閑幕 女神にバレた神様たち
「さて、エピメテウス。貴方の知ってる事を、詳しく聞こうじゃない?」
エピメテウスは、凄く困っていた。
あれ、おかしいな? 美人に逆壁ドンされるという素晴らしい状況なのに、冷や汗が止まらないぞ。
彼女からは、カエルを睨む蛇の様に、有無を言わせない圧力を感じる。
「エルメラ様、落ち着いてくれませんか?」
「貴方が逆の立場なら落ち着けるのかしら? もし、自分に溺愛の娘が居るとする。その娘が、力が有って、金持ちで優しい優良物件だけど、ハーレムを持った男に嫁ぐのよ」
少し自分に置き換えて考えて見る……。
「娘は、嫁にやらん!」
「そうでしょう!」
「いやいや、許可しなさいよ。本人から迫ったんだから」
「あっ、タナトス様!」
タイミング良く、廊下にタナトス様が現れた。
「何、私の娘が悪いって言いたいの?」
「いえ、貴方の娘さんが『メスがオスの子を産むのは最高のお礼だと思いましたが?』と言っていたもので」
「……人としての育て方を間違えたかしら」
「彼女、神獣です。そもそも、人も獣です。それに、人の要素は、魔法使わないと無いです」
確かに、タナトス様の言う通りだよな。
「それに、彼は悪い人では無いのですから、寛容になって下さい。何なら、一緒に見ますか?」
「……そうね。じっくり見た事無かったわ。ちゃんと補足してくれるのでしょうね?」
「ええ、しますとも」
エルメラ様を加えて鑑賞会をする事になった。俺、ここに居て良いのかな?
タナトスたちの鑑賞会を遠くから見守る従者たち。
「なぁ、いつからタナトス様とエピメテウスの鑑賞会に、エルメラ様が加わったんだ?」
「何でも、娘さんが映ってるらしい」
「あの方は、溺愛しているからな。変に関わると巻き込まれるぞ。現に、さっき、エピメテウスが壁ドンされて青褪めてた」
「ああ……それは……くわばらくわばら」
「だから、アレに加わるのは止めておこう」
「そうだな」
何故か、従者たちの間に変な連帯感が生まれるのだった。
「ねぇ、皆孕ませたのに、うちの娘だけ孕んで無いのだけど」
「それは、キスばかりで、殆どしてないからですね」
「うちの娘がダメなの?」
「多分、2人共、そっちで魔力供給したら不味いと思っているのでは? キスがあれだけ濃厚ですから」
「早く孫が見たいわ」
「さっき、否定してませんでしたっけ?」
「してたけど……周りの女の子に喰われる様子ばかり見てるとね……本人が、悪い人でないのは良く分かったわ」
「ああ、納得です」
「あっ、お二方。彼らに動きが有りますよ」
「何々、エルフの隠れ里?」
「これは、……増えますね。女の子が」
「そういえば、お二方に聞きたかったんですけど、本来のエルフってどっちですか?」
「「はい?」」
「ほら、エルフって、妙に気位が高くてツンツンのイメージじゃないですか。でも、彼を含めて一部の者に対する行動を見ると、貪欲な獣ってイメージがするんですけど」
「ああ、それはね。両方よ」
「両方?」
「極端に言うと、極度の人見知りみたいな感じですよ」
「初対面の相手には、気位の高くてツンツンだけど、仲間が認める男性に対しては、親切丁寧で優しくなるわ」
「そこに実力が加わると、デレて積極的に子の獲得に走ります」
今、水鏡から見る彼はバトルを猛スピードで勝ち抜いている。
「という事は、このバトルが終わると……」
水鏡では、エルフの巫女が降参したので彼の優勝が確定した。それにより、周りのエルフたちは……。
「「「堕ちたな!」」」
女エルフたちは、彼をハート目で見ている。
「これは、……増えましたね」
「でも、一応、3人に留まりましたよ。それでも多いですが」
「他の子たちが、夫婦で助かったわね」
「今度は、事件が起こったみたいですよ」
「……パラダイスロストですか」
「失楽園を謳うだけあって、異常な快楽から急激に落ちるらしいわね。薬神のサマエルじゃないから、そこまで詳しく無いけど」
「そのサマエル様ですけど、教団の信仰対象だったみたいですよ」
「本人が聞いたら怒りそうな案件ね。そういえば、彼って、神の転生順だと、今、現世に居るんじゃ無かったかしら? 私の次だし」
「彼なら約500年程前に、帰って来てますよ。人間に転生して、87歳まで生きました。私の管轄なので、そこは覚えています」
「あら、そうなの? てっきり、ずっと会って無かったから、まだ居ると思ってたわ。なら、報復は無いわね」
「それ以前に、神の力と記憶が無いから無理なんじゃ?」
「力は無理ですが、記憶は、稀に戻りますよ。例えば……」
「私ね」
「そうなんですか?」
「処女を喪失した時に、痛みで戻ったわ」
「生々しい発言、ありがとうございます。相当、痛かったんですね」
「痛かったわ。……うん? という事は、今は誰が現世に居る?」
「アルテミスが居ますよ。というか……」
タナトス様は、水鏡を指差した。
「さっき、エルフの里を見た時、映ってましたよ」
「マジすか!?」
「ホントなの!? 気付かなかった! 誰なの?」
「エルフの巫女ですよ。今は、彼女に転生してます」
マジで、色々な種族に転生するんだな。本気で、気付かなかった。
「次は、ダンジョンみたいですね」
「彼、遠出すると女の子を連れて帰るから、今回は大丈夫かしら?」
「冒険者の娘をって事ですか? それは、さすがに、無いですよ」
「そっ、そうよね」
「あっ、お嬢さんたちが何かに気付いた様ですよ」
数分後。
「「「なんで!?」」」
女の子が増えました。宝石族が3人、角族が1人、獣人が1人。助けたからには、責任取るそうだ。
「これは、予想して無かったです」
「彼女たち、ガーゴイルと同化してましたね」
「同化というより捕食よ。石化させて食べてたの」
「手足が無かったのは、既に食べられたからです。しかし、運が良かったみたいですね」
「運が良かった? 助かった事にですか?」
「いえ、上半身を、まだ食べられていなかった事です。心臓まで食べられていたら、エリクサーでも助かりませんからね。おそらく、あまり活動していなかったからでしょう」
ガーゴイルは、動く時のみエネルギーを消費する。
「それに、餌袋にされなかったのも良かったわね」
「餌袋って、初めて聞くんですけど」
「餌袋ってのは、性器だけ残して石化した女性に、子供を産ませ、赤ちゃんを食べる事よ。石化してないなら、その機能は正常に使えるもの。そして、精液なら死んだ冒険者から回収出来るからね」
「結構、エグいですね」
「そうよ。産めなくなるまで、ずっとだからね。まぁ、上位の一部しかしないから、そうそう見ないわ」
「なるほど」
「……ふむ。どうやら、ダンジョン内に同じ様な少女が、まだいる可能性がありますね」
「そうなの?」
「神の記録によるとダンジョンが発見された理由でもあるんですが、当時、ガーゴイルが近くの村を複数襲った様です。そして、多数の行方不明者を出した様です」
「単なる誘拐じゃないの?」
「宝石族では、それもあっていますが、ガーゴイルに全部で10人連れ去られたと記録が有ります」
「今、何人だっけ?」
「5人です」
「ダンジョンの記録で、彼女たちの様な状態のガーゴイルは何体いるの?」
「え〜っと……3体ですね。残りの2人は、残念ながら食べられてしまったみたいです」
「よし、分かったわ。ちょっと、文句ついでに助言してくる。彼も気にしてるみたいだし」
「ちょっ!? まさか、現世に行く気ですか!? 転生以外で行くのは重罪ですよ!!」
「直接は、行かないわよ。直ぐに帰って来れないし」
「ああ、なるほど。アレをするんですね」
「そうよ。というか、貴方はやらないの?」
「そうですね。……エルメラさんの話で動きがないなら、私もやりますよ。原則、不干渉って事になっているので、基本はしませんがね」
「分かったわ」
全く話がついていけません。何をするんだろう?
「一体、何をする気なんですか?」
「それはーー」
その話を聞いて納得した。その手があったよと。これなら他の娘も助かるなと思った。




