第54話 居残り組5
「痛ってぇな………ああ、もう」
束の間の仮眠で体力を回復させた周は寝返りを打った時に潰れた左手の痛みで目を覚ます。
おかげで微睡む事も許されず、バッチリと瞼が開いた。
(ーーー鬱だ。傷が治るまではこの痛みを享受することになりそうだな)
これから毎朝起きる度に訪れるであろう我が身の不幸を嘆きながら周は起き上がる。
伸びをして身体を解し、片手で水を掬い川で顔を洗う。そして口に含んでうがいをしてスッキリした。
日々の日課に決定した投球練習も終え、探索組が帰ってくるまで、やる事が決まっていない周は椅子に戻り、座る。
「ソファーとコーヒーが欲しい、ついでに本も」
元の世界に居た時は時間がなく、こちらではやる事はない、ままならないものだ。
すべき事のない周は暇を持て余し、椅子の上で遊んでおくように言った蟻に視線を移す。
そうして経過観察しようとするが、そこには何もいなかった。
(………ここに置いたよな?)
椅子を持ち上げ裏側まで確認するが蟻はいない。
「おーい。何処行った?………おっ」
虫が肌の上を這うこそばゆい感触で蟻達は返事をした。
首回りを一周してから肩の上で3匹とも止まった。
「そこに居たのか、危ないから椅子の上に居ろって言っただろ?」
眠っていた間に移動したんだな、と周は思い、椅子を掴んで自分の腕を橋にして渡らせようとしたが、一向に肩から蟻達は移動しようとしない。
「どうした?何か言いたい事でもあるのか?」
そう周が聞くと蟻達は激しく動き、何かを主張する。
「と言っても、お前達は話せないからな。う〜ん。指導中に指導者が変わるのは良くないんだが、まぁ、一度だけならいいか。聞いてやるからまずは椅子に移れ。話はそれからだ」
周が言うと蟻達は素直に聞き入れ、腕から椅子に渡った。
「手っ取り早くセキのを使わせて貰うか。じゃあ、そうだな………お前達は、はい、か、いいえ、どちらとも言えないってのを伝える方法を学んでたよな?それで質疑応答をして貰う事にする。でも○とか✖️の印は3匹じゃ表せないから、YES、つまり、はいの場合は縦に一列、いいえ、NOの場合は横に一列。どちらとも言えなければ、それ以外の行動で示せ。わかったな?」
コミュニケーションを蟻達と取る為に、周が適当な方法を考え伝えると、その簡易的な意思の判別法は機能し、蟻達は縦一列になり了承の意を示した。
「よし、では質問を始める。お前達は俺に何か言いたい事があるのか?」
周は早速話を聞く事にした。
すると蟻達は縦一列になる。質問の答えは当然YESだ。
「それは、重要な事か?」
周の続けての質問を受けると蟻達は縦でも横でもなく、バラバラに動いた。
(重要かどうかはどちらとも言えないか、いやこいつらでは判断が出来ないってことなのか………?というかそんな情報を何処から得たんだ?)
「その情報はこのダンジョンで得たのか?」
二つの質問で周の中に疑問が湧く。
疑問を解消する為の言葉を口にするとその答えはNO。
蟻達は横一列になり、否定の意思を表現する。
(意味がわからない、こいつらは外には出ていない。ならダンジョン内で情報を得るしかないのに、ここでは得ていない?重要かもしれない言いたい事ってのは一体何だ?)
周は蟻達の真意を汲み取る為、頭を回す。
(今、外にいるのは、ペテ子とセキとこいつら3匹以外の蟻達………他の蟻達かーーーハヤシアリのスキルは確か【共有】だったな。それが情報を共有するって意味なら?もし外の蟻達と情報を共有しているのならダンジョン内で得たものではない?)
「それは、外の蟻達から齎された情報か?」
蟻達が示したのはYESだった。
「そういう意味か、わかった。お前達は外の蟻達が知った事をそのまま知る事が出来るのか?」
蟻達は縦一列に並ぶ。
「これもYES。離れてても情報を共有する能力か、お前達を離れさせたのは我ながら英断だったって事だ。何でも試してみるもんだ。それにしてもこれは凄い力だぞ」
離れている場所の事を知る事が出来る。
それを知り、蟻達を見て素直に感心していた周だったが、そこで悪い予感がした。
(もしかして言いたい事ってのは、外の奴らに何かあったって話か!?)
「探索組に何かあったのか?」
慌てて周は蟻達に問うが、答えはNOだった。
悪い虫の知らせは外れ、口からは溜息が漏れる。
「はぁ〜。心臓に悪いぞ、お前ら驚かすなよ………じゃあ、いい知らせか?」
答えはYES。
良い知らせならば、これかなと、周は続けて問いかける。
「それは目的のモノを見つけたって事か?」
答えはYES。
(重要な話ってこれの事か)
蟻達が言いたかったのは、探索が成功して外で蟻を見つけたという探索終了の合図だった。




