第39話 一覧表を改造
草原の中空に浮かぶ透明な板を見て周が最初に発した感想は、
「雰囲気に合わないな」
だった。
「雰囲気ですか?」
ペテ子は頭に疑問符を浮かべる。
「結構重要だろう?雰囲気って。古家が建ち並ぶ場所に一軒だけ真新しいカラフルな家が建っているとか、料理を出すときの皿が一枚だけ種類が違うとか、それを気に入っていたり、何か意図していたりするならいいんだが、ただそこに異物があるっのてのはそれだけで心が摩耗していくんだよ。つまりこんな牧歌的な草原の上空にSFで見るような透明な板って、色々ごちゃごちゃしてて気に入らないって話だ」
「でもこれって主様の頭から出てきたものですからね〜。文句は御自分で処理なさって下さい」
「全く以ってお前の言う通りだ」
周は、付き合いの悪い奴に向ける目をペテ子に向けた。
「正論がつまらないならコレの形を変えるとか、どうでしょう?」
ペテ子は透明な板を指し示す。
「変えられるのか?」
「頭から出てきたものなら、もう一度想像し直せば良いだけですよ」
「決まりだ、そうしよう」
ペテ子の案を採用し周は再び想像力を高める為に目を瞑った。
「ここの雰囲気に合うもの、草原、羊………羊飼い。いやこれは違う。一覧表が見られなければ意味はない。見るもの。本か、でもサイズが小さい。もっと昔なら、石版か、大きな石版。これなら合格だ」
頭の中で想像力を固めて一覧表を具現化する。
無音で何も感じさせる事なく、それは成った。
「主様、完成していますよ」
目を開けると中空に浮いていた透明な板は消え、目の前には周の身の丈の三倍以上はありそうな大きなアーチ状の石板が地面に埋まっていた。石板が埋まっている場所の周辺は黒い土に変わっていて、実際の石板の大きさは確認できなかった。
「悪くはないな」
「これも雰囲気を壊していませんか?」
「俺が気に入ってるから、いいんだよ」
ペテ子の言わんとしている事もわかった。
だが宙に透明な板が浮かんでいるよりもマシだと、周はその考えを払拭する。
「次は名前だな。石板じゃ浪漫がない」
「変な所に拘りますね。眠いからですか?」
「そうかもしれない」
「じゃあこれだけ済ませてから寝て下さい。『モンスター召喚』は仮眠を取ってからにしましょう、いいですね?」
「体調管理は重要だからな」
「それで何で名前を決めるんですか?」
「〜を起動みたいに言いたいだろ?」
「子供ですか」
周の答えにペテ子は呆れていた。
「名前は重要だぞ、特にイメージの固定化にはな。この一覧表は俺の想像でどんなものにも変わるみたいだからな。名前を決めておかないと一々形が変化しかねない」
「じゃあ石板でいいじゃないですか?」
「これはただの石板じゃないんだ。この黒い土がもう一つの役割をしているんだよ」
周は『モンスター召喚』の一覧表の一番上にあった人間を選択し表示させる。石板には人間の説明が色々と表示されるが、今、大切なのはそれではない。
周がペテ子に見せたかった黒い土の方はというと大きく盛り上がり形を変え、そのまま等身大の人間へと成形されていた。
「これで大きさなんかも、大体把握出来るようになる」
「ただの無駄な改造じゃなかったわけですね」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「私の主様ですけど」
「そういう意味じゃない」
「主様は私の主様ではないんですか?」
「もういい、分かって言ってるだろ。ああ、そうだな。俺がお前の主人だ。だから命令を下す。この石板に名前を付けろ」
ペテ子がはぐらかしたので周はちょっとした意地悪をプレゼントする。
「なんて無茶振り、嫌がらせですか?」
「そうとも言えるな、生意気だからだ」
「そんな無体な」
「お前の主人が命名権を与えてやると言っているんだ。嬉しいだろ?」
「要りませんよ」
「いいや、お前がやれ」
「主様、面倒になってきていませんか?」
「お前に名誉を与えるだけだ」
「物は言いようですね」
眠たいとこんな理不尽になるんですね、とペテ子は周に不満を漏らす。
それから考える仕草をしてから数十秒後、ピカっと光り放ちペテ子は解答した。
「では、W○kipediaにしましょう」
「やめろ。俺から得た記憶の中から選んで名付けるな」
「主様が求めてきたから答えましたのに」
「それは却下だ」
「駄目ですか?」
「駄目に決まっているだろ」
明確に周は駄目な理由を言わなかったが、それは明確な理由が無かったからである。
ただなんとなく駄目だと感じていた。
「ではW○kipediaの例に倣い、言葉を組み合わせるのはどうですか?そうですね、主様の管理する一覧表ですからAmane Listでどうですか?」
「俺が自分でAmane Listを起動って言うのか?恥ずかしいわっ」
「別に言わなくてもいいのでは?」
「言いたいんだよ」
何処までも我儘な主人である周は、再びペテ子の意見を却下する。
「それにしても主様でもそういうのを気にするんですね」
「俺は恥知らずってか?」
「世間知らずだとは思っています」
「お前は礼儀知らずだけどな」
「身の程知らずの主様に言われたくないです」
「天井知らずに失礼な奴だ」
「知らず知らずの内に馬鹿にしてました。すみません」
「もう言葉遊びはいい。ダンジョンの一覧表だからダンジョンリストいいだろ」
結局名前は周が自分で決める事となった。
だが、これもペテ子と話したから決定した事項だ。
「石板の要素が何処にもありませんが」
「入れるの忘れてたな」
この辺りは周は素で忘れていた。
おそらく頭がよく働いていない事も原因だろう。
「主様は偶に考え無しですよね」
「偶にだからいいんだよ。これで名前は決まったな」
「普通ですね」
「落ち着くところに落ち着いただけだ」
こうして石板の名前はダンジョンリストなどという誰にでも思い付きそうなものになったのだった。
今日もう一話投稿すると前書きに書きましたが、この第39話に加筆しました。一度口にしたので書くつもりではありますが遅れたら申し訳ありません。




