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初めての大晦日

 今年最後の仕事は、リリィの店『薬屋テリーゼ』へポーションを卸す仕事だった。


「ーー以上で、注文リストの薬は全部だよ」


 注文リストには、俺のオリジナルポーションとか、リリィが作れないポーションとかが記載されている。


「ありがとう。代金は、これね」


 俺は、リリィの前に置かれた硬貨を数えて、収納していく。枚数に問題ない様だ。


「精液増強剤と排卵誘発剤は、やはり人気だな」


「そうね。貴族から一般人までこぞって買いに来るわ。やはり、2つ使うと妊娠率が、ほぼ100%に近いからじゃないかしら? 後、ここに証拠があるし」


 自分のお腹を撫でてアピールする、リリィ。だいぶ大きくなったな。


「でも、ほぼ100%は、言い過ぎじゃない?」


「だから、ほぼよ。嘘は、言って無いわ。それに、買う時は、両方を推進してるし、結果報告する事を条件に加えてるけど。出来なかったというのは、まだ、無いわ」


「それなら良いや。所で……」


 俺は、一度リストに目を向けて再確認する。間違い無いようだ。


「アダルト関連のポーション数がおかしくないか? 催淫剤は、分かるけどさ。この、一時的に母乳が出る様になったり、息子を生やしたりするジョークポーションの注文数は何?」


「そっちは、女性に人気なのよ。女性同士で楽しむ為に。例えば、エロースちゃんみたいな」


「エロースは、した事無かったぞ。初めては俺が貰ったし」


「えっ?」


「美少女が好きなだけで、そこまで手を出す気は、無かったみたいだしな」


「そうなんだ。天使族は、女性のみだからてっきり経験済みかと思った」


「他は、違うのか?」


「そうね。女性が多い種族はそういう事が多いわ。男性が少ないのが理由よ。だから、亜人は特に多いわね。基本7割近くが女性だから」


 そう人間くらいなのだ。半分半分で生まれてくるのは。そして、珍しい所では、特定年齢で性別が確定する種族なんかもいる。


「そういえば、聞いたわよ。悪魔族が妖精の箱庭(フェアリーガーデン)に加わるんですって?」


「向こう次第だけどな。うちも男性が少ないから少し増やしたいって思って」


「角族とかは、誘わないの?」


「角族?」


「あら、知らない? たまに、娼婦として見かけるわよ? 亜人で、小柄な割に豊満な肉体を持った娘たちで、これが、上手いらしいのよ」


 リリィは、自分の口を開いて、咥える素振りをみせた。相変わらず、エロいな。


「ちなみに、男性は、大柄で筋肉質になるわ」


「それは、良いことを聞いた。いつか会った時は、誘ってみよう」


 女の子なら目の保養に、男なら力仕事の戦力になるな。


「それじゃあ、帰るわ。大晦日の大掃除手伝いたいし」


 さっきから気付いたと思うけど、今日、リリィの補佐が居ないのは、皆で大掃除しているからだ。俺は、仕事があるからと抜け出してきた。


「私も今日から数日、そっちに泊まるからよろしくね」


「はいよ。ギンカを迎えに寄越すけど、気を付けてね」


「は〜い」






 リリィの店を後にした俺は、道中、王宮の執務室に寄った。


 扉の前に立ち、コンっと、4回鳴らすと見知った人の声が返ってきた。


「どうぞ」


「失礼します」


 室内に入ると3つの机が並べられている。その1つは、書類で埋もれ、宰相のレギアスさんが座っていた。ギルさんもそうだが、重要役職者は似たり寄ったりだな。


「うん? ユーリ殿。何か用ですか?」


「試作品の『平穏なる小世界(イレーネコスモス)』の調子を見に来ました」


「それでしたら順調ですよ。さっき追加の書類と食料を持って行きましたし」


 レギアスさんの視線は、中央に置かれた机の上に注がれている。机の上には、俺作の大型のスノードームみたいな魔導具(マジックアイテム)が置かれていた。


 これは、異世界定番の中に入ると1日を倍にするとかアレだ。


 俺の超大作。持てるスキルの総結集と言っても過言ではない。でも、試作品なのだ。


 元々は、レギアスさんに仕事をサボるガイアス爺さんをどうにか出来ないかと相談されたので、刻印した部屋を用意しようとしたが、思いきってマジックアイテムを作ってみた。


「それで、仕事は進んでいますか?」


「1日が3日に伸びてるから順調です」


「伸びてる分、寿命も減ってるのでお気を付けて」


「大丈夫ですよ。竜種の寿命は長いですからね。アイツも後2000年くらい生きるでしょう。なので、たかが数日程度は、軽いものです。それに、サボったアイツが悪い」


「そうですか。……あの、マナクリスタルが大量に出来てるんですけど、魔法使いました?」


「ストレス発散で使ってましたよ。しかし、便利ですね。中で使った魔力は、結晶になって再利用出来るなんて」


 魔法に使われる魔力は、使用後大気中に四散する。これは、四散した魔力を回収して結晶化させるのである。結晶化した物は、そのままで魔法の発動体として使える。


「元々は、維持する為の予備を確保する機構だったんですけどね」


 入る人を小さくするだけで、中はミニチュアだから少量の魔力で十分だったのだ。


「それで、また相談なんですが、騎士団の魔導部用に演習場を作って頂けませんか?」


「今、自分用を作っているので、終わった後で良いのなら」


「それで構いませんよ。代金は、また、白金貨で用意しておきますよ」


 試作品の値段が、白金貨40枚だった。しかも、レギアスさんのポケットマネー。爺さんに仕事させる為なら惜しくないそうだ。お疲れ様です。


「それじゃあ、帰ります。良いお年を」


「ええ、良いお年を。明日には、アイツも遊びに行くと思うので宜しくお願いします」


「了解です」


 俺は、レギアスさんに挨拶をして、部屋を出た。







「さて、作るぞ」


『はい!』


 ところ変わって、家の厨房。料理担当が勢揃いだ。今から年越し料理を作る。今年は、初めてだから任せよう。


「俺は、ケーキを用意するから料理は任せるよ。手が必要になったら声をかけてくれ」


「了解です」


 フィーネが代表して言ってくれた。それを合図に、皆動き出す。俺も作ろう。


 作るケーキは、カップケーキ。コインか宝石、鈴が入った物も作る。こっちの世界では、年を越した瞬間、その年の運勢を占って食べるそうだ。


 小物が入ったケーキといえば、ガレット・デ・ロワやクリスマスプディングを思い浮かべるが同じ様な物だ。小物にも意味がある。


 コインは、金運上昇。宝石は、魔法の上達。鈴は、健康を表しているらしい。指輪も入れるらしいが、ほとんどが嫁なので却下した。


「まずは、バターを溶かすか」


 カップケーキの作り方は、簡単だ。


 まずは、バター、砂糖、卵、牛乳の順で混ぜ合わせる。バターが混ざり易くなる様に湯煎するのも有りだ。


 次に、薄力粉とベーキングパウダーを振い入れ、粉っぽさが無くなるまで混ぜる。


 後は、出来た生地をカップに入れるだけだ。小物を先に入れ、カップの半分より少し上まで入れる。


「オーブンを借りるな」


 オーブンに入れて25〜30分。膨らんで焼き色が付いたらok。取り出して粗熱を取る。


 出来たてのカップケーキは、外はサクッと中はふんわり、時間が経つとしっとりしてくる。さて、どっちの状態で出そうか?


「どっちが良いと思う?」


 今、待ち時間らしく、手の空いてたティアに聞いてみた。


「中身が判別し辛い様に、しっとりして重みが増えた奴の方が良いと思いますよ」


「なるほど、確かに」


 アイテムボックスに収納するのではなく、そのまま置いておくことにした。しっとりと良い感じになった頃には皆の料理も出来ていた。






「それでは、頂きます」


『頂きます!』


 皆にも定着した感謝をして、食事開始。


「リリスたち……これは出来るんだな」


「さすがに、これは出来ますよ!」


「当然です!」


「焼くだけですから!」


 テーブルに置かれているのは、豚の丸焼き。


 豚は、前進しかできず、後進はできないことから進歩や発展のシンボルとして食べるそうだ。


 他は、ブドウを使った料理が並んでいる。


 月の数だけ食べると幸福になれるんだとか。豆撒きの豆よろしく、別にそれ以上食べても良い。


 後は、山盛りになったキャベツの漬物が目立つな。


 これも、新年に幸福と富をもたらすと言われているそうだ。テーブルについて大皿を回しながら、家族全員の幸福を願うのが慣わしなのだと。


「さて、食べ終わった様だし。デザートにしよう」


『わぁ〜い!』


 女性陣から歓声が上がる。楽しみにしてくれていた様だ。


 カップケーキは、各自の運勢を測る物だから、くじ引きで順番を決めて取らせた。


「俺は、ハズレか」


「私も〜」


「私もです」


 次々にハズレの声が聞こえる中。


「おっ、当たりです!これは、コイン……白金貨!?」


 どうやら、グレイがコインを引き当てた様だ。


「ユーリ様!? 普通、こんな大金は、入れませんからね!? せいぜい、銀貨ですよ!」


「うん? 別に良いだろ? 祝いの席だし。それはやるから、ティアにプレゼントを買うもよし、子どもの為に貯金するもよし。好きにすればいい」


「ありがとうございます!」


「あっ、宝石だ。これは、何の宝石ですか?」


「おっ、イナホは宝石だったか。それは、アレキサンドライトだよ。俺の誕生石の1つでな、この前見つけたから買ったんだよ」


「ユーリ様の誕生石……ありがとうございます!大事にします!」


 グレイが、コイン。イナホが、宝石ときたから最後は、鈴か。誰だろう?


「あっ……お兄ちゃん! 入ってた!!」


 どうやら、引き当てたのはフランの様だ。


「良かったな、フラン。鈴は、健康とからしいぞ」


「他には、成長ね。女の子にとっては、発育って言われるわ」


 リリィの補足があった。確かに、会った時から身長も胸も大っきくなってるな。という事は、来年にはこれ以上になるのか!?


「お兄ちゃん、どうしたの? なんか、汗出てるよ」


「大丈夫だ。問題ないよ」


 原因は、左右からアイリスとマリーに足を踏まれている事だから。


「(フランの胸を見過ぎ! 本人は気付いてないけど、さすがに、それはダメだよ!!)」


「(ご主人様。見るなら、私のを見ましょう)」


 アイリスから念話で注意された。ギンカからは、見てと言われた。これは、他のメンツも気付いてる気がするよ。


「今日の夜は、大っきくしてあげるから我慢してね」


 アイリスからお誘いがあった。なるほど、巨乳モードで相手をしてくれるのか。期待しておこう。


 ワイワイガヤガヤと、初めての大晦日は過ぎて行った。

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