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第49話 探索前に

「味と見た目は関係なかったな」


「それは良かったですね。私はパンを初めて食べたので元がどんな味かはわかりませんが」


食パンで飢えを。川の水で乾きを凌ぐ。

そんな貧相な朝食を終えた周達は、それぞれ明朝から始まる探索に向けて準備をしていた。


「でも美味かっただろ?」


「蟻が頭にチラついてそれどころじゃありませんでしたよ」


「繊細か。俺から生まれたとは思えんな」


そう言いながら周は川に顔を近づけて手で掬い水を口に含む。


「直接川から水を飲むのやめて下さいよ、野人ですか?」


「飲んでない、(ゆす)いでるんだ」


準備と言っても周とペテ子には特にやる事はなく、言葉を話せる中で忙しくしているのはセキだけだ。


理由は蟻達との探索に向けての訓練である。


「頑張らないと明日からはパンもないからな」


「私が主様(マスター)を養ってあげますよ」


「そりゃどうも、助かるよ」


「任せておいて下さい」



ペテ子との話を終えた周はベッファンから盗んだ靴を履き、ベルトポーチと盗んだ刀剣を腰に帯びて短剣は手に持ちセキの様子を見ようと近づいた。


「どんな具合だ?」


「ご覧の通り順調です」


周の眼前に広がるのはセキの命令で蟻達は全員移動しながら○や△、✖️印になり、質問に答える光景だ。

これは、はい。か、いいえ。またはどちらとも言えない。を表したもので共通言語がないもの同士の間で言葉の代わりに使用されるコミュニケーションを確立しようとしているようだった。


「こんな短時間でよく仕込んだな」


「私というよりは蟻達に元々備わっていたもののようですね」


「そうかもしれないがそれだけじゃないだろ。セキ、あまり謙遜するな」


「そうですねーーーはい。わかりました。では次は矢印です、これで蟻達が察知した獲物がどこにいるのかを示します」


このようにしてセキは蟻達に指示を出し、探索までの時間を意思疎通を図る為の訓練の時間にてていた。


「よくやっているそんなお前にプレゼントだ」


褒美ではないが周は短剣を探索用にと思い、セキへと差し出す。もちろん抜き身ではなく鞘付きのものだった。


「私にですか?」


「ああ、受け取れ」


セキは(うやうや)しくそれを受け取る。

そして本来は人間の足につける剣帯を腰に巻き短剣を差した。


「どうでしょうか?」


「いいんじゃないか?」


「有難うございます」


「じゃあ、訓練を続けてくれ」


「はい」


周はセキから視線を移し、蟻達を見る。


ステータスで確認したところ、このハヤシアリの集団は43匹で同時に召喚したからか、それともこのハヤシアリのスキル【共有】の特性なのかわからないが、石版に表示されたのは1匹分のステータスではなく、43匹分のステータスだった。つまりこの43匹のハヤシアリは個ではなく集団が一つのモンスターとして召喚されているという事のようだ。


1匹1匹はおそらく有るか無いかわからないパラメーターの筈なのだが、それが43匹分ともなれば、パラメーターの各能力の数値は平均50を超え、このダンジョン内だけで言えばトップに躍り出る。


これは周にとっても予想外の事で、嬉しい誤算なのか結局は意味のないものなのか、計り兼ねる問題だった。


(コイツらは個として生きられるのか?それとも集団としてしか生命活動が続けられず一定の距離以上を離れられないのか?離れられるとしたらステータスはどうなるのか?………気になるな。分からないってのは、それだけであまり良くない。それを知るには実際に何匹かを引き離して物理的に距離を空けるしかないが―――)


「これもまた実験だな」


「なんですか?」


考えながらいつの間にか口から出ていた周の呟きにセキは反応する。


(今回の探索は良い機会かもしれない)


「訓練中のところ悪いが、蟻を何匹か貸し出す事は可能か?それによって何か問題が起きたりしないか?」


「―――わかりました。大丈夫だと思います。何匹程必要ですか?」


「そうか、では3匹頼む」


「承知しましたーーーお前達は周様の元へ。失礼のないように」


セキが選び、命令を下した3匹の蟻を周は借り受け、手を地面に近づけてから自分の身体の上に登らせた。


3匹の蟻はそのまま上へ上へと登っていき、周の身体を這って肩にまで到達した所で動きを止めた。


「そこがお気に入りか。今日のお前達は俺と同じ待機組だ」


3匹の蟻達はそれを聞き、少し動き回る。

感情が読み取れないので嬉しいのか悲しいのかは判断ができない。


「周様と一緒で喜んでいます」


「そう………なのか」


このセキの言葉が主を気遣ってのものか真実なのかはわからなかったが、どちらにしてもこれは質問すべき事じゃないと周は思い、受け入れた。


「お前達は探索組だ。頼んだぞ」


「聞きましたね。周様が期待しておられる。全員それに応えよ」


周が残りの40匹にも声を掛けるとセキは叱咤して、蟻達にまた訓練を始めた。


こうして時間は過ぎ、このダンジョンに新しい朝がやってくる。日が昇り地面を照らす。


本日の天気は快晴、良い探索日和になりそうだった。

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