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ゼロダンジョン〜最愛の者は異世界より〜  作者: 0
プロローグ 出会い。
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第5話 黒猫

「まだ弱いな」


有意義な交渉を終えた後の発言にしては、場違いとも言える(あまね)の呟きに猫は耳を疑った。


「こんなに譲歩したじゃない。永遠の時間に、居住地兼遊戯場(ダンジョン)、その上こっちの世界の娯楽品+, etc.まで準備したのに何が不満なの?」


これ以上何が欲しいのよと、猫は突っかかる物言いをする。


「不老ってのは魅力的だ、勿論な。それでも途中で死んだら意味はない。そっちの状況がわからないってのもあるが、俺はこっちに居ても運が悪くなければ五十年程は生きられる筈だ。それを積極的に減らそうとは思えないって事だよ、もう少し何かが足りない、まぁ自分でも我が儘だとは思う」


あくまで冷静に周は言い放つ。


「本当に我が儘ね、あんた。自分で分かって言っているのが質が悪いわ」


溜息で一拍置いて、何らかの意思を携え、猫はゆっくりと口を開いた。


「しょうがないか、最初からこうするつもりだったから、了承しようとどうなろうとね。今度はあんたの事を視させて貰うわ。それにこれがあんたを頷かせる交渉材料にもなると思うのよ。一粒で二度美味しいってところかしら」


「まだ何かあるのか?」


「まぁまぁ、いいからいいから、黙って聞きなさい」


奥の手でも用意していたのか、猫の発言には自信が見て取れた。


「話はこれが最後、あとはもう殆ど伝えちゃったし、もう少しだけ付き合って。さっきも言ったけどあんたには異世界に来てダンジョンマスターになって貰いたいの。私もダンジョンマスターの一人なんだけど、何年に一回、異世界から一人だけ私の下に付くダンジョンマスターを選んで連れて来られるって立場にいるのね。それで選ばれたのがあんたなの」


「なんで俺が?って聞いて欲しいのか?」


「わかってるじゃない、私が選んでいるわけじゃないから選考基準の全ては分からないわ。でも一つ絶対的なものは、この世界に執着していないってのがあるでしょうね。この場所から異世界に行くわけだから、この国との関係性も無くなるし。あんたはここで作られたものには愛着があるけど、それが別の世界でも手に入るなら、別にここじゃなくてもいいんでしょ?」


知己の友人のように自分の事を語る猫の口調に、周は引っ掛かりを覚えた。それにこれが最初から用意されていたもののようで何処かぎこちなく感じていた。


それでも会話は続く。


「人を薄情者みたいに」


「別に私は愛国心がないから薄情者だなんて思わないけど、一事が万事という事はあるでしょうね。それにあんたの場合は国とか、そういう話でも無いわよね」


猫の語り口は決め打ちだった。あんたの事ならもうなんでも知っているもの。と言いたげな話し方に周が抱いていた違和感はさらに増した。


「どういう意味だ?」


たまらず周は聞き返す。


「仕方ないわよね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ドキリと心臓が脈打つ。


返事は周の期待通りとはならなかった。猫による安易な推測から成された当てずっぽうな言葉で、この気持ち悪さを拭おうと思っていた目論見は直ぐに崩れた。


「まるで見てきたように言うんだな」


「もしかして忘れているのかしら?私はダンジョンマスターだけど、魔法使いでもあるのよ」


その意味は推し量るに、見てきたようにではなく、見たのだ。と暗に言っているのだと周はここで理解する。


ここで周の頭に生じたのは、少しのしこりだった。

でもそうするとおかしな点がある、と思い返す。だからこう口にした。


「そんな便利なものが有るなら、この2日間も何処に居ても訪ねて来られただろ?」


誰だって心の中を無断で覗かれたら嫌な気分になる。

それは、知られているのにこちらは知らない、なんて事は気持ちが悪いので少しでも猫の事を情報収集しようと頭が勝手に判断したようなものの聞き方だった。


「あんたの元に訪ねてくる私は、あくまで喋るだけの猫としてここに来ているのよ。私がそう決めたから」


私がそう決めたから。その台詞は重みを加えたように周の耳をゆっくり通過する。そしてそれが通過した後のすっきりとした周の頭の中に猫の言葉が追い打ちをかける。


「はっきりと言ってあげるわ。私はあんたの欲しいものを用意出来るわよ。()()()()()わよね?」


ああ、そうか。と周はここで悟った。本当にこいつは全部知っているんだなと。それは最初からどうすれば、天秤が傾くのか知っていたという事だ。

だから周はわざと責めるように猫を見詰めた。


「まさに猫を被っていたというわけか」


「面白い事を言うにゃ〜」


わざとらしく足された語尾は周の苛立たしさを加速させる。


覗き見(ピーピング)は悪趣味だぞ」


周は悪怯れる様子がない猫に対して責める言葉を重ねた。


「時と場合によりけりね」


「勝手な事を」


「自由気ままが猫の売りなの」


「随分と舌が滑らかだな、この嘘つきめ」


「騙される方が悪いのよ」


それでも猫が自ら剥がしたメッキの中身に、周が何処と無く惹きつけられているのも確かだった。


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