ダンジョン後半戦
25階層アンデッドエリア。
アンデッドには、種類が有り、通常武器には相性がある。例えば、スケルトン。切断に強く、打撃による粉砕でないと辛い。
他には、ゾンビ。切断に弱く、打撃に強いといった特徴がある。
しかし、弱点が存在するのもアンデッドの特性だ。特に、聖属性に弱い。聖属性を纏った武器なら何でも有効になる。
「一気に抜けるぞ」
『了解』
俺たちがメインとなって、聖錬銃を乱射しながら駆け抜ける。
「気持ちいい!あっ、ルートはこっちだよ」
「一撃で砕け散るのが面白いですね!」
アンデッドは、ドロップ品があまり出ないので、寄り道もせず、どんどん進む。しかし、2人共射撃ゲームよろしく楽しんでいる様だ。
「アンタらといると常識が狂っていけないよ」
「そうね。あっ、たまにはスケルトンを回して!私も剣で斬ってみたい!」
「私、ここでの役はないから素直に付いていく」
「火なら少しは効果有りますよ」
そんな風に喋りながら、一気に駆け抜けた訳だ。訳なのだが……。
「ここって、何階だっけ?」
「30階」
「まさか、25〜30階層までアンデッドエリアになってると思わなかったよ」
この階層ボスもアンデッド。ジャッジメントの一撃で砕け散った。
確か、メガスケルトンとかいう、ガシャドクロみたいな奴だった。
以上、回想終わり。
「という事は、次からが未踏の地という訳か。ドキドキするな」
「そうだね。私たちが、最初の人だよ」
「100年前が30階層ですから、次もしくは、その次で終わりですね」
「なら、気合を入れないとな」
「私は、何時でも行けるわよ」
「問題なし」
「とうとう、最下層に到達するんですね!ワクワクします!!」
俺たちは、階段を降り、最下層に足を踏み入れた!
ちゃぷん……と水溜まりを踏んだ時の感覚がしたので下を見る。水溜まりではなく、浅く水が張っていた。しかし……。
「こっ、これは!?」
「ユーリ、上!!」
水に映っていたものが、本物か確認したくて上を見た。
「ダンジョンに空だと!?」
「いや、天井は有るよ?」
「確かに、天井が有ります。しかし……」
「おいおい、アタシは夢でも見てるのかい?」
「違うわ。私にもそう見えるわ!」
「おそらくトリックアートの1種だと思う」
「トリックアート……なら、天井はキャンバスって所ですか」
とても不思議な場所だった。どうやら、この階層は、フィールドの様だ。
「辺り一面を水が覆っているな。水は、普通だ。しかも、飲めるらしい」
俺の鑑定によると軟水で、普通に飲めるそうだ。
「下の砂は、白いね。……珊瑚の欠片?」
「ええ。おそらく、所々に生えている白い木の様な物が、珊瑚なのでしょう」
「綺麗だな。少し貰って帰るか。一瓶有ればイレーネコスモスには足りるからな」
「おっ、それ良いな。アタイも持って帰って、職人に砂時計を造って貰おう」
「私も」
カトレアの提案を聞いて、皆も「それ良いね」と言いながら続々と瓶に詰めていった。それは、俺もで結局二瓶確保した。
「さて、ボスは何処だろう」
一通り、回収したので、満足して切り出した。
「う〜ん、見えないね。あの丘に上がって見てみる?」
アイリスが指した先には、白い砂の丘が有り、枯れ木が1本だけ立っていた。周りに木らしい木が無いから、かなり怪しい。
「アイリス。あれおかしく無いか? 凄く怪しく見えるぞ」
「でも、普通の丘みたいだよ」
「なら、警戒しつつ登ろう」
俺たちが丘に近付いた瞬間、変化が起こった。
「ユーリ!!」
「分かってる!結界!!」
俺は、指4本使って結界のルーンを4重書きした。そして、4重書きした瞬間、結界は火に包まれた。
「状況確認!全員無事か?」
『無事!』
結界を4重展開した事により、全員無事だった。その内2枚の結界は、持って行かれたので危なかった。
「よし、なら、奴を狩るぞ!」
俺たちに火を放った張本人に目を向ける。丁度、枯れ木に降り立った所だ。あの木は、魔物とかでなく、コイツの止まり木だった様だ。
『ドラゴン!』
名称:ファイヤードラゴン
危険度:S+
説明:火を操るドラゴン。特に語る言葉は無い。もし、全身に火を纏った場合は、広範囲攻撃の前兆。退避を推奨する。
「攻撃される前に奴を叩く、各自、最善を尽くせ! アイリス、マリー!!」
2人に氷の竜撃弾を投げて渡す。
「OK!理解したよ!」
「任せて下さい!」
アイリスとマリーは、空中で装填し、射撃を開始した。シオンとベルも攻撃を開始する。
しかし、ドラゴンが持つ5重の障壁に阻まれて通る事はない。
障壁に当たっては砕け、再生。当たっては砕け、再生の繰り返し。その為、動くに動けずドラゴンの足は止まっている。攻撃の為に、障壁を消せばヤラれると分かっているのだろう。
だから、牽制としては、十分だ。
「辿り着いたよ!一枚は、貰おうか!!」
「私も合わせて2枚ね!!」
「なら、残りは俺がたたっ斬る!!」
カトレアとセレナは剣で障壁を減らし、俺はフラガラッハで残りの障壁ごと、本体を両断した。
「グギャオオォォーー!」
「よし、やっーー不味い!!」
思考加速した状態で、状況を確認する。どうやら、ドラゴンは死ぬ間際に自爆を試みるつもりの様だ。
全員に結界を張りたいが、距離があって間に合わない。
「………」
ああ、なら、ドラゴンを包めば良いや。両指でルーン文字を描きまくる。
「おい、コイツは!?」
「ソーン!」
10重に結界を展開して包み込む。ドラゴンは、内側から溢れ出た火に呑まれて火球とかす。
「まるで、太陽みたいだな」
熱風も衝撃も結界に阻まれてやって来ない。しかし、ルーン文字を俺は描き続けた。何故なら片っ端から破壊されているからだ。
結局、17枚もの結界を展開した。ドラゴンの自爆は、それだけの威力だったのだろう。
「ふう……終わった」
ドラゴンは消え、装飾の素晴らしい宝箱だけが残った。
「ユーリ、無事!」
「大丈夫ですか!」
アイリスとマリーが駆けてきた。俺は、2人を抱き寄せる。
「無事無事。危なかったけど、無事だよ」
「さすがのアタシも肝が冷えたわ」
「自爆するとは思わなかったわ」
カトレアたちも精神的に疲れたらしく、地面に座っている。
「宝箱出てるから終わったんだ」
「綺麗な宝箱ですね。貰ったらダメでしょうか?」
「そうだった。開けてみよう」
「おーい、シオンたちも急げ!宝箱開けるよ!!」
「今、行く!」
「了解です、師匠!」
全員合流したのを確認して宝箱を開ける。既に罠が無いのは、確認済みだ。
「せい!……おおっ!凄ぇな!!」
「宝石や金貨、アイテムがいっぱい(又は満杯)だ!」
宝箱の中は、空間湾曲による拡張だろう。見た目と中から突出す武器の大きさが違う。
そして、先程から目立つ弓を引っこ抜いた。そして、鑑定を行う。
名称:サジタリウス・メイデン
レア度:S
等級:幻想級
説明:アダマンタイトを原料に作られている。また、女性所有時のみ、浄化の加護が発動する
「幻想級で、女性所有時のみ浄化の加護が出るってよ。能力は、あまり読んでないけど凄いな。これをシオンにと思うけど、どうだろう?」
皆に聞いてみたけれど、良いみたいなので、シオンに渡す。
「ありがとう」
「………ぐっ!?」
仏頂面のシオンが可憐に微笑んだのを目撃して硬直してしまった。そしたら、アイリスとマリーに肘鉄をかまされた。
すみません。見惚れた私が悪いんです。
「残りは、帰って見ようか」
アイテムボックスに宝箱ごと収納した。
「所で、最下層からどうやって帰るの?」
「話によると脱出用の転移門もしくは、魔法陣があるらしいですよ」
マリーの言葉を聞いて、皆で捜索を開始した。
「魔法陣を見付けたよ!魔力感知に引っかかった奴を見たら正解だった!」
地面では、魔法陣が淡く輝いていた。
「乗れば良いのか?」
「おそらく」
「それじゃあ、帰ろう」
念の為、俺から順番に乗った。そして、軽い浮遊感の後、視界が切り替わった。何処かの建物の様だ。
「よし、成功の……ぐはっ!?」
「きゃっ!?」
「ひゃっ!?」
「おあっ!?」
「ええっ!?」
「ぴゃっ!?」
「くふっ!?」
何故か、俺の上に皆が落下してきた。たぶん、これが一番ダメージを受けた気がする。
「いたた……ビックリしたよ」
「とりあえず、順番に降りましょう」
「痛い」
「あっ、ごめんなさい、シオン。直ぐに退くね!」
「うう……早くして重い……」
「キツイです……」
アイリスとマリーの苦悶の叫びが聞こえる。俺は、もっとキツイけどな。2重の意味で。背中から感じるアイリスの胸の感触と腹部にかかる単純な重圧。
「俺からも頼む。退いてくれ。特に、カトレア。重い」
「このまま、乗っててやろうか?」
「すまん。素直に退いてくれ……」
「はいよ」
順番に降りて行き、やっと開放された。
「ここ何処?」
「ギルド管轄のダンジョン出口でしょうね」
「光の漏れる扉がそこに有るから出ようぜ」
「そうだな」
立て付けの悪い扉を抉じ開けて、俺たちは数日振りの太陽の下へ出た。
俺たちの目の前には、冒険者の列が見える。突然、俺たちが出てきたので、注目を浴びる事になった。
数分後、受付の連絡によりギルド関係者が迎えに来て、近場のギルドに攻略した旨を報告。
詳細報告は、ギルさんに直接する事にしてカトレアたちも連れて妖精の箱庭に帰る事にした。




