開幕 神の後悔
人には、幸運と不幸が多少の差はあれど、均等に込められている。
ただし、人は幸運であっても不幸に感じたり、不幸なのに幸運を感じたりする。
気持ちしだいで変わるのが人間のいい所だ。
創造神である彼は水鏡を見ながらそう思った。
水鏡に写るのは、病室に寝かされた青年。点滴が繋がれ痩せ細り、意識は既にない。おそらくこのままなら直ぐに亡くなるだろう。
そう思いながら創造神は悲しそうに彼を見つめ続ける。
28年前の話だ。私は、1つのミスをした。それは、運の配分を間違えた事だ。
本来、5人に分配するべき不幸を一人の子に全て背負わせてしまったのだ。
気付いた時に本来の持ち主に返そうと考えたがそれは出来なかった。
何故なら、幸運しかないと言うことは何をやっても上手くいくという事なのだ。
あらゆる事が彼らの味方をする。それは、人との出逢いであったり、果てはスポーツでの天候、研究での気付きなどだ。
その結果、彼らは世界にとって影響を及ぼす程の存在へとなっていたのだ。
新薬を開発した研究者。世界一のスポーツ選手。凄腕の医者。ベンチャー企業の社長。多くの支持を集める若手議員。
そんな彼らに本来持つべき不幸を今更返してしまえば、あまりにも多くの者に影響を与えるため行うことが出来なかった。
なら、不幸の子に幸運を足せばいいのでは?と考えるが、それも出来ない。
人は、創られた時から運の容量が決められている。その為、容量を超える幸運を与える事が出来ない。
だから、私に出来るのは、彼が不幸に抗う為に奔走する姿を見続ける事だけだ。
しかし、救う方法を諦めた訳ではない。どうにか出来ないものかと色々考えた。それは異世界へ行く事だ。
ただ、転生させても、この世界では救われない。転生しても魂に刻まれている運は常に付き纏い続ける。
だから、彼を救うには、根本から創り直さねばならない。
そして、異世界ならそれが行える。異世界の環境に合わせて魂の構造から弄る必要があるからだ。
これは、神々も認める許された行為。死後になるが、彼の為に最高の状態を用意しよう。
………今、彼の脈が停止した。もうすぐ此方に彼がやって来るだろう。
「さぁ、君の第二の人生が始まるよ。はやくおいで」
私の言葉は、世界に溶けた。