材料が有るなら、つい作っちゃうよね?
年の瀬も近く、寒さで誰もが街を出歩かなくなった冬のある日。薬屋テリーゼにて、リリアーヌは悩んでいた。
「さて、この薬草たちをどうしよう?」
リリアーヌは、カウンターに並べた薬草を見ながら悩んでいた。この薬草たちは、先程、懇意にしている卸商から買ったものだ。お金に困っていない事も有り、片っ端から買うので相手からも気に入られており、かなり融通してくれる。
そして、今回買った薬草は、イラクサ、サフラン、サテュリオン、カズラ、イチジク。そして、貴重なマンドラゴラ。
どれもコレも珍しい薬草たちなのだが、問題はそこじゃない。
「これ、惚れ薬の材料なのよね」
まぁ、惚れ薬って言っても、超強力な媚薬の様なものだ。効果も半日程しかない。そんな訳で、法律でも禁止されてはいない。
ただし、使用法に関してだけは、法律がある。使用法は、隔離した部屋もしくは空間でのみ使う事が明記されている。
「使用だけ条件が有るのは、何故かしら?」
薬師をして長いが、実は、作った事がない。そもそも、材料がこれだけでは無いからだ。
足りない材料は、鯨香とゴールドアッポ。
鯨香は、鯨型の魔物から取れる脂の塊である。鯨型の魔物は、数が少ない上に危険度はSランクもしくはそれ以上。有名どころとしては、ラグス王国の砂クジラがいる。
「でも、最近討伐されたと聞いたから市場に流れてないかしら?」
後、ゴールドアッポが必要なのだが、これは、ユーリ君の所に行けば手に入る。乾燥した物ならストックで有るが、必要なのは絞り汁なのだ。
「最近、ご無沙汰だし、行こうかしら?」
そういえば、ユーリ君はラグス王国に行った事有るから転移出来るじゃない!連れて行って貰い、市場調査するのも有りね。
早速、転移門のある王宮へ行く事にした。
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「という訳で、ここに来たと?」
「そうそう。だからね、リディア。この拘束、外してくれないかな?」
リリィは、来てそうそうに「私を好きにして良いからお願い聞いて!」と、言ってきたので側にいたリディアに拘束された。
リリスとリリアは、現在、イナホたちと一緒に、街へお出かけ中。何でも、服を新調するんだとか。イナホたちは、成長期だからな。尻尾がとうとう9本になったし。
「リディア。離してやりなよ。リリィが『私を好きに……』って言うのは、何時もの事でしょ?」
「それが何時もの時点で驚きです」
「別に減るものじゃないでしょ?」
「減りますよ。淑女として品格が」
「ユーリ君、エロい娘好き?」
「めっちゃ好き」
「ほらね。大丈夫よ」
「………」
リディアがなんとも言えない顔をしている。俺の本音なのだから仕方ない。
「それで、鯨香を探しにラグス王国へ行きたいと?」
「そうなのよ。砂クジラが討伐されたらしいし。当然、向こうの薬市場には流れてると思うのよ」
「え〜っと………これか?」
「なんで有るの!?」
アイテムボックスから鯨香を取り出して見せたら信じられないって顔して驚かれた。解体した時、素材の各種一部貰ったからな。その中には、当然、コレも有る。
「砂クジラ討伐したの俺だし」
「ホント?」
「ホントですよ、母様。リリアから聞いてますし。お肉も食べました」
「リリィも鯨肉いる?まだ、有るよ」
他の肉もあるし、まだ、消費し切れていない。宴会を3回くらいしたら無くなるかな?
「後で貰うわ。それで、分けてくれるのかしら?」
「代わりに、俺にも材料分けて。作ってみたい」
「それなら、この薬草たちを薬草畑で栽培してくれないかしら?惚れ薬ってエリクサー並みに売れるのよ」
「良いよ。薬草も正規額で買い取ってくれるなら」
「まだ、根に持ってるの?」
「いや、別に。俺が無知なだけだったから。それに補充分は、払って貰ったしね」
実は、リリィの奴、エリクサーを50分の1の額で購入していたのだ。商業都市ウェンで買い物する時の軍資金としてエリクサー劣化版を売った際に知った。
通常エリクサーの正規額は、白金貨50枚。買取り額は、白金貨5枚。
劣化版エリクサーの正規額は、白金貨30枚。買取り額は、白金貨3枚。
要は、ボッタクリにあっていたと言う事だ。白金貨1枚って何だよ。正規の値段を知らないって怖いな。補填としては、リリィにやってみたかったプレイを全部試させて貰ったから不問にしました。
ところで、俺の本業って、冒険者でも農家でもなく、薬師じゃないかな?
これが、一番安定して稼いでいるんだけど。後、冒険者も農家も気分転換にやる趣味みたいなものだしな。
「それじゃあ、下の研究室で作りましょう。実は、私、大雑把にしか知らないのよね」
「おいおい、俺なんかまった……めっちゃ詳しく知ってたわ」
惚れ薬の作り方を細部の注意まで知識を持っていた。スキルの付属効果だな。知識が付属って便利なんだけど、実際どうなんだろう?これ、ズルくない?
「なら、安心して作れるわね」
「よし、今から始めるか」
「……あの、私も参加して良いですか?」
おっ、リディアも興味が有る様だ。耳がピコピコ動いている。
「俺は良いよ。リリィは?」
「良いわよ。娘が薬に興味を持つなんて嬉しい事だわ」
「ありがとうございます」
という事で、3人で惚れ薬を作ることになった。
「まずは、マンドラゴラをすり潰し易くする為に、刻んで」
「任せろ」
「もう片方は、私がします」
マンドラゴラは、全部で2体。何故か、植物なのに『体』と数える様だ。確かに、根が人型をしている。でも、叫び声で死んだり、勝手に動いたりとかはないそうだ。ただ、非常に多くの細かい根を張る事から抜く際には相当な力が必要で、根を引きちぎりながら抜くので、かなりの音がするらしい。
「それじゃあ、切ろう」
「はい」
マンドラゴラに刃物を当てて、ザクっと切る。
「ぐぎゃあぁぁーー!」
「「………」」
マンドラゴラは、切られた事により苦痛の叫びを上げた。もう一度、マンドラゴラを切る。
「ぐぎゃあぁぁーー!」
「「………」」
同情してゆっくり切るのがいけないのだろうか?今度は、連続で刻んでみる。
「ぐぎゃ!?ぐぐっ……ぎゃあぁーー!」
「心が痛いわ!!何、この我慢出来そうで出来ませんでしたって声は!?」
「何でしょう……植物なのに生き物に感じて来ました」
俺たちは、マンドラゴラの叫び声に心が折れそうになった。
「何やってるのよ、2人共。こんな風にさっさと切っちゃって」
リリィは、リディアの刃物を借りると高速でスパパパッと連続で切り分けた。
「ぐっ………」
マンドラゴラは、まったく鳴かずに沈黙した。なるほど、やっぱり、そうすれば良いのか。しっかり介錯してやろう。俺も高速で切ったら問題なかった。
「後は、すり潰して混ぜる手順なんだけど……任せて良い?」
「俺の知識だとこうだな」
1.鯨香を溶かした物に、イラクサ、サフラン、サテュリオン、カズラを加え煮込む。
2.マンドラゴラとゴールドアッポ、イチジクをすり合わせ、布でこして絞り、液を回収する。
3.煮込んだ物が変色したら液だけを回収する。その後、すぐに氷で冷やす。
4.最後は、3に2を少しずつ加えて、薄いピンク色に変われば完成。
「私の知ってるのと同じみたいね。ただ、冷やすのは知らなかったわ」
「すぐに冷やさないと鯨香の香りがダメになるみたいだ」
「では、私は煮込む作業をします。色が変わるまで煮込むだけの様ですし。大丈夫だと思います」
「……リリィ」
「……分かっているわ。私が見てるから安心して」
なら、安心して作業出来る。リディアは、ただの調理から変な物を作るから、調合も心配なのだ。
俺は、レシピ2の作業をする事にした。ついでに氷を用意しておこう。下級の氷魔法を唱えて作製する。
「アイスジャベリン!」
ボールの上に氷柱を一本だけ作り、フラガラッハで細切れにする。これで氷の用意も大丈夫だ。では、各自の作業開始。
10分後。
「出来たな」
「出来たわね」
「出来ました」
目の前に置かれた媚薬入りのポーション専用試験管は、全部で80本。試験管一本の容量が25mlだから2Lくらい作ってたのか。破損と劣化防止の為に、3本残してアイテムボックスへ収納した。
「さて、これの確認どうしようか?」
「こうするのが一番ね」
「こうするべきです」
「あっ」
話し合いをする間もなく、2人は直ぐに飲んでしまった。
「大丈夫か?」
「「………」」
「えっ?」
無言で行動を開始する2人。リディアは、俺の背後に回り羽交い締め。リリィは、試験管を持って、無言で俺の口へと突っ込んだ。
「むぐっ!?……ごっくん」
強引に飲まされた。だが、特に変化はなさそうだ。まぁ、毒に耐性あるし、レジストされたのだろ……ドクン!
「ひゃっ!?」
「「よし!」」
身体中の感覚が敏感になっている。俺の息子も限界を超えた様だ。どうやら、媚薬は、バフ扱いになるらしい。
「転移」
転移を使って、皆で俺の自室へ移動。あのままだと、研究室で襲いかねなかった。色々な物を置いてるし危険だ。
俺は、自室に戻り次第、彼女たちをベットに誘い、押し倒した。少し触れるだけで甘い声が漏れる事から俺と同じく敏感になっているのだろう。
そんな声を聞いたら余計にムラムラしてきた。……もう、本能に任せよう。俺は、溢れる感情に身を任せた。
この話、もう少し続きます。




