第33話 荷物の行方は
「そうだ、しばらく光っててくれ」
廃家の地面である床板は脆く壊れやすい。
ペテ子との初めての会話を終えた周は、家としての役目から今は薄暗く廃材が乱雑に集積するダンジョンの入り口として稼働している廃家の内部を探索中だった。
ここにいるのは、ダンジョンマスターにはダンジョン形成をする猶予の時間が与えられる、逆に言えば安全を保障された時間が残り三日しかないとペテ子から聞かされた周が即行動し始めた結果だ。
まずは色々とダンジョンの事で動き回る前に頭の端に引っ掛かっている事を確認する為と、頭を働かせる時には甘いものを食べる習慣がある自分の脳の糖分補給を兼ねて、スカーレットがそこにある言っていた荷物を探そうと、周は長い階段を上りダンジョンの入り口である廃家まで戻っていた。
「何処にあるんだ?」
しかし肝心の探し物は廃家の中の何処にも無かった。
この廃家は二階建てではあるが、敷地面積はそれほど広くはない。探し回る必要などないと思っていたのだが、その予想は外れていた。
このままでは廃家の中にあるはずの荷物の中から紅茶と菓子を用意してのティーパーティーの開催は延期せざる得ない。
周は他のやるべきことを優先した方が良いだろうかと迷いながら、後ろにピッタリ付いて来ているこの暗がりで微妙に役立っているペテ子に頼み事をすることにした。
「なあ、ペテ子、俺の荷物が二階にあるかもしれないから見てきてくれ。荷物があったらその中に紅茶の茶葉が入っている缶と水と携帯ポット、あと菓子と食器がないか確認してくれないか?」
二階へ行く階段は腐って壊れているので上ることが出来なくなっている。もしもそこに荷物があるなら一階をいくら探しても見つからない。
ペテ子は宙に浮けるので、ちょっと飛んで行って見てきて貰おうと周は考えた。
「え?そんなものを探していたんですか?でもダンジョン作成時にここに荷物を置いておいたなら、もう無いと思いますよ」
しかしペテ子の返事は荷物がここにあるという前提を覆すものだった。
「どういう事だ?」
そう周に聞かれ、ペテ子は何を当たり前な事を、と前置きして説明し始めた。
「それはですね、ダンジョン作成時に近くにあるものはダンジョンへと吸収されるからですよ」
「吸収?」
「ええ、吸収です。主様は【アイテム購入】については御存じないんですか?」
「いや、スカーレットに見せて貰ったから知ってるぞ。武器とかを買うやつだろ?」
周はサラマンダースケルトン達の武器を購入しているスカーレットの姿を見ている。
あれをしたのは正確にはスタークだったが指示したのはスカーレットだ。
「ではシステムについては御存じないんですね?」
「ああ、まあな」
「ならばそれから説明しましょう。そもそも【アイテム購入】というものは外からダンジョンへと持ち込まれたものを吸収して再び購入可能にするシステムの事です。そして吸収されたものは【アイテム購入】でDPを消費すれば買い戻すことができます。ここまではいいですね?」
「大丈夫だ」
理解すると共に周は嫌な予感がした。そしてそういうものは大抵当たってしまう。
「アイテムがダンジョンに吸収される条件は、ダンジョン作成時にダンジョンに吸収させたいものをその近くに配置しておく事。もしくはダンジョンの機能が稼働した後にダンジョン関係者以外が所持するものをダンジョン内で破棄し一定時間が経過した場合。これが主な二つの条件になります。今回の場合は一つ目のダンジョン作成時におけるアイテムの吸収です。ですからもしもここに荷物があったなら、ここは入り口とはいえダンジョン内ですから既に荷物は全てダンジョンへと吸収されてしまっているでしょうね。この廃家の中にも廃材はありますが椅子やテーブルは何処にもないでしょう?これもダンジョンに家具などが吸収された結果です」
「マジか」
「マジです」
やっぱりなと周は嘆息した。
嫌な予感の的中率はいつだって、百発百中の値を叩き出してしまうものだ。
(ご多分に漏れず今回もそうなったな)
「その吸収した【アイテム購入】の一覧は今見られるか?」
終わってしまったものは仕方ない。
せめてここに荷物が置いてあった確認だけでもしようと周はペテ子に尋ねる。
スカーレットのマスタールームと違い、ここにはモニターなどがない。それでも可能なのかという質問だった。
「【アイテム購入】の一覧ですね。ええ、勿論です。直ぐに確認しますか?」
「頼む」
周がそう言うと、ペテ子は周にぐっと近づいてその顔を光で照らした。
「では目を瞑って下さい」
「これでいいか?」
周が目を瞑ると額にあたたかいものが触れる、ペテ子だ。
こいつにも体温があるのか、と不思議に思っていると
「ではいきますよ、主様」
ペテ子の一言で周の頭の中に【アイテム購入】の一覧表が浮かび上がった。
そこには確かに周が引っ越しの時にそのままスカーレットに渡した家財道具一式と、この半年間にスカーレットに色々言われ購入したものが一覧表化したものがあった。そこには食料品や娯楽品の他にも嗜好品と医薬品、それに加え家具や電化製品などが並んでいる。
見覚えのないものは廃家からのものということだろう。
しかしそれは全て並んでいるだけだった。なぜなら周が現在所持しているDPではほとんどのものが購入出来ないからだ。
「スカーレットの奴、何が頑張ったらだ」
ペテ子から離れ、目を開けた周は別れ際にスカーレットが残したしたり顔の意味を悟り、独り言を溢す。
「そういう事かよ………欲しけりゃ、DPを稼げってことか」
「紅茶とお菓子を手に入れるには、そのものだけで1000DPの消費が必要です。それでもなんとか購入出来ますがどうしますか?」
「却下に決まってる。それだと持ってるDPの全額だろ。そんな事したら完全に詰むぞ」
現在周が所持しているDPは丁度1000DP。
これもペテ子と額を合わせた時に知った事だった。
小腹が空いているからといって、それをすべて使うほど周は豪気ではなかった。
「ですね。そんな事したら死んじゃいますよ。主様に考える頭が付いていて良かったです」
「その失礼な口を今すぐ閉じろと言いたいが、お前は口が無いんだったな」
「ですです、最初から無いものは閉じられません」
周の言葉に反応してペテ子は踊るように動き回る。
「何をするのもDPが必要なのか。なら集めるしかないな」
「何か秘訣でも?」
「一応な、考えてきた事がある」
「一応ですか、上手くいく可能性はどのくらいで?」
「半々だ。上手くいけば少量だが安全に、しかも定期的なDPの獲得を見込めると思う」
「半々って分からないって事と同義ですよ、主様」
「そうとも言えるな」
「頼れる私に何かして欲しい事はありますか?」
周の役に立つ、その意思はあるようでペテ子のふざけ口調からは少しだけ真剣味が感じられた。
「今のところはないな、ピカピカしながらここでダンジョンの管理を頼む」
「ここで、という事は主様は何処かに行くんですか?」
「ダンジョンの外に。それを確認するにはどうしても森に行く必要があるんだよ。そういえばこの三日の間に外に出たら、このダンジョンの安全が保障されている期間が短くなるとかはないよな?」
この世界での森の中の散歩は危険が伴う。
こんな事ならスカーレット達がいるときに外の用事は済ませておくんだったなと、今更少しだけ周は反省していた。
「それは問題ありません。主様がいくら出入りしようと、三日間限定ですがダンジョン内は安全です。ですがそれは内のみ、外は危険ですよ。大丈夫ですか?」
大丈夫かどうかはわからないと言いかけたが、周は結局口にしなかった。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずってな。なるべく早めに確認しておきたい。その結果次第でこれからどうするかの方策がかなり変わるんだ」
「では私も付いていきます」
周から出る何かを感じ取ったのであろう、ペテ子は追従を決める。
「だからお前にやれることはだな―――」
「関係ないですよ、一緒に居たいので」
「……勝手にしろ」
「ありがとうございます、主様」
折れたのは周だった。そこに親和の感情が芽生えたように見えたのはおそらく気のせいではなかった。
タイトルとあらすじを変更しました。
詳細は活動報告にて。




