第6話 スカーレット
猫目線です。
猫の名前はスカーレット。
異世界での呼び名で言うならば、十二番目のスカーレットと言えば伝わるだろう。
何故、十二番目などというものが付いているかというと単純な話だ。
それば序列番号だった。
この序列というものは、ダンジョンマスターの、もっと言えば、ダンジョンマスターの生みの親の御父様に最初に誕生させて貰った一議席と呼ばれるダンジョンマスターの順位のことだ。
十二席ある一議席の末端。
だから十二番目のスカーレット。
これはある日から泣く泣く最下位に甘んずるスカーレットに対する嘲笑の呼び名でもあった。
初めは違った。
十二番目に生まれたから十二番目のスカーレットと呼ばれていたのだが、それがいつの間にやら揶揄うものへと変わり定着してしまった。
スカーレット自身もこれには憤りもしたが、どうせ背負った悪名ならば自らが名乗ってやろうと、強気な性格も相俟って自分でもそう言うようになったのだ。
そんなスカーレットは悩んでいた。
大いに悩んでいた。
勿論、順位のことである。
ここ数百年ほど、序列が最下位だということをだ。
誰もが最下位へとは落ちたくない。
だからスカーレットが順位を上げそうになると、他のスカーレットから見て上位の数人からの妨害を受けることがある。
その所為で自分の配下が命を落としたり、引き抜かれたりしたことも多い。
配下が少なければ、順位を上げるのは難しい。
皮肉な事に普通は数年おきにしか異世界へは来られないのに、スカーレットが他の世界に毎年来ているのは、そのお陰とも言えた。
それを解決する為に異世界に先程着いたところだった。
(今回は良い子が来ますように、そして私がちゃんと導いてあげられますように)
そんな事を祈りながら、目当ての家に着く。
今回はどんな子だろう?と見ていると。
出てきたのはやる気のなさそうな眠そうな顔をしている覇気のない青年だ。
第一印象は微妙。大丈夫かしら?という感想を抱いた。
気配断ちをし、部屋への侵入は成功した。
そして喋りかけてみる。驚くわよ。猫が話すんだもの。こっちじゃ猫は話さないものね。という目論見は外れることになった。
最初に驚かすのは、異世界のことを信用しやすくする為でもあったのに。
逆に驚いたのはスカーレットの方だった。
なんと青年はあろうことか普通に話しかけてきたのだ。
私は猫よ!という言葉をグッとこらえたのは言うまでもない。
さらに驚いたのは、家から追い出された事か。
スカーレットは周に興味を持ち、いつもはかたく禁じているはずの能力を使ってまでも周の心の内を見たくなり、準備を始める事になる。
明日来るなんてことを言ってしまったので、休息もとらず準備を整え、周の家に向かったスカーレットだったのだか、なんとそこに周はいなかった。
逃げられた?と思い、調べようとしたのだが、折角場を整えたので、とりあえず待ってみることにした。
訪ねてから2日後に周は戻ってきた。
周よりも先に部屋に入ることで条件は成立。
能力を使って心の内を覗こうと画策しようとしたのだが、周に忘れてたと言われたスカーレットは、驚きのあまり平常心を取り戻すのに時間が掛かった。
そして何とかそれを取り戻した後、会話をしながらスカーレットは、能力を使い周の心を覗くのだった。
好きなモノ嫌いなモノ、まずはそういう表層を読む。何を欲しているのかなどを知る為にもだ。
得た情報を会話に織り交ぜて、交渉していく。
そしてその会話からまた、深層へと潜り込んでいった。
(欲するのは時間と娯楽品か、欲求としてはありきたり、というか貧相。願いくらい高みをみてもいいものなのに。こちらとしてはやり易いけれど、つまらないわ。すぐに用意出来るわね。じゃあそれを求める理由は何かしら?)
などと、感想を述べながらスカーレットは何の気なしにその原因を見つけた辺りで、金糸雀色の瞳を見開く事になる。
何度驚けばいいのか?とこの時のスカーレットは思った筈だ。
やる気がなく、眠そうで、覇気のない青年。そんな周の第一印象が早々に引っ繰り返る事などないと高を括っていた。
つい数秒前までは。
(逸材かもしれない、隠すのは大変だったでしょうね、これは。でも私と一緒に来るならこれぐらいが丁度いいわ)
スカーレットは周を見る。
そこには、覇気のない青年が座っている。
だから、試してみたくなった。
まるで準備していたかのように、スカーレットは語り出す。周に向けて語り出す。
本性を暴き立ててやろうと、内面でほくそ笑みながら語り出した。