第40話 モンスター召喚とは
ダンジョンリストを創った後、下着のまま草原に寝転んだ周は睡魔に身体を委ねて頭の電源を落とし睡眠を取っていた。
時は進み、夜。
すっかりとダンジョン第一階層【草原】の空も黒に染まって疑似恒星に代わり偽物の色違いの三つの衛星と様々な星が地上を照らし始めた頃、周は目を覚ました。
「主様、起きられましたか?」
気づいたペテ子は周に声を掛ける。
「時間は?」
草の上で寝た割には周の体調は悪いものではなかった。一度欠伸をしてから、顔を触ると首を捻り骨を鳴らす。
「夜です」
「時計は、無いんだったな」
時間は?の返事が曖昧な理由を察し、時計も買わないとなと思いながら、ここで始めて周は顔を上げ空を見た。
「輝いてるな」
「輝いてますか?私」
「お前じゃ無い、上だよ上」
「褒められたかと思いました」
「お前も綺麗に輝いてるな。いい感じだ。これでいいか?」
「はい」
番をしていたペテ子への労いとして、周は賛辞の言葉を送る。
「質問いいか?あれってなんで月が三つもあるんだ?」
人差し指を上に向けて周はペテ子に聞く。
「空も外と同じですから、こっちには月が三つあるって事なんでしょうね。と言いますか月なんですかね?あれ」
「どういうことだ?」
「月というのは、主様の世界の衛星の話でしょう?こちらは別の世界ですから」
「確かに、じゃあ太陽も別のものかもしれないのか、気が付かなかったな」
「また名前を決めますか?」
「それはもういい、太陽と月でいいだろ」
衛星の名は赤色の衛星が第一星、青色の衛星が第二星、緑色の衛星が第三星という名前で恒星の名は子星といった。
これを周達が知るのは、まだ後の事である。
「月は三つありますけど?」
「じゃあ一番月、二番月、三番月だな」
「どうでも良さげですね」
「起き抜けにする話では無いだろ」
そんなことよりも、と周は起き上がり服を取りに行く。
「吸収はされていないな」
ペテ子のダンジョンについての説明は正しかったようで、乾かす為に地面に置いておいた洗濯物は一つも消えたりはしていなかった。
周が眠ってから数時間は経っていたので服は乾いていたが靴だけはまだ湿っていた。
仕方がないのでまた靴は履けず裸足のまま。
ベッファンの荷は今は必要ないので触りもしなかった。
「早速『モンスター召喚』するか、ダンジョンリスト起動」
「もう起動してますけどね」
服を着て周が向かった先は石板の前だ。
キーワードを得意げに言うと、隣に来たペテ子が水を差した。
「言いたかったんだよ」
「知ってます」
石板の文字が星の明かりしかない暗闇でも見られるのはダンジョンリストに表示されている文字自体が光っているからだ。
周がダンジョンリストに目を通すと、黒土の上に選んだモンスターのフォルムが成形された。
その黒土で出来た土像もまた光を帯びていた。
「ペテ子先生、質問がある」
だが周が気になったのはそんな事ではなかった。
「はい、なんでしょう?佐々木くん」
「なんでここには俺の世界に居そうな生き物しか載っていないんだ?」
気にしたのは、ダンジョンリスト『モンスター召喚』の内容が自分の知っている生き物ばかりだったからだ。
「その質問の意図はなんでしょうか?」
「いやな、なんというか俺はスカーレットの所のダンジョンリストをチラッと見ただけなんだが、アレにはほら、こっちの世界の特有の生き物が多数載ってたんだ。スケルトンやリザードマンとかな。だからなんで俺のダンジョンリストにはそれが載っていないのかと思ってな」
「それは仕方ないですよ。主様はこちらのモンスターとまだ接触していませんもの。『モンスター召喚』の仕組みとは接触したことのある生き物をモンスターとして創造可能にするというものですから」
「つまり?」
「主様の世界にはスケルトンやリザードマンはいましたか?」
「いないに決まっているだろ」
「そういうことですよ。『モンスター召喚』で召喚出来るモンスターはコアを持っている時に接触した生き物か、ダンジョンマスターになってから接触したモンスターだけです」
「だからこれには俺の知っている生き物しか載っていないのか」
ダンジョンリストに載っている動物達は周が旅行中に意図せず接触した生き物だけだった。
「それに等級の問題もあります。『モンスター召喚』でリスト化されるのは等級が同等か劣っているものだけです。主様の場合は第一等級の生物のみとなります」
「こっちのモンスターを召喚するには接触する必要があるって事だな。それにはダンジョンの外に出る必要があって、さらに接触したとしても自分と同等以下の等級の生物しか意味はないってことか」
「よくできました」
「花丸をくれ」
「そもそもなぜこの世界には主様の仰られたような多種多様な生き物がいるのでしょうか?」
「なぜ?」
「なぜ?です」
「そういう世界だからだろ」
「私はこう考えます。それはダンジョンによるものだと」
「続けろ」
「もっと細かく定義付けするなら、『モンスター召喚』によるものですよ。『モンスター召喚』の【モンスター創造】と【モンスター変形】はご存知ですよね?もしも主様のように異世界からこの世界に来られて、この二つの能力を使い、元の世界から持ち込まれた生き物をダンジョンで組み合わせて生み出していくとどうなると思います?」
「ここにはいなかった筈の生物が生まれるな」
「その通りです。さらにこちらのモンスターと接触し、【モンスター変形】で組み合わせることによってさらなる新種のモンスターが生まれます。百を超えるダンジョンマスターが数百年に及び、そんな事をしているのですから、次々に新しいモンスターが生まれていきます。そしてそのモンスターの内の弱者が淘汰され強者だけが残った姿がこの世界の生物の現状なのですよ」
「こっちの世界の生態系がむちゃくちゃなのはわかった。そこに魔法なんかも加われば、未知以外の何ものでもないな」
「これは主様の強みでもあります。このダンジョンリストの生物の何匹かはこの世界に未だに存在しない生き物かもしれません」
(俺にとっては、知っている動物でもこっちの世界では未知のものという事も有り得るって話か)
「自分だけが知っていて、相手は知らないという事がどれだけ有利に働くか考えるまでもない。でもそれは俺自身にも返ってくる言葉だ」
この時点で、周達は対ダンジョンマスターの想定をしている。そして同時にこちらの世界にについて自分が何も知らない事を周は悟った。
「やっぱり外には出る必要があるな」
「でもそれはーーー」
「今じゃない。わかってる。やれる事を一つずつだ。地盤を固めながら情報収集、モンスターについてはククルに聞いてみよう。第一等級のモンスターがあの森にいるのかどうかもな」
「ククルってどなたです?」
「知らなかったか?一応俺の奴隷だ」
そういえばククルと話をしたのは、廃家にコアを投げ入れた後だったなと周は思った。
「主様、いやらしいです」
「そういうものじゃない、ククルはだな………」
それから奴隷という言葉を勘違いしているペテ子にそれを説明するのに少しの時間を要した。




