ダンジョン攻略中盤2
「朝からステーキって、どんだけ食うんだよ」
「ダンジョン後半戦だから力を蓄えたいのさ」
今日の朝は、肉を所望された。といっても、カトレアだけ。
「他人が、お肉食べてるのを見ると無性に食べたくなるよね?」
「分かる」
俺たちの朝ご飯は、オムライスだった。
キュウリとコーンを加えて、食感を足したチキンライス。それに、ふんわりトロトロの半熟オムレツを乗せて切る。その上から特製トマトソースをかけたモノを出した。
「そういう、アンタたちだって両方食ったじゃないか」
「カトレアが悪い」
「肥ったらカトレアを恨むわ」
「いつも以上に食べた」
「何の肉だったんでしょう……やっぱり止めます。忘れて下さい」
結局、俺たちもオムライスを食べた上に、ステーキ肉も食べたのだ。
「だったら、その分動けばいい。魔物も強くなってきたからな」
「なら、宝箱も増えてきたから少し遠回りして行こう」
宝箱は、魔力感知に引っかからないけど、ギンカの鼻には引っかかるのだ。なにやら、ダンジョン以外の匂いがするとかで。
「そうね。そうしましょう」
「宝箱の中身が楽しみです。光り物だと特に」
「私は、マジックアイテムですかね? 杖とか欲しい所です」
「俺は、古文書が欲しいな。最近読むのに嵌ってて」
古文書には、太古の魔法やマジックアイテムの作成方法が記されていたりする。
竜王国の国立図書館や稀に古本屋で見かける。古本屋で見掛けたら購入している。
でも、ハズレで卒業文集をゲットした時は吹いたけどな。
「師匠は、古代文字も読めるんですね」
「一応、書けもするよ。変換表作ってやろうか」
タナトス様のおかげによるものだけどね。無意識の内に書けるものの、現在勉強している。ちゃんと知っておくべきだと思ったからだ。
ちなみに、エルフ文字というのも書けるし読める。でも、今のエルフは誰も使ってないけどね。
「少し考えておきます。それを紛失した場合、危険そうなので」
「そうか。気が向いたら言ってくれ」
「はい」
「ん?……ギンカ。そこに隠し部屋が有るけど、中から宝箱の匂いする?」
「くん……有りますね。ただ……」
アイリスとギンカが、宝箱の有る隠し部屋を見つけた様だ。しかし、ギンカが何か言い淀んでいる。
「ギンカ。何かあったか?」
「はい。実は、人の匂いが複数するのが、妙でして」
「誰か居るって事か? でも、この階層にはいないはずだろう?……俺は、壁が妙にデコボコしてるくらいで、他は何も感じ無いな。アイリスは?」
「う〜ん、壁寄りにある魔力の塊からガーゴイルか何かだと思うけど……何か混じってる感じもする」
さすが、アイリス。魔力感知の精度がずば抜けて高いな。
「どうする? 止めとくか?」
「対象が分かってるなら入ろうぜ」
「OK。ドロップ品をゲットだぜ!」
「貴方様が助けて下さったのですね……!」
「ああ……感謝致します。救世主様」
「本当に本当に、助けて頂きありがとうございます!」
「死にたいのに死ねなかったけど……生きてて良かった!」
「動ける!動けるよぉ……!!」
俺の目の前には、涙を浮かべて感謝する少女たちがいる。
あれ、ここってダンジョンじゃなかったっけ?
曖昧な記憶を辿ろう。確か、宝箱を狙って隠し部屋に入ったら、亜人の少女たちをゲットしたのだ。
意味分かんねぇ……。
「ユーリ、アンタ……」
「分かってる。ちゃんと責任取るし、連れて帰ります」
「凄い! 幻の宝石族だ!」
「角族と獣人の娘もいますね」
助けた少女は、全部で5人。宝石族が3人、獣人が1人、角族が1人だ。
「なるほど。匂いの元は、彼女たちですね」
「ユーリ君の指示で攻撃を止めて良かった。危うく殺す所だったわ」
「ガーゴイルに、石化して取り込まれていたからダンジョンに食べられなかった?」
「有り得ますね。でも、分離出来ないと救うのは無理でした。師匠の機転のおかげですよ」
隠し部屋に入ったら、案の定ガーゴイルがいた。ただし、胸に少女型の石像を取り込んだ状態でだ。
戦闘前の鑑定で気付いて良かった。急いでガーゴイルに、防御魔法を張ったおかげで彼女たちは死なずに済んだ。
張らなければ、ガーゴイル諸共瞬殺されていた。
「しかし、エリクサーをあんな風に使うとは思わなかったよ」
「俺も上手く行くとは思わなかった」
どうやって助けようかと考えた時、まずは、石化を解いてやろうとエリクサーを投げ付けた。
そしたら、石化が溶けただけで無く、分離したのだ。そこからは、魔法を解除。ガーゴイルが何かをする前に瞬殺した。
「とりあえず、服をどうにかしよう」
彼女たちは、何も身に着けていない生まれたままの姿なのだ。服は、ガーゴイルかダンジョンに食われたのかな?
特に、宝石族の娘たちの胸に視線が向く。
決して、たわわに実ったおっぱいだからとかではない。胸に大きな宝石が埋まっているのだ。
しかし、そのままにしておくのは不味い。アイリスに絞られまくって悟りに入った俺だが、数日経ってるので、息子が立ちそうだ。
急遽、俺とアイリス、マリーの3人で、魔力で編んだ服と靴を作る。人数も多いので作るのが簡単なワンピースとサンダルにした。
「これで、移動は大丈夫だろう」
「これから彼女たちをどうするんだい?」
「そうだよな……」
今、ダンジョン攻略の途中なのだ。このまま連れて行くのも危険だし。放置するのは、もっと危険だ。
「ギンカ……」
「可能です。ご主人様から魔力を貰えれば。ただ、ダンジョン内に帰って来ることができません」
戦力は減るけど、彼女たちの事を考えるとそれが良いな。
「皆もそれで良いか?」
『良いよ / 良いさ / 構いません』
皆からも良好な返事が返ってきたのでそうしよう。
「ギンカ。転移で彼女たちをフェアリーガーデンに連れて行ってくれ。そして、リリィを呼び、詳しく見て貰ってくれ」
「了解しました。では、魔力を貰います」
「カトレアたちは、あっち向いてて。恥ずかしいから」
「では、頂きます。ちゅっ……ちゅる……んんっ……ちゅるん。ご馳走さまでした」
「んんっ……パスは……通ってるみたいだな。頼んだよ。部屋は好きなのを使わせて良いから」
「フィーネたちにも紹介しておきます。それでは、ご無事で」
ギンカは、彼女たちを連れて帰っていき、俺には、魔力消費に伴う倦怠感が襲ってきた。
「これで、一安心。さっさと進もう」
「やっぱり、ユーリが何処かに行くと女の子が増えるね」
「病気というか、特性みたいになってますね」
「マリーまで、そういう事いうの!?」
さすがに、ショックを受けた。
「だっ、大丈夫ですって、師匠。甲斐性は、有るんですから」
なんだろう。甲斐性しか無い様に聞こえるのは、俺が荒んでるからかな?
「これで、宝箱を確実に見付ける手段が消えたわね」
「最短ルートは、分かってるから近場の小部屋で我慢しようや」
「そうして貰うと助かる」
俺たちは、ギンカが抜けた状態で攻略を再開した。
「うわ〜っ、中からうじゃうじゃ気配がする」
24階層のボス部屋にやって来た。
「この感じは、昆虫型かな?」
「昆虫型が湧いたのか……やりたくねぇな。カトレアもーーカトレア!?」
「………」
振り返ったら、青褪めて硬直しているカトレアを目撃した。彼女が青褪めるなんて珍しいので、声が出てしまった。
「あぁ、いつもの事よ。気にしないで」
「大量の昆虫って、言葉に反応しただけ」
「私もアレは、トラウマなんですけど……」
「一体、過去に何があったの!?」
「昔、討伐クエストで狩りに行った先に、大量にいたの」
「何が」
「バッドデビルバグ」
「「「うわぁ……」」」
俺たちも名前を聞いただけで引いた。どんな魔物かというと、危険度C、ただし、雑食で繁殖力が強く、大量発生し易い、黒光りの魔物。
要するに、大量の巨大Gだ。
図鑑で見たから名前だけは知っている。万国共通の狩りたくない魔物のトップに輝いている。黒光りなだけに。
「そして、カトレアは、コケた拍子にソイツらの大軍に呑み込まれたわ。ベルの魔法で助けなかったらヤバかったわね」
「それ以来、昆虫型は苦手で、特に、大量となると全力拒否します」
トラウマの理由が良く分かった。そりゃあ、そうなるわな。
「だっ、大丈夫だよ。たぶん、飛行系の魔物だから」
「本当か!? 本当だよな!? 本当だと言ってくれ!?」
カトレアにガクガク揺さぶられるアイリス。
「ほっ、本当だよ〜!うっ、吐きそう!」
「よし、そこまでにしようか。アイリスが吐きそうだから」
カトレアからアイリスを離す。アイリスは、軽く頭が揺れていた。
「うう……ユーリ、ありがとう」
「それで、どう討伐する?」
「一気に蹴散らすのが良いと思う」
「入ると同時に、広範囲魔法を放つのは、数減らしにもなって良いですね」
「なら、私がーー」
「俺が / 私がやる!」
俺とアイリスは、マリーがやると言う前に宣言した。彼女にやらせたらヤバいと思うから。
「俺の重力で潰そう」
「それより、入る前に殺そう!」
「……どうやって?」
「こうやって」
アイリスは、ボス部屋の扉に手を当てるとスライム化させて隙間から手を差し込んだ。
「からの〜、グランドアクアウェーブ!」
扉の向こうからドドドッという音が聞こえてきた。
「なるほど、入る前に水没させて殺すのか!どのくらいかかる?」
「そこまで広くないから10分」
「了解」
「所で、どうやって水を抜くんだ?」
「それもちゃんと考えているよ」
という訳で、10分後。
「ユーリ、アイテムボックスのパネルを左手の所に設置して」
「うん? 分かった」
アイリスが伸ばした左手にパネルを設置した。
「それじゃあ、行くよ」
アイリスの宣言と同時に、ポンポンと次々にドロップ品が左手から飛び出してくる。
「凄っ!どうやってるの?」
「右手で水と一緒に魔物を食べて、残ったモノを左手から出してるの」
『マジで!?』
うちの奥さん、マジぱぁねぇ。マリーもぶっ飛んでるけど、アイリスも規格外だわ。
「……これで終了」
5分もしたら終了した。水を出す時より食べる方が早いのな。
「うん? これは……」
「何か、問題でも起こったか、アイリス?」
「ちょっと確認するから、うん、しょっと、これ持ってて」
ブラジャー以外の上着を全部渡された。何故、脱いだ?
というか、珍しくブラジャーをつけてたのな。淡い青のフリル付き、いつ買ったんだ?
……おや? なっ、何!? カップが上がっているだと!?
一番揉んでいるからこそ気付いた事実。鑑定魔法で見たけど、5cmも上がっていた。凄くない!?
「せぇーのっ!」
アイリスの宣言と共に、バサッと背中から蝶の羽根が生えた。
『なぁ!?』
「おおっ、やっぱり。大量に食べたから習得してた」
「これは、エンジェルフライの羽根ですね」
エンジェルフライは、蝶型の魔物だ。確か、鱗粉に幻覚作用があったはず。
「鱗粉は、出ない様にしてるよ。これなら、空を飛べる!」
「良かったな、アイリス」
「うん」
アイリスが、幻覚作用を起こせる羽根をゲット。飛行能力も手に入れた。
その後、ボス部屋に入ったが、一体もおらず、素通りしてセーフゾーンで休んだ。3日目現在、24階層。
明日から問題のアンデッドエリアに突入する。




