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第35話 騎士服の男達

ガサッと葉が揺れた音でようやく、すぐ側に見知らぬ人間がいる事に周は気付いた。


「「あ」」


この世界での初めての外敵は、二人の男。

それがダンジョンの外なのは想定外だった。


周はその内の一人と目を合わせる。

視線を交わして声を上げた男の特徴はまず大柄な事だろう。

次点がくすんだ金色の短髪で、その下の濁った濃い青色の双眸も印象に残る。

服装は白と青を基調とした騎士服。携行している武器は腰の周りの帯剣と足の剣帯に収められている短剣の二本。他にはベルトポーチを付けており、黒革のブーツを履いていた。年は二十歳ほどに見えた。

そして男の片方の手は指が二本欠けていた。


男の背後にいるもう一人は荷物待ちといった様子の背の低い細身の青年だ。年は大柄の男よりも一つか二つ幼い。茶髪で黒目、これといった特徴はなかった。

服装はもう一人の男と同じで騎士服だったが、まるで別の服を着ているようで似合っていない。武器は腰に帯びた剣一本。これも大柄の男と同じもの。しかし身体の大きさが違うために帯剣が大きく見える。靴は黒革のブーツ。背中にはレザーのショルダーバッグを背負っていた。


男二人も人間がここにいる事には気付いていなかったようで、周と目が合った大柄の男は驚いた様子だった。

だからか武器は収められたままで手には何も持っていなかった。


しかし周の事を認識した瞬間、

前方に居た大柄の男は腰の帯剣に手を当て、いつでもそれを抜けるように構える。

後ろの男の方は、おどおどしていて判断を迷っていた。


(やる気満々か、ああ嫌だ嫌だ)


ちょっとした昆虫採集の予定は早変わりして、ここは今やキリングフィールドと化している。


後ろの男とは交渉できそうだが、前方の男は無理そうだ。と周は判断した。

男が向ける目の中の感情には周を獲物と思っている節が見え隠れしていたからだ。


警戒しているのは周が何者なのか分からないからで、下手に弱みを見せればその場で襲われる可能性が高い。


(しまったな、完全に油断してたな)


一手遅れているとは言え情報収集は戦いの基本。

周はまず使い勝手の良い【鑑定】を黙って使い、二人の情報(ステータス)を覗く事にした。


(蟻の次が人間か)


まずは名前。次にLv。そして等級や種族。称号、職業などを順に見る。個々のParameterに目を通し、conditionとkarmaの値を確認した。


男達の名前はくすんだ短い金髪がベッファン・マルコム。特徴があまりないおどおどしている方がニーズ・ツウィンスというらしい。


等級は周と同じ第一等級で、


(あんまり見たくなかった職業だ)


ベッファンの職業は盗賊だった。

後ろの方は従騎士だ。


この情報は周の頭の中に疑問を生じさせた。


それは二人の服装が同じなのに職業が違う事。揃えの服装に同じ武器。てっきり両方とも騎士だと周は思っていた。


どちらかといえば前方の男の方が騎士っぽい。にもかかわらず職業欄には盗賊と明記してある。


周は知らなかったが彼らの職業が違うのには理由があった。この世界のステータスに刻まれている職業とは自分で選ぶものでは無く、この世界がその者を見て決定しているものだった。


つまりその者の状態により、職業は変化する。


同じ服装をしているのはベッファンが元騎士だからである。盗賊になっているのは負傷して騎士を解雇されたからだ。


なぜ騎士を辞める必要があったのか。

それはこの国、リュベット公国で起こっている政変が原因だった。

リュベット公国では一年程前に王が突然崩御した。

その王には子供が五人おり、その中の長兄である第一皇子が国を継ぐ予定だったのだが、それを認めない第二皇子との間に跡目争いが起こったのだった。

そうして国が二つに割れ、内戦が始まった。

その戦いは半年間続き、結果は互いの両皇子が戦死。王妃までもが巻き込まれ、その戦いで亡くなった騎士は500名に及ぶ。

負傷者はさらに多く、ベッファンもその中の負傷兵の一人だった。

失くしたのは利き手の二本の指。普通の生活はしていける身体ではあるが、利き手の指がなくなり等級が一つ落ちてしまった。

辛酸をなめながらも何とか生き残った褒美が、満足に戦えぬ騎士など要らぬという国からの御達しだ。

そうしてベッファンはお払い箱となった。

こういう騎士の人数は全体で二百名にも及ぶ

国が通常状態ならば、負傷者も治療を受けられ、薬が支給され、運が良ければ失くした指も完全に治るなんて事もあったかもしれなかったが、現在この国は常時ではない。

国は二つに割れ、その結果多くの騎士を失い、内戦が落ち着いたかと思われたすぐ後に、その跡目争いを継いだ第一皇女と第二皇女が新たな諍いを生み、今度は転生者達を巻き込んで第二の内戦を始めてしまった。国内ではそれが未だに続いている状態だ。


彼ら負傷兵や他の理由により厄介払いされた者達はそうして国を護る立場を奪われ、ほとほとこの国への愛想が尽きた。

そうして彼らは盗賊になり、今は国を荒らす側に回っているというのだから皮肉なものだ。


ベッファンは復讐心の活力に、濁った心で人を虐げる事に悦を得るようになっていた。


ベッファンの職業が盗賊になっている経緯はそんなものだ。ニーズの職業が盗賊になっていないのは、彼が盗賊稼業を始めて日が浅いからである。


しかしそれらの事情を周は知らず、また知っていたとしても考慮はしない。この時の周にとって一番重要なのは彼らが自分より強者だという事だった。


負傷した元騎士とへっぽこな従騎士とはいえ、二人合わせれば、いや二人合わせずとも真面にやり合えば周の命はそこで尽きる可能性が濃厚だ。


かといって逃げ出すこともできない。

今は虫を捕まえるためしゃがんでいる状態。

しかも足元は靴下だ。駆け出したとしても、おそらくダンジョンに逃げ帰るまでに捕まる可能性の方が高い。

ここからダンジョンまでは距離はそれほど無いが、この万全には程遠い状況では十歩程度で追いつかれるのは目に見えていた。


(なら、やる事は………やれる事は一つ)


周は盗賊を見る。


(この目の種類は知ってる。他人を甚振る事に快感を覚える類の人間の目だ)


ベッファンは騎士だったが、元から粗暴で一面も持ち合わせていた。盗賊稼業に苦労せずに馴染めたのもそういう内面の部分が大きかったのかもしれない。


(本当に助かった。知っているやり方で一先ずは凌げそうだな)


相手の欲するものを分かっていれば、それがどんな人物だとしても対応は割と簡単である。

導くにはただそいつの欲しいモノを与えてやればいいのだから。


「お願いします。靴でも何でも舐めますんでどうか助けて下さい」


周は考えを即実行し地面に膝を擦り付ける。

そして懇願した、助けてくれと。

するとベッファンの顔からは警戒心が消え、その代わりに愉悦を意味する表情が浮かび上がった。

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