表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神女子  作者: weaker(うぃーかー)
2/6

情報交換(2)

「こんにちは、夜々さん」


少年は昨日と変わらぬ態度で挨拶をした。


「こんにちは…」


一方、死神の挨拶は少々及び腰になっていた。


(どうしてこの人は自分を殺そうとした奴にこんなに普通に挨拶できるのよ…。死なないにしても、少しは警戒しなさいよぉ…)


殺されかけた少々よりも、なぜか死神の方がダメージが大きいようだ。やはり、できる死神になるのは当分先らしい。


「それじゃあ、立ったまま話すのもなんだし、あそこに座ろうか」


そう言って少年は少し古びた木製のベンチを指差した。設置されてからかなり時間が経っているようだが、腐った様子もなく、二人で腰掛けても問題ないだろう。


「うん、そうしよっか」


死神は、先ほどの考えを一旦捨て、とりあえず座ることにした。

ちなみに、今いる場所は、昨日少年を殺そうとした公園だ。やはり人は少なく、遊具が少ないためか子供もいない。


「それじゃあ、何から話す?」


「んん、それじゃあ、交互に質問していくのはどう?お互い、色々気になってるし」


「うん、いいと思うよ。じゃあ、夜々さんからどうぞ」


(この人、ほんとお人好しだなぁ…。殺そうとしてる身で言うのもなんだけど、心配になってきたよ…)


「いや、君からでいいよ。昨日の罪滅ぼしって訳でもないけど、流石に申し訳ないから」


「そう?夜々さんはお人好しだなぁ」


(あんたに言われたくないわ…)


「じゃあ、僕のこと好きって言ってたあれ、実際どうなの?」


「えっ、それ…?」


「うん、それ」


「殺されそうになったんだから、普通はその理由とか聞くもんじゃ…」


「まぁ、確かにそこも気にはなるよ?実際に刺し殺されそうになったのは初めてだし…」


少年はそう言って少し照れながら頭をかく。


「いや、その反応はおかしいでしょ」


「まぁまぁ、僕はこうして生きてるんだし、細かいことはいいから質問の答え聞かせてよっ」


(そういうものなのかなぁ…。てか、その言い方だとこの人自分の命どうでもいいのか…?)


言いたいことは色々あったが、それらの疑問を捨て、死神は返答した。


「ええっと、私が一目惚れした…ってやつのことだよね?」


「そうそう、それ」


「まぁ、気づいてるとは思うけど、あれは嘘です…」


「おおぅ、やっぱりか……」


少年は膝から崩れた。ずぅぅん、という暗い音が聞こえてきそうだ。


(えっ、この人殺されそうになっても平気なのに、そこはダメなんだ)


「え、あの…。なんか、ごめんね」


「いや、いいんだ。夜々さんは悪くないよ…。ただ、告白なんてされたことないから、ちょっと期待してたんだ…」


(あぁ、なんか、殺したときより罪悪感が。てか、顔もまぁまぁで性格いいのに告白された経験無しということは…)


「ねぇ、君、鈍いって言われたことない?」


「え?あぁ、そういえばよく言われるような…」


(なるほど、こいつはあれだ。ラノベの主人公タイプね。観察眼はあるのに、心は読めない残念ボーイねこの人)


死神は少年がいたたまれなくなり、話題を変えて話を振った


「そ、そういえばっ、夜々って呼んでいいって言ったのに、なんでさん付けなの?」


「あぁ、それは、さっきも言ったように、告白されたこともないし、彼女もいたことないから、女子を呼び捨てにするって慣れなくて…」


少年は今にも泣きそうな顔にならながら小さい声でそう言った。


(しまったぁぁぁ!!さっきの話がおかえりなさいしてきたぁぁぁぁ!?ごめんよモブくんんんんん!!!)


「あ、あぁ、そうなんだ、私のことはいつでも呼び捨てで呼んでくれていいからね…」


「ありがとう、夜々さん…。じゃあ、次は夜々さん質問どうぞ…」


どうやら、今の質問はカウントされないらしい。


「じゃあ、どうして死なないの?」


「夜々さん、結構ストレートにくるね」


「仕方ないじゃん、気になるんだから」


彼には悪いが、ここで不死の理由が聞ければ仕事を成功させることができるかもしれない。死神がそう考えたところで、少年を殺そうとした時と同じもやもやとした感情が出てきた。


(どうしてだろう…。別に親しい人でもないし、好きなわけでもない、のに…)


死神は、何かに引っかかるように感じたが、少年の声でその思考の続きは遮断された。


「えっと、僕が死なないのには二つ理由があると思うんだよね」


「と、言うと?」


「まず一つ、実は父さんが不死身だったんだ」


「えぇ!?モブ君のお父さんも死なない系の人なの?というか、どうして"だった"って過去形なの?」


少年は苦笑いをしながら、何かを思い出すように話し始めた。


「あはは、死なない系の人ねぇ…。矛盾したこと言うかもしれないけど、僕の父さんは死んだんだ。正確に言えば殺されたんだけどね。まぁ、あれは自業自得だと僕も思ってるよ」


「えっと、死なないのに殺されたってどういう……」


思いもよらぬ話にたじろぐ死神を尻目に、少年は話を続けた。そして、次の少年の言葉で死神は背筋が凍りついた。




ーー死神って、知ってる?




その声は、何となくさっきより冷たく聞こえた。死神は逃げ出したい気持ちを必死に抑え、動揺がバレないよう努めた。しかしこの少年、やはり恋愛以外の観察眼が半端じゃない。


「僕の父さんは、死神に殺されたんだ………って、どうしたの?夜々さん」


(やばい やばい やばいっ……!!この人絶対死神恨んでるやつじゃん!死神だってバレたら殺されちゃう………!!!)


恐怖の思考だけが加速していき、死神は言葉に詰まった。


「いや、えっと……」


何か話そうとしても、怖くて声が出ない。まるで、彼と出会った時と同じようだ。もしかしたら、あの時感じた恐怖はこの少年と関わってはいけないという警告だったのではと、死神の脳裏をよぎった。

そんな死神の心中を知ってかしらでか、少年は口を開いた。


「あ、もしかして……」


ゴクリ…と、死神が生唾を飲み込んだ。背中から変な汗も噴き出している。


(あぁ、神さま、まだ恋も知らぬ夜々に救いを……。

死神は名前に神ってついてるけど、普通に死ぬんです…)


「もしかして、夜々さん信じてくれてない?」


「へっ?」


「いや、そりゃいきなり死神って言われたら信じられないかもしれないけどさぁ、本当にいるんだよ?」


「は、はぁ…」


予想外の言動に、死神は先ほどの恐怖も忘れ間抜けな返事を返した。


(なんか、死神ってバレても大丈夫な気がしてきたよ…。でも、死神を知った理由は一応聞かないとなぁ…)


「えっと、どうして死神がやったって分かるの?」


「あぁ、それは簡単だよ。死神から聞いたんだ」


「へ、へぇ、そうなんだ」


(もう、何を言われても動揺しちゃいけない。じゃないと私が怪しまれちゃう…)


「まぁ、その死神の名前は聞けなかったんだけど、父さんが僕の前で殺されて、その後に僕に気づいたらしいんだ。で、罪悪感から、死神のことについて少し教えてくれたんだ」


(おいおい、そこはちゃんと確認して殺そうよ、同業者よ)


と、死神仲間への愚痴は心にしまって質問を続ける。


「ちなみに、どんなことを教えてくれたの…?」


「そうだなぁ、死神っていう職業が存在するってことと、命は平等だから、殺す人はランダムだってことくらいかなぁ」


(ふむ…。嘘ではなさそうだけど、情報が少ないなぁ。その死神があんまり教えたくなかったからなんだろうけど…)


死神がそこまで考えたところで、少年が再び口を開いた。


「あ、話が逸れちゃったけど、父さんは治癒力が異常だったんだ。だから小さい頃の僕は勝手に死なないって思ってたんだ。まぁ、体の六割吹っ飛んでも生きてたらしいから、ほぼ不死身みたいなもんだけどね。

だけど、父さんが死んだ時はひと刺しだったよ。まるで普通の人みたいに死んじゃったんだ」


「そう、なんだ……」


死神は仕事だと分かっていながらも申し訳ない気持ちになった。顔を曇らせた死神を見て少年は何度目かの優しい笑みを向けてきた。死神もこの顔は嫌いではないなと思った。


「あぁ、夜々さん、そんな顔しないでよ。父さんが死んだのは半分は自業自得みたいなもんだから」


(自業自得って、死神を恨んでる感じはないけど、どういうことなんだろ…)


死神はそんなことを考え、思い切って聞いてみることにした。


「そういえば、さっきもそう言ってだけど、君のお父さんは何をしたの?」


「うーん、そうだなぁ。まず結論から言うと、父さんは死神殺しをしていたんだ」


「えっ、どうして……?」


さらりと事実を伝える少年の言葉に、死神は先ほどの決意も忘れてまたしても動揺してしまった。しかし、少年はそれを気にする様子はなく話を続けた。


「いやぁ、それが、先に死神に殺されたのが僕の母さんなんだ。でも、母さんは傷跡なんてなくて、最初は心臓発作が死因だったんだけど…」


少年がそこまで言うと死神が割り込んできた。


「いや、えぇ!?君のお母さんも死神に殺されたの!?」


(そんなことあり得るの!?確かに死神は結構な数いるけど、全員が命を扱う仕事をしてる訳じゃないし、

そもそも夫婦二人とも殺されてその上息子までってどんな確率よ…。って、この人は殺せなかったんだけどさ…)


「うわ!びっくりしたぁ。急にどうしたの?」


「あ、ごめんごめん。ほら、殺す人はランダムって言ってたから、そんなことあり得るのかなぁって思って」


「あぁ、多分母さんは本当に偶然で父さんは恨みを買って意図的に殺されたんだと思うよ?」


「あぁ、言われてみればあり得るかも…。というか、情報が多すぎて混乱してきたんだけど」


「そうだね。それじゃ、少しまとめようか」


死神が渋い顔をしながらそう言うと、少年はメモ帳を取り出して簡単に話の内容をまとめてくれた。内容は以下の通りである。



・母さんが死神に殺されたが、傷あとはなく最初は心臓発作で亡くなったと思われていた。


・父さんは死神を殺していた。おそらく死神から恨まれて意図的に殺された。


・僕自身も死神と会ったことがあり、話を聞いた。

教えてもらったことは、死神という職業が存在しているということと、死神がターゲットにする人はランダムだということ。


「まぁ、こんなところかな?」


少年はメモを書き終えると、それを死神に渡した。そのメモに目を通しつつ死神は質問した。


「ありがと。そういえば聞きそびれてたけど、お母さんに傷跡がないのに死神がやったってどうして分かったの?」


「あぁ、それは母さんが自分で言ったらしいんだ」


「えっ?でも、お母さんは亡くなってたんじゃ…」


「父さんと結婚してから、治癒系の能力を母さんにも分けてて、普通の人より少しだけ治癒力が高かったらしいから、その影響だと思うんだ。と言っても、怪我が治りやすいだけで刺されたら普通に死んじゃうんだけどね。その力のおかげで即死はしなかったみたいだけど」


そこで死神は小首を傾げながら言った。


「あなたのお母さんには驚異的な治癒力はないのよね?なら、どうして傷あとが無いの?」


「そこが僕にも分からないところなんだ…。でも、父さんが言うには、最初から傷は無かったらしいんだよね」


そこで死神はこう結論づけた。


「つまり、傷をつけずに殺されたってこと?」


「うん、父さんの言ってたことが正しいならそうなるね」


少年も死神の意見に同意した。実はそのとき、死神の脳裏にはある人物がうかんでいた。


(もしかしてこの人のお母さんを殺した死神って、よく聞かされる"できる死神"のことなんじゃ…)


傷を残さず別の死因に見せかけ、さらにそれを迅速にこなす。死神夜々のできる死神イメージと一致した。


「さて、ところで夜々さん」


「どうしたの?」


「夜々さん、質問しすぎじゃない…?」


「あっ……。ごめん、忘れてた」


少年はジト目で死神を見つめているが、死神は咄嗟に目をそらして回避した。


「…まぁ、仕方ないか。交互に質問するよりまとめて話した方が分かりやすかったしね」


「そ、そうだよね!さぁ、モブ君も質問いいよ!」


話題を変えようと死神は少年に質問するように促す。

しかし、言われた途端に、少年は僅かに表情を曇らせた。


「うーん…」


「どうしたの?もしかして聞きにくいことなの?」


「うん、まぁ、そうなんだよねぇ…」


「んー、私も色々聞いちゃったし、遠慮しなくていいよ?あ、彼氏はいないよ」


自分で言って夜々さんはちょっぴり悲しくなった。


「いやぁ、彼氏についてじゃないんだけどね…」


少年な苦笑いして答えた。夜々さんはもっと悲しくなった。


「…まぁ、冗談はさておき、結局私に何を聞きたいの?」


「んん〜…。じゃあ聞くけども…」


「うんうん。なんでも聞いていいよ」


「夜々さんって、もしかして死神なの…?」


「あぁ、私はしにが……。っえ?」


死神は聞いたことないような声を出した。まるで少年と死神がいる空間だけ時間がゆっくりになったように、2人は見つめ合っていたーー










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ