今だ!フリーズショット!!」
「エアーズアロー」
「ひゃっ!?」
イナホの刃は、剣を両断した後も迫ってきたが、セレナには防ぐ手立てが無い。彼女は、体勢を崩しつつも、何とか避けた。しかし、それを放っておく2人ではない。
イナホの至近距離からの射撃は、身体を凍結させ、シオンの矢は、手に残った折れた剣を吹き飛ばした。
「もぉおおぉぉ!! いつもの剣ならやれたのにぃいい!!」
「では、頂いていきますね」
イナホは、セレナからペンダントを外し懐に仕舞う。
「イナホ。セレナをどうする?」
「今後の為に、当然こうします」
動けないセレナに銃口を突きつけるイナホ。彼女は、笑顔でこう告げる。
「リリアさんのチョコならまだ食べれます」
「ちょっと、イナホちゃん!? まさか、止めっーー!?」
バチッという音と共に、イナホの銃が放電する。そして、セレナは、一筋の光になって登って行った。
これにより、セレナとマローナのチームは脱落。
残り27人。イナホのペンダント数2。
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ユーリから無事逃げ切ったロギアたち。隠れながら、アイテム回収を行っていた。
「店の中からアイテムボックス発見だニャ!」
ある店からライカが赤い正方形の箱を持ってきた。
「今度は、何です?」
「今、開けるニャ」
中身が気になるユキの前で、ライカが箱を開ける。今までに何回したのと同じように。
「え〜っと、『竜すら殺れる手榴弾』って書いて有るニャ」
「アイテムボックスって、武器しか出て来ないな」
「まぁ、おかげで、装備が充実したから良いじゃねぇ?」
「竜種も狩れるという事は、マリーさんたちにも対抗出来るって事ですね。大事にしましょう」
「だから、しっかり管理するだよ、ライカ」
「分かったニャ、マリエル」
元気に返事したライカ。彼女は、箱の中にまだ何か残っている事に気付いた。
「あっ、もう一個『ビックリ玉』ってのも、入ってたニャ! 何々……まずは、地面に投げてつけて下さい。こうかニャ?」
「えっ? ちょっと待て! ライカ!!」
「ニャ?」
ロギアの声も虚しく、ライカが投げたビックリ玉は地面にぶつかった。その瞬間、ビックリ玉は弾け、ボフッ! という音と共に溢れ出した煙で路地裏を満たした。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!皆、無事か?」
「俺は、無事だぜ!」
「私もです!」
「ロメオ!スルーズ!他は?」
煙の中、し〜んと静まり返り、返事は返って来ないな。
「おい、どうした!? 怪我でもしたのか!?」
「分かんねぇ!風で煙を晴らすぞ!」
ロメオの魔法で、煙が晴れていき、3人は気付く。
「「「なぁ!?」」」
ユキとライカのチーム。その上、マリエルが消えている事に。
「消えただと!? さっきのアイテムか!?」
「おい、ライカが持ってた説明書が落ちてるぞ!」
「え〜っと……地面に叩きつけると煙が発生し、対象範囲内にいた者へ転移が発動する。また、転移場所に関してはランダムとなっています〜!」
「それじゃあ、あの娘たちは違う場所に転移したということ?」
「そういう事になるな」
「どうする? 探しに行くか?」
「……すまん。とりあえず、もう少し考える。今は逃げよう!煙で位置がバレたかもしれん!」
「「ハッ!?」」
「急ぐぞ! 今ならまだーーおわっ!?」
「きゃっ!?」
2人の驚愕の声が響き渡った。何故なら、突如ロギアとスルーズのペンダントが引き千切られて消えたのだ。
「アイテムを使った本人以外が残ってると思って見に来て正解だったな。ってか、まだこのエリアにいたのな。でも、おかげでペンダント2つゲットだ。所で、ユキたちはどうしたんだ? それにマリエルも」
「「「ユーリ様!?」」」
ユーリの姿は見えないのに声だけが響いてくる。
「一体、何処に!?」
「分かるか!俺も見えねぇよ!!」
「とりあえず、固まって対処しましょう!」
「ふむ。何処から襲われるか分からない恐怖感も良いけど姿を見せてあげる」
太刀を肩に担いだユーリが3人の前に姿を現した。
「さて、どうしよう? 鬼的には、ペンダント奪ったから逃げた方が盛り上がると思うだけどな」
ユーリは、自分の方針を考えて悩んでいる。
「ロギア!どうする!今ならやれなくもない気がするぞ」
「装備も整ってます。そこそこならやれるでしょう」
「……分かった。やろう」
3人は、互いに頷き合い武器をユーリに向けた。
「おっ、そっちはやる気なのか。なら、やっぱり相手をしよう。まともに狩って無いからな」
ユーリは、太刀を上段に構え宣言する。
「丁度、実戦で使ってみたかった技が有るんだよな。ロギアたちは、知ってるよな? 剣士なら斬撃やビームくらい出せないととか言って練習したやつ。というか、俺とグレイが練習してるのをしっかり見てるもんな!」
ユーリから純粋な魔力が光となって立ち昇る。それはまるで、星の輝きの様に煌めき、全てを圧倒する。
「「げっ!?」」
「なっ、何が起こるんですか!?」
「全力で前面に障壁展開! さすがに、ここで最大出力は出さない筈だ! 出さないですよね? 出さないで下さいよ!!」
「おい! それで回避出来るかよ、アレが!だけど、それしかねぇんだよな、クソ!! 出会った瞬間に攻撃せずに、ぼーっとしてた俺を殴りてぇ! ユーリ様、威力弱めて下さいよ!」
「えっ? えっ?」
3人の協力により、八重の障壁が生み出された。それに対してユーリは、剣を振り降ろす。
「『ホーリーバースト』!!」
剣の軌跡に合わせて、立ち昇っていた魔力が迸る。それは、濁流の様に建物を次々に飲み込み、正反対にある工業エリアまで到達したのだった。
「……脱落確認。そして、3割くらいの魔力で、上級2発くらいの威力か? まぁまぁだな」
閃光が駆け抜けた瞬間、三条の光が立ち昇っていった。それは、ロギアたちの腕輪が発動した証拠でもある。
「日も暮れてきたし、今日はこれくらいだな。アイリスと合流しよう」
空は、夕焼けに染まっていた。ユーリは、自分の技が作った道を歩き、アイリスと合流する為、工業エリアを目指すのだった。
ロギア、ロメオ、スルーズの三名が脱落した事により残り24名。ユーリのペンダント数は、5。




