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死神女子  作者: weaker(うぃーかー)
1/6

出会い (1)

いつからだっただろうか。私がこんな気持ちを抱いたのは。つい最近のことのように感じるし、ずっと前のことのようにも思える。言葉で言い表せない、鈍い頭痛を堪えているような、もやもやとした気持ちから逃げるように、私は手に持っているものを握りしめる。()()は、心なしかいつもより重く、ひどくよそよそしい感じがした。まるで、私を呪わんとするように、ずっしりと私の手に収まっている。


「うぅ、また殺れなかったよぅ…」


静かな夜の墓地に、その台詞には不釣り合いな可愛らしい声がひっそりと響いた。




私の初仕事は、とても寒い朝だった。道行く人たちも、白い息を吐きながら、どこか憂鬱そうに歩いている。


「さっぶいなぁ…」


私も、そんな人たち同様に、寒さを噛み締めて歩みを進めていた。夏は暑さを呪い、冬は寒さに悪態を吐く。人間ってわがままだと常々思ってしまう。


「まぁ、私、死神なんだけど」


おっと、言い忘れていたが、私は死神だ。と、言っても今回が初仕事な訳で、まだまだ見習いではあるが。

一応、死神について説明すると、仕事内容は多くの人が思い浮かべる死神と大体同じで、人に死を告げる的なアレだ。

ただし、対象になる人間は完全にランダムだ。命ってのは平等であるべきらしい。死神は殺戮犯じゃないからなぁって父さんも言ってた。

あとは、いくつかルールや、その他の仕事もあるが、それはいずれ話すことにしよう。


「さて、初仕事なんだし、文句ばっか言ってないで頑張るか!」


そう意気込んで、私は歩みに力を込めた。


私のはじめてのお仕事は、ある男の子の命を頂戴するというものだ。


「すまんな、少年、これも仕事なのだよ」


と、独り言を言ってみたが、実はそんなにすぐに殺すわけではなく、まずは見定めなくてはならない。

というのも、ランダムに選ばれた人間が、国のお偉いさんとかだった場合、すぐに殺してしまっては国家レベルで損害が出てしまう可能性もある。

それだけで国が保てなくなる訳ではないので、殺してしまっても問題はないが、基本的にはタイミングを見計らって殺している。

極力影響が出ないように殺すのが、できる死神というものらしい。

そんなわけで、まずは観察からスタートしよう。


「さて、事前に聞いた情報によると…」


そう言いつつ手帳を取り出す。


名前:○○ ○○○

身長:171cm

年齢:○○

体型:やや痩せ型

参考:友好関係に問題なし。

趣味は読書やゲームで、ごく普通の高校生。

好きな食べ物は酒饅頭。

ちなみに彼女なし。


「好きな食べ物渋いなぁ…」


ちなみに、この情報は偵察専門の死神がリストアップしてくれるのだが、完全に気まぐれで作っているので、役に立たないこともあるらしい。


「まさか、名前も歳も分かっていなかったとはね」


(名前に関しては酒饅頭より先に分かりそうな気がするが、きっとそれなりの事情があったのだろう。

そう願いたい。)


「あとは、彼女なし、か。」


(いや、絶対名前の方が先にわかるよね。)


これは、もしかしてわざとなのだろうか。少ない情報でうまく仕事ができるかのテスト的な…


「まぁ、何もないよりはマシかぁ」


(できる死神は情報が無くても華麗に殺すらしいからね。まずは自分の目で見てみよう。)


そう思いつつ、彼女は少年を探し始めた。






「いないよぅ…」


どうやら、私はできる死神からは程遠いらしい。


「顔も分かんない人をどうやって探せばいいのよ…」


そんなことを言いつつ、途方にくれた死神はふらふらと歩いていた。


「住んでいる所はこの付近のはずよね」


(というか、初仕事な訳だし、少しくらい時間がかかっても大丈夫よね)


そんな時、1人の少年とすれ違った。今日見た誰よりもモブらしい顔つきで、やや痩せ型の。


ただ、今日見た誰よりも、嫌な感じがした。

背筋がゾクゾクするような、何かとても恐ろしいものと対峙しているような感覚に襲われた。


「つっ…」


死神は、思わず後退りしてしまった。


(しまった…!気付かれたかな…)


と、思ったが、少年は何かを考えているのか、死神に気付いた様子もなく、少し難しい顔をしてすれ違っていった。



(おぅぅ、怖かったよぅ…)


少年が角を曲がって見えなくなると、死神は顔を青ざめさせ、ぺたりと座り込んだ。


(うぅ、怖いけど追いかけなきゃ…。今ならまだ間に合うっ…!)


初仕事を失敗させまいと、死神は足に力を込めて再び追跡を始めた。




………が、すぐにその必要は無いと死神は理解した。


少年を追いかけて角を曲がると、既にその姿は無かったからだ。


(あれ、おかしいなぁ、ここ一本道なんだけど…)


と、死神がきょとんとしていると、後ろから声をかける者がいた。


「あの〜…」


声の主をみて、死神は再び青ざめた。

そこには、ついさっき角を曲がったはずの少年が、いつのまにか背後にいた。


「僕に何か用ですか…?」


どうやら、尾行していたことがバレていたらしい。


「いえ、あの…」


驚きと恐怖で死神があたふたしていると、少年が再び問いかけてきた。


「さっき、視線を感じたので、もしかしたらと思ったんですけど…」


(うぁぁ、やばいよぉぉぉ…。どうしようどうしようどうしよう…)


死神は必死に考えを巡らせる。


(えぇい、もうどうにでもなれぃ!!)


そして、死神は考えることを諦めた。


「あの、実は…」


「実は…何ですか?」


「あなたのことが……好きなんですっ!」


「へっ?」


(やっちまったよちくしょおぉぉぉぉぉぉ!!!)


死神は心の中でシャウトした。


「あのぉ、どこかで会ったことありましたっけ?」


少年が疑問の眼差しを向けてくる。


(そうだよねごめんね!?知らない女にいきなり告白されたら怪しむよねすみません!)


「ひ…一目惚れってやつです…」


(だぁぁ、なんかもう、ただ恥ずかしい人になっちゃったよ!?羞恥が恐怖をボコボコにしてるよ畜生が!)


死神の心がフェスティバルな感じになっていると、再び少年が口を開いた。


「あのぉ、僕が言うのもなんですけど、大丈夫ですか…?」


「えっ!?あぁ、はい、大丈夫ですっ!」


「そ、それならよかったです…」




(やべぇ、気まずいよぉぉぉぉぉ…)


死神が羞恥に悶えていると、少年は話を続けた。


「あの、もしよければ、どこかでゆっくり話でもしませんか…」


「えっ、でも…」


「あ、さすがに嫌でしたか?」


「い、いえっ!ただ、迷惑になるかと思って…」


少年から話をしようと提案してくれたのだ。情報が少ない今、それはとても魅力的な提案だ。


こんな状況でなければの話だが。


「じゃあ、お願いします…」


それでも、これは仕事なのだと自分に言い聞かせ、ここは少年の意見に従うことにした。


「じゃあ、行こうか」


そう言うと、少年は少しだけ笑顔を見せた。


(笑うと結構かわいいじゃん………って、何考えてんだ私!?)



「どうかしましたか?」


「あぁ、いや、なんでもないです!行きましょうか!」


(おおぅ、どうした私!さっきからおかしいぞ!

恋どころか、ひとを好きになったことすらない純粋無垢な死神だろうっ!?)


と、死神は心の中でまたもやひとりフェスティバルを開催しながら、少年と歩き出した。どうにか、顔だけは平静を装っているので、ギリギリ少年にはバレていないようだ。


「そういえば、お名前を聞いてませんでしたね」


「へっ、あぁ、名前?」


(しまったぁ、フェスティバルに集中しすぎてぼーっとしてたぁ…!)


「あ、僕はモブっぽいキャラなので、よくモブ男とか、モブ系男子とか、モブ太郎とか呼ばれてます。

好きなように呼んでください」


(命名した人の気持ちすっっっごく分かるけど呼びづらいなぁ…

3つ目に関してはとっとこしてそうだし…)


「あはは…モブがゲシュタルト崩壊しそうなあだ名ですね…」


「よく言われます」


そう言って、少年はにかっと笑った。


(なんでここで一番いい笑顔出すのかな、このひと…)


「じゃあ、とりあえずはモブ君って呼んでもいいですか…?」


「おぉ、新しいタイプのモブですね!いいですよ!」


(新しいモブって何やねん。ってか、この人モブ気に入ってるな?)


そう思いつつ、死神も自己紹介をする。


「私は夜々(やや)っていいます。年は〜、君と同じくらいかな?」


「ということは、夜々さんも高校生ですか〜。話しやすそうでよかったです」


「そうですねぇ。モブ君のこともいろいろ聞かせてくださいね」


(年下かと思ってたらこの人高校生なのかっ!?

背は私より高いのに、結構幼くみえるなぁ……)


などと考えていると、小さめの公園に着いた。


(あれ、そういえば、ここ私の家の近くだなぁ…)


「つきましたよ」


「おぉ、いい景色が見えるんですねぇ〜」


(まぁ、偶然だろうし、気にしないでいっか…)


「そうでしょう。結構高い場所なので、遠くまで見えるんですよ〜。この近くは墓地なんですけどね」


その場所からは、夕日で橙色に染まり美しく輝いている海が見えた。海に沈んでいく夕日は、今から死にゆく少年の命のように思え、どこか寂しい雰囲気を漂わせていた。


「うん、いつ来ても綺麗に見えるなぁ〜」


少年は今も呑気に海を見ながらそんなことを言っている。


(今なら……やれるっ…!!)


幸い、ここは人気もなく、誰かに見られることもなさそうだ。

それを確かめると、死神は少年に歩み寄った。




そしてーー




「ごめんなさい…」


そう言って正面から少年に抱きついた。


「おぉ!?えぇっと…」


少年は困惑しているようだ。初対面の女の子に抱きつかれれば、誰でもそうだろう。

死神は、ポケットから、小さな鎌を取り出した。

その手を少年の背中にまわすと、いつのまにか草を刈る時に使うようなサイズまで大きくなっていた。


「さようなら、優しいひと」


最後にそう言って、死神は少年の心臓に鎌を突き刺した。鎌は骨の間を綺麗に避け、するりと少年の体に吸い込まれるように刺さった。


「ぐっ……!夜々さんっ………」


少年は立ったまま苦悶の表情を浮かべている。ここまでくればあとは時間の問題だ。抵抗されようが死は免れない。


「ごめんなさい、すぐに楽になるから…」


「そう…ですかっ………」


そう言うと少年は、やわらかな笑顔を見せ、死神を優しく抱擁した。


「どうして……?」


(どうしてこの人は抵抗しないの?どうして自分を殺そうとする人にこんな顔ができるの?そもそも、どうしてまだ立っていられるの…?)


どうして、私はーー




「……夜々さん」


「は、はひっ!?」


「全然楽にならないんですけど…」


少年はかなりの量の血を流しているものの、痛みを感じる以外は健在のようだ。


「ど、どうして、死なないの……?」


「あぁ、僕、"死"というものに耐性があるんですよ…」


「へぇ、そうなんだぁ……」


衝撃の事実に死神は、友達の話を聞いていなかった時の相槌のような雑な返事を返した。



「えっ?」


そして死神は、今度は間の抜けた声を上げた。


「えっ?」


少年もつられて口にした。




「ええぇぇえええぇえぇえええぇぇぇ!?!!?」


心の中の叫びでは抑えられなくなり、死神はとうとう叫んだ。心の中での叫びを除けば本日初シャウトだ。


「あぁぁああなた!!!死なないの!?」


「まぁ、一応…」


そう言って少年は少しだけ恥ずかしそうに指先で頬をかいた。


(いやいやいや、反応おかしいやろ!?私今あなたを殺そうとしてるのよ!?)


そこには、鎌を突き刺している女の子と、申し訳なさそうな顔をしながら血を流している少年が抱き合っているという常軌を逸した光景が、ほぼ沈んでしまって、少ししか見えない夕日とともに繰り広げられていた。


「あの、これ、取ってもらえます…?死なないけど、痛いので…」


「あぁ、ごめんなさい…」


鎌は血を滴らせながら、ぬるりと少年の体から抜かれた。


「あの、刺しといてこんなこと言うのもおかしいけど、大丈夫なの……?」


「あぁ、多分もう傷も塞がってますよ。背中だから見えないけど…」


そう言いながら、少年は心臓のあたりをさすった。


「それより、夜々さんは僕に恨みでもあったんですか……?」


「いえ、そういう訳ではないんですけど、色々ありまして……」


「なるほど、色々ですか…。あの、夜々さん、提案があるのですが」


「はい、なんでしょう…?」


先ほどより少しだね低い声で話す少年に思わず身構えてしまう。


「あぁ、そんなに身構えなくても、大したことじゃないですよ」


「そ、そうですか…」


(なぜ殺す側の私が緊張してるんだぁ…。普通逆だよねぇ…。)


少年は、あどけない顔をしているものの、意外と周囲の物や人物に注意を払っているようだ。もしかしたら、死神の告白が嘘だと気付いて人がいない場所に連れてきたのかもしれない。


などと、死神が考え込んでいる中、少年は続けて話した。


「お互い、色々聞きたいことがありますが、今日はもう暗いのでまた明日ここに来ませんか?」


「え、でも、私は……」


「明日は忙しいですか?」


「いやっ、そういうことじゃなくて…。あなたを、殺そうとしたのに、どうして……。」


「どうして、とは?」


「だって、自分を殺そうとしたやつがいるなら、普通は抵抗したり、逃げたり、場合によっては逆に殺そうとしたりするんじゃ……」


「あぁ、そういうことですか」


今度は納得したという表情で少年はつづけた。


「だって、夜々さん、悪い人には見えませんから」


そう言ってまた、少年は優しく笑った。


「それだけの、理由で……?」


「それだけって言うけど、そこ、結構重要なんですよ〜?人って表情とか仕草にその人の特徴が出るもんなんですよ。」


それを聞いて、死神は思わず質問してしまった。


「あなたには、私はどう見えたの…?」


「そうですねぇ……。ひとことで言うと、臆病な女の子ってとこでしょうか」


(うっ、バレてる……)


「ふっ、夜々さんって、顔に出やすいんですね」


そう言って少年は小さく笑った。


「は、初めて言われましたよ、そんなこと…」


死神は、なんとなく恥ずかしくなって、顔を背けながらそう呟いた。少年は尚も笑いながら言った。


「そうですか?今も恥ずかしいって顔に書いてありますよ?」


「もう、その話はいいからぁ…!」


先ほどの告白もあって、死神は耳を真っ赤に染めた。


「あはは、ごめんなさい、つい意地悪してしまいました。それじゃあ……」


それから、明日の待ち合わせの時間などを話し合い、今日はお互い帰ることにした。


「それじゃあ、夜々さん、また明日」


「………夜々でいいよ。あと、年もそんなに変わらないから、敬語も使わなくていいよ…。」


少年は少し驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑顔に戻り言い直した。


「…そっか。じゃあ、また明日、夜々」


「…また明日。モブ君」


そう言い合って、二人はお互いの帰路についた。







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