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出産ラッシュ

 草木も眠る丑三つ時。まぁ、夜中の2時くらいだな。本来なら静まり返った不気味な時間に、呻き声が響き渡る。


「うう…ああ……!!」


「頑張れ、リリア!もう少しだぞ!!」


 呻き声の正体は、出産の痛みに耐えるリリアだ。


「……そうです。頑張りなさい。……私はもう産んだわ」


 リリアの隣で寝ているリリスは、既に出産を終えて、妹を応援していた。


 そして、俺が出来る事もリリスと同じく応援するだけだ。薬師としての処置も既にした。


 出産の痛みに耐えれる様に、痛覚緩和用の薬剤を使用済み。それでも出産の激痛は、やはり辛かったらしい。苦悶の表情を浮かべている。


「呼吸に合わせて力んで下さい!」


「こっち何時でも大丈夫よ!」


「あっ、あぁああーー!」


 布越しで見えないが産まれたようだ。しかし……。


「出ました!……でも、これは!?」


「不味いわ!?」


 リリアから赤ちゃんを取り上げた助産師たちの動揺が伝わって来た。俺は、数を経験した事で、赤ちゃんに何が起こっているのか、直ぐに理解出来た。


「………」


 産まれたばかりの赤ちゃんが、泣かないのだ。


 鑑定による結果も、死へと近付いている。このままいけば、亡くなってしまう。


「大丈夫だ!まだ、間に合う!!」


 俺は、エリクサーを掴み、助産師が持つ赤ちゃんに振りかけた。見慣れた淡い光が赤ちゃんの全身を包み込む。


「オッ…オギャアァーー!」


 赤ちゃんが泣いた。もう大丈夫だろう。


「よし……これで大丈夫だ。……良かった」


 なんとか全員、無事に産まれてくれた。この子を入れて3人、死にかけたが、エリクサーのおかげで助かった。普通なら亡くなっているそうだ。


「助かりました。動揺してすみません」


「私もです」


「いえ。まだ、数をこなしていないんですから、仕方ないですよ」


 今回、リリィから始まった出産ラッシュには、見習いを含めて多くの助産師が参加した。経験を積ませたいという考えもあったのだろう。


 最後の1人は、見習いの子たちが受け持っていた。 


「2人共、産まれたの?」


「気になって来ました。泣き声が、隣の部屋にまで聞こえていたので」


 リリィとリディアが、夜中なのにやってきた。リリィは褐色の男の子を、リディアは女の双子を抱えている。彼女たちの赤ちゃんだ。


 リリィの子は、ハイエルフダーク種で『リオン』。


 リディアの子たちは、ハイエルフで『リーファ』。もう片方を『リーシェ』という。


 また、リディアの子は、二卵性双生児だったらしく、髪の色が違う。リーファは金髪。リーシェが黒髪、俺譲りだな。


「寝てなくて良いのか? ホルモンバランスが崩れて辛いんだろ?」


「産んで、1週間よ。それに4人目だもの。慣れたわ」


「私は、少し眠いですが耐えられます」


「そうか。無理するなよ」


「はい」


「で、産まれた様ね」


「うん。リリアの子が、ヤバかったけどエリクサーで助かったよ」


「普通は、エリクサーが無いから誕生死なのだけど、貴方が旦那で良かったわ」


 エリクサーは、母体が急変した時に使う物だと思っていたが、実は、赤ちゃんの為でもあったのだ。アイリスとマリーの時は、必要無かったので知らなかった。


「……母さん、来てたのですか? 私の子が産まれましたよ」


「おめでとう、頑張ったわね。所で、この場合、私はママなのかしら? それとも、やっぱりお婆ちゃんなのかしら?」


「……ママの1人で良いのでは? だって、こんなに血が濃いんですから」


「うん。俺もそう思う」


 リリスの子たちは、褐色肌だった。そして、実は双子。こっちは、一卵性双生児なので似た容姿をしている。


 名前は、『リリカ』と『リズ』。


「あら? ハイエルフダーク種の女の子なの? ダーク種でも珍しいのに、双子なのね」


「ユーリさんの種が強かったんですよ」


「いや、双子産んだのリリスとリディアだけだからね。しかも、リリスの方は、一卵性だから強いとか関係ないから」


 リディアみたいに、二卵性双生児なら強いって断言出来るけどな。


「……リリアは、寝てしまった様ですね」


 リリアのベットに近付き、覗き込んでいるリディア。


「疲れたんだろうな。初産な上に、難産だったから。それでも、母子共に無事で良かったよ」


「これで、孫が5人になったのね」


 リリアの子は、ハイエルフで男の子。名前を『リンク』。金髪蒼目の男エルフだから似てると思って、某ゲームの主人公と同じ名前にした。


「孫というより我が子の1人として接してくれ」


「確かにそうね。ママの1人だもの」


 リリィは、納得した様だ。「まだ、若く見られたいものね」とかも言ってるから大丈夫だろう。


「お疲れ様です。無事に産まれたのですね。交代なので、ゆっくり休んで下さい」


「皆様、夜ふかしは、身体に堪えます。お休み下さい」


 助産師さんたちの交代も来た様だし。リリィたちも部屋に帰り寝るそうだ。俺も寝ると助産師さんたちに伝えよう。


「分かりました。後は、私たちで見守ります。お任せ下さい」


「お願いします。エリクサーは、複数本置いていくので、何か有れば遠慮なく使って下さい」


「では、もしもの際は、遠慮なく使わせて貰いますね」


「それじゃあ、明日また来るからな。お休み、リリス」


「ええ、お休みなさい。ユーリ様…さん」


 子供を産んだのを機に『様』から『さん』に変更して貰ったが、まだ慣れない様だ。俺は、可愛いと思ったので、母親2人のおでこにキスをして自室に帰った。






 朝起きて、朝食後、母親たちの様子を見て回る。


 まずは、昨日の夜見たメンツからだ。リリィとリディアの部屋にいく。基本、母親2人で一部屋使って貰っている。助産師さんたちが見守り易くする為だ。


「起きてるか? そして、元気か?」


「起きてます」


「元気よ。赤ちゃんも」


 リリィは、赤ちゃんの手をふりふりしてアピールしてくれた。母子共に元気な様だ。


 次は、予定通り、リリスとリリアの部屋に行った。まだ、寝ていたが、問題なく元気な様だ。後で、もう一度行こう。


 フィーネとミズキが居る部屋に入った。丁度、赤ちゃんに授乳中。片胸を出して授乳するフィーネを見ながら、同じ様に真似て授乳しているミズキ。


「あっ、ユーリ様。おはようございます」


「おはようございます、ユーリ様。こんなにお早くどうされました?」


 俺に気付いたらしく、赤ちゃんに向けていた視線を上げた。


「おはよう。日課のママさんズの見回りだよ。それと二人は『様』付けのままなのな」


「えっと、まだ慣れなくて……」


「旦那様というよりご主人様の方が強くて……」


「リリスたちも慣れてないし、その内で良いか」


 俺は、彼女たちの赤ちゃんに目を向けた。2人共、美味しそうによく飲んでいる。


 フィーネの子は、奇跡が起こり同じ乳牛族(ミルフィブリンガー)だった。名前を『ユフィー』。


 2人の名前から取って付けた女の子の名前なのだけど、マリーから「ユーフェミア姉様の愛称と同じです」と言われた。今更だが、変える気はない。


 ミズキの子は、男の子で名前を『スルガ』。ブラウン姓を名乗る事は出来ないし、結婚してるから俺のシズ姓という事で日本名にした。


「沢山飲むな」


「そうですね。ただ、それでも減らないので、後で絞って頂けませんか?」


「私は、せっかく大っきくなった胸が萎むのが悲しいです」


 母乳の影響で、AAから2ランク程に上がっているから悲しくなるわな。


「マローナ秘伝のバストアップ法を試すか? 本人は、それで急成長したらしいぞ」


 マローナの身長は、ミズキより少し高いくらいだが、胸のサイズは天と地……いや、月とスッポンの差の方が近いな。なんせ、本人の主張によるとDだが、エロース診断によるとE寄りだとか。


「やります!やらせて下さい!!」


「2ヶ月後な。最も効果が、期待出来るやり方を試せる時期がそこからだからな」


「……分かりました。それまで我慢します」


「安心しろ。俺も協力しないといけないし、頑張ろう」


「はい!」


 というやり取りをして、次の部屋に行く。行き先は、イナホが居る部屋だ。


「アイリス、イナホ、おはようさん。マリーは、自室で仮眠中か?」


「おはよう、ユーリ。そうだよ。さっき、私と交代したから」


「おはようございます、ユーリさん」


 イナホは、誰かさんが原因でアイリスやマリーと同室になった。先に母親になった彼女たちから色々習っているそうだ。


 それと既に『さん』付けをした呼び方に順応した様だな。


「うん、良いね。主呼びも嫌いじゃないが、ちゃんと名前で呼ばれる方が嬉しいな」


「でも、たまには赦して下さい。私の全てはユーリさんのモノですから」


「………」


「ユーリ。今、めちゃくちゃにしたいと思ったでしょう。ダメだよ。2ヶ月くらい置かないと出来ないからね。したいなら後で抜いてあげるから……というか抜くから」


「……分かった」


 後で、アイリスに絞られるので、さっさと見て回ろう。俺は、ベット側のベビーベットに近付く。そこには、黒髪の獣人族狐型の女の子が寝ていた。


「クロエも元気そうだな」


 ほっぺたを突くけど、スヤスヤ寝ている。


「はい、さっきも元気に泣いてましたよ」


「なら、良し。イナホも元気そうだし問題ないな。アイリス、後は頼んだ」


「任せてね」


 そして、部屋をあとにした俺は皆より少し離れた個室へ向かった。そこには、エロースだけがいる。


「どうして、私は一人部屋なの?」


「出産後なのに、何かの拍子で鼻血出したらどうする? さすがに、今度は死ぬぞ。出産で出た血が、完全に戻ってないのに」


「だから、助産師さんも年配なのね。というか、もう治ってるわよ」


 エロースはベットから立ち上がり、両手でスカートを掴むと口元までたくし上げ、自らの秘部を見せてきた。


「ほら、治ってるでしょ。悪露も出ないし。天使の回復力舐めないでよね。助産師さんやお医者さんからも自由にしていいと言われたわ」


「ほうほう、それは、夜の営みもか?」


「そうよ」


「なるほど。なら、遠慮は要らない訳か」


「えっ?」


「責任を取って、今からして貰おうか」


「ゆっ、ユーリ君!? アテナが寝てるのよ!?」


 アテナは、エロースの産んだ娘の名前だ。天使族は、女性のみの種族の為、当然女の子が産まれた。


「ベットの周辺に防音防臭の魔法張ったから大丈夫。凄いでしょ。使いまくったから無詠唱で発動出来る様になったよ。だから、これで起きないよ。それに、母乳をあげて寝たばかりなんだよね?」


「あの……その……」


「赤ちゃんの為に、気絶するまでしないから安心して。何、エロースのせいで元気になった息子を鎮めるだけさ」


「それ、安心出来ない……」


 その後、やる事やってエロースの部屋を出た。風呂に入った後、リリスたちをもう一度見に行った。健康の様で、安心した。


 これで、うちの娘たちは、確認出来た。そして、アイリスの所へ、それから2人で風呂へと行った。


 最後に、グレイたちの赤ちゃんも久しぶりに見に行った。ティアたちの出産後、助産師さんたちに任せて見に行っていなかった。


 行ってみたら、母子共に健康だった。そして、名付けを頼まれた。恩人として、俺に名を付けて貰いたいらしい。だから、変な名前でなくちゃんと考えた。


 グレイとティアの娘を『レイア』。


 ライドとカレンの息子を『ラカン』。


 エルドラとポプラの娘を『ララ』。


 夫婦の名前から少し取り、名付けた。特に嫌な顔はされなかったから問題無い様だ。


 という訳で、0〜1歳未満の赤ちゃんが、全部で14人になった。うちは、託児所でしょうか? 成長したら賑やかになるな。

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[一言] 出産直後にやるのは鬼畜すぎて引く
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