第38話 周は川へ洗濯へ
「ペテ子、誰もいないな?」
「怯える主様も可愛いと思っていた時期が私にもありました」
「その心は?」
「さっさと行っちゃって用事を済ませて下さいって話です。一体、何度安全確認するんですか?濡れたままだと風邪を引きますよ」
「ダンジョンマスターでも風邪引くのか?」
「生き物ならそうなんじゃないんですか?」
「子供は風の子という言葉があってだな」
「主様は大人です」
「頭は子供のままの部分が残ってるから大丈夫だ」
「それ大丈夫じゃないと思います」
身体と服を洗って下着だけになった周はおっかなびっくりしながら廃家の外に数歩だけ出て、外に放置していた葛籠箱を取りに行く。
その佇まいは完全に不審者だ。
目当ては葛籠箱の中にあったタオル。
周は川で身体を洗っている最中に身体を拭く物がない事に気がついた。葛籠箱の事を思い出したのは、最後まで洗濯を済ませて川から上がった後だった。
着る物も無いので、こんなパンイチ姿なのである。
周は早々に葛籠箱ごと廃家の中に運び入れ、その蓋を開く。
このタオルがなければしばらくびしょ濡れのまま過ごさなければならなかっただろう。
「これで、スッキリするぞ」
「寒くはないんですか?」
「寒スッキリする」
「なんなんですか?それ」
「下は暖かいから戻るぞ」
「外と連動しているので、直に夜になりますけどね」
「そうなのか?」
「私はこう言いましたよ?【環境設定】はダンジョン周辺に合わせるとDPの消費が少ないって。ですから当然、時間も外と合わせたものになるのです」
「その言い方だと、時間を固定する事も出来るってことか?」
「主様は賢いですね、飴ちゃんを上げましょう」
「持ってないだろ、イラつくからやめろ」
「ちょっとしたお茶目ですのに、でも夜になるのは本当ですよ」
「夜になる前に乾かせば大丈夫だろ」
三枚入っているタオルの内、一枚はククルを呪刻した時に血墨で濡れた指先を拭って汚れていたので周は残りの二枚の中から一枚を取り出し、スカーレットに感謝しながら身体を拭いてスッキリした。
血墨で汚れているタオルともう一枚のタオルは畳み直し、ガラス瓶に入っている血墨の蓋が閉まっている事をしっかりと確認してから清潔なタオルと汚れたタオルの間に差し入れて、隔離してから両方とも葛籠箱に放り込んでおいた。
周は肩にタオルを掛け、葛籠箱を持ち、長い階段を下りていく。
「さらに自然乾燥だ」
自分のダンジョンの第一階層【草原】に降り立つと周は葛籠箱を置き、手と脚を広げて全身に疑似恒星の光を浴びた。
桃太郎のお婆さんの如く川で洗濯した服は、外に出る前に上下ともに草原の上に広げておいた。
「大自然乾燥という感じですね」
物干し竿も何もないのでペテ子のいう通りだと思った。
身体を洗い、洗濯を終え、川から上がりタオルを取りに行って戻った頃にはベッファンの死体と服はすっかり消えていた。
「そういえば、俺の服って吸収されるんじゃないのか?」
これは服を乾かす為とはいえ一時的にも自分の服を地面に放置していても大丈夫なのかという意味の質問だ。
「私が知る限り、最初のダンジョン作成以外ではこのダンジョンの主である主様やこのダンジョンの関係者のサブマスターである私が廃棄したいと考えた物でなければダンジョンは吸収しませんので大丈夫です。こちら側の荷は吸収されず、挑戦者側の荷だけが吸収されます」
「ベッファンの荷物はどうなる?」
「あれはもう主様の物でしょう?ですから所有者の意思が優先されます」
周が急いでベッファンから所有物を剥いだのは間違いではなかった。ペテ子の説明では挑戦者がダンジョンに持ち入れた荷も一度こちらのものにしてしまえば吸収されない。逆にいえば所有者にならなければダンジョンに吸収されてしまうという話になる。
「つまりは安心して服を乾かせるってことだな」
「夜にならなければ、そうなります」
「嫌な事を言うな」
服を広げた場所の横にベッファンから得た戦利品も置いておき、やる事を済ませて心身共に身軽になった周は足で草原を感じた。
ダンジョンの外と同じでこの草原の下草も少し濡れてはいたが、足も濡れているので気にはならなかった。
天然のベッドを獲得した周は、そこに座り込む、
チクチクと太ももに草が刺さるがそれは不快までとはいえないものだった。
「ふぁ〜」
一度大欠伸をして身体を伸ばし骨を鳴らすと、周は起き上がって言葉を発した。
「今回の探索で学んだ事はダンジョンの外は危ないってことだ」
「それ私が言いましたよ、主様」
ペテ子は周が外に出ると言い出した時に散々忠告していた。疲れている為か、周の発言は馬鹿っぽい。
「こほん、その通りだ、ペテ子くん」
「惜しい、ちゃんでお願いします」
ペテ子の発言を無視して周は続ける。
「自覚足りなかった、俺は弱い。それが大きな一番収穫だ」
「虫の事は、どうでもいいんですね」
外出の目的を忘れている周にペテ子はツッコんだ。
「そうだな。それが一番で、これは二番だ」
「主様、しっかりして下さい」
「安心しろペテ子。俺は眠気に襲われている」
周の瞳はとろんとしたものに変わっていた。
「そう見えるから言ってるんですよ」
「しかも疲れているだけだ」
それも仕方ないかもしれない。
結果的に楽しんではいたが、あの初戦に命の危険があったのは間違いなかった。全神経をフル稼働して戦い、血で汚れた身体を洗い、洗濯まで済ませたのだから疲れが外に出てくるのはの当たり前の事だ。
「今の主様の頭は働いていないんですね」
「決意表明が台無しだ」
「これってそういうものだったんですか?」
「そうだ。こういう俺が使えない奴になった時の為にもこれからは安全確保を最優先に考え、仲間を増やそうと思う」
それを聞いてペテ子はおお、と声を上げた。
「ついに、ダンジョン運営に取り掛かると!これが私達の覇道の第一歩目となるのです!」
「覇道?まぁ、そんな感じだ」
「強者をバッタバッタと薙ぎ倒し、いと高き天上まで上り詰める主様の姿が見えるようです」
「それは幻覚だ」
眠たくても、ペテ子の妄想を訂正する程度の事は出来るようである。
「そうだ。だからアレをやってくれ」
「アレとは?」
「【アイテム購入】の一覧表の時みたいに額を当てて見せるアレだ。今度は『モンスター召喚』の一覧表が見たい」
「私は嬉しいですけど、ご自分ではやらないんですか?」
「俺が自分でやれるものなのか?」
「あれはイメージを伝えただけなので、出来るんじゃないですか?」
「よし、やってみよう」
目を瞑って、周はあの時と同じように『モンスター召喚』の一覧表が出てくるように思い浮かべてみる。
だがそれは現れない。
さらに強く念じようとした時、ペテ子が身体を使って周の肩を軽く叩いた。
「主様?」
「なんだ?」
「もう出てますけど」
ペテ子に言われ、周は目を開く。
「あ、本当だ」
頭の中に出す予定だった『モンスター召喚』の一覧表は、奥が見通せる巨大な透明な板となって草原の空中に浮かび上がっていた。
第31話で容姿について触れましたが、とりあえず服装については全員の分を書けたと思います。
残りも少しずつ加筆をしていくのでお待ち下さい。




