第4話 猫は語る
「時間を与えるって言ったのは簡単。ダンジョンマスターになると不老になるのよ。死ななければ時間は無限でしょ?もう私だって何百年と生きてるもの。正確な年齢は教えてあげないけど」
「老猫だったのか、優しくしてやろうか?」
「要らない世話を焼かないで」
猫は本気で嫌がっていた。年齢関係はNGワードのようだ。周は他の聞きたいことを尋ねることにした。
「あっちの文明レベルは?こっちと同じかそれ以上なら問題ないけどな」
娯楽が充実するにはある程度の文明が育つ必要がある。だからこその質問だった。
「こちらで言えば中世と言ったところかしらね。でもあっちには魔法もあるし、こちらと比べるのはあまり意味がないと思うわよ」
ここで周はガックリとした。遊べるものが少なそうだなと理解して。
(中世か、本は羊皮紙か?魔法があるなら紙が一般的に普及している可能性もあるけど、定かじゃないな。
異世界がアジア圏なら可能性はあるか。でも本となるとそれも微妙だな。でも絶対にゲームはない。それは確かだ。映像機器もな)
「魅力が半減したぞ」
「大丈夫、そこは考えてあるから。こちらの物をあっちでも買えるようにしてあげる。本もゲームも何もかも娯楽品から食料品まで、もちろん対価は必要だけどね」
周が素直に感想を零すと、猫は予想外の返答をした。
「ゲームもプレイ可か?」
「ダンジョン内なら問題にもならないわね」
「不思議パワーで何でもござれってことか、それなら………っと待てよ。余りに俺にとって話が上手過ぎないか?お前のメリットはなんだ?」
(一方的に与えられるだけの関係性を、しかも与える側が求めてくるなんてことは気持ちが悪い。与えること自体が、献身こそが行動理由になっているナイチンゲール症候群でも発症している奇特な生き物などそうそう居まい)
「それは簡単よ。年の終わりに決まった額のDPを上納して貰うわ」
「DP?」
「DP、これはダンジョンを運営するに置いて切っても切れないもの。ダンジョンを生み出すにも、罠を張るにも、モンスターを生み出すにも、これがないと始まらないから。勿論あんたが娯楽品を買うにもね」
「それが目当てか」
上納金みたいなものかと、周は納得する。
(価値のある物を求めるのは当然の事だ。この世界では一般的には金という分かり易い指針がある。ダンジョンではそれがDPということなんだろうな)
「でも最初の内は得られるDPも少ないから上納するDPもそんなに取らないであげる。ランクが上がればそれも違ってくるけど、まぁ常識的な範囲内よ。それよりも最初は生き残って貰わないといけないしね」
「命の危険は………」
「当然あるわ。それはこっちでも同じでしょう?」
「まあな」
いつ何時危険な目に遭うかなんて誰にも分からない。
事故に遭う可能性も、罹患する場合もある。それが命を脅かすものでないと誰が言えようか。
「つまりは私の所有している一部の場所を、あんたに与える代わりに、私の、配下になりなさいってこと。仕事内容はダンジョン運営。あんたが払うものは上納するDP。給与はあんたがダンジョンで手に入れた全て。後は敢えて言うなら永遠に続く時間ね」
「戦国時代ってのもそんなに的が外れたわけじゃなかったわけだ。土地を与えたから、そこを仕切れってのが要請だな。お前の役割は信長か?」
「ならあんたは勝家か、長秀ね」
「光秀を推したいところだな」
「謀反は許さないわよ」
「冗談だ」
「本気の遊びなら付き合ってあげてもいいわ」
「それはいい殺し文句だな」