第31話 毒が抜けたら
ククルが十全に動けるようになるには、そこから数分を要した。普段ならばなんて事ない時間。
だがいつだって何かを待っている場合、時の進み方はいつだって緩やかだ。
辺りを警戒しつつ、自分の事を恨んでいるであろう少女の隣で彼女のものが入っている鞄の中身を確認して、さらに嫌われるなんて事もありながらも解毒剤が効いてククルが衣服を着るまでの時間をなんとか潰したのだった。
その格好はスカーレットのダンジョンで見た姿と同じだ。
さっきまでボサボサだったが、気持ち整えられたミディアムボブの髪型。肩周りが寒そうな体のラインが分かるピッタリとしたオフショルダーのトップス。
その上には、胸元から腹までの革鎧。
さらに肩に掛かっているのは材質不明の茶色のケープ、下はショートパンツに太腿まである革のブーツ。右足のレッグシースには短剣が一本。
ショートパンツには二本のベルトが巻かれ、それぞれが腰の後ろの空の矢筒とベルトポーチに繋がっていた。
すっかり戦闘装備完了である。
「それでお前にやって貰いたいことは……」
「お前じゃなくて、他の言い方にして」
「お嬢ちゃんにやって貰いたい……」
「名前でいい、あとご主人様とか呼びたくないから名前を教えて」
「佐々木 周 ダンジョンマスターだ。これからしばらくククルの主人ということになる」
初対面同士の者が最初にやるべき自己紹介を済ましていなかったのを思い出して、周は名を名乗る。
「元カシャの御手第三支部第八班ギルドメンバー、狩人ククル・フラゾール。今は嫌々ながら周の奴隷」
ククルもその後に続いた。
「それでククルにやって貰いたい事は、ここの周辺の調査だ」
「ここが何処か分からないってこと?なにそれ」
ククル紫色の瞳には信じられないといった意思が感じられた。
「その通りだ。ククルがスカーレット達に捕まる前に居た国の敵国だということしかわからない」
「プルメリアの、ううん、ロベリカ帝国の敵国………全部で三つほど思い当たるけど、たぶんここはリュベット公国じゃないかな?広大な森林があるって、ギルド内で聞いたことがある。でもリュベット公国だったら今は大変だよ」
「何か知ってるのか?」
「リュベット公国は最近君主が崩御したみたいだから。そうしたら在り来たりな跡目争いが起きてね、それで第一皇子と第二皇子が共倒れ。それに王妃が巻き込まれて療養中。そうなったら次の君主を継ぐ第一候補である第三皇子が本当は国を継ぐのが普通なんだけど、幼いからね。暗殺されそうになって他国に逃亡したみたい。それで今は第一皇女と第二皇女が跡目を奪いあって争ってるって噂だね。それで国の混乱に乗じて他の国に襲われないようにっていう名目で異世界の転生者を召喚したみたいなんだけど、今度はその召喚者達が両勢力に分かれて代理戦争するみたいになってるからもう国の中はめちゃくちゃな状態になってるよ」
「ならそれを確かめる為にも余計に情報は必要だな、ここがそのリュベット公国の領地内なのかどうか、そうなったら俺達がどう巻き込まれるのかも含めて。とりあえずは近くに集落がある筈だからそこにに行ってくれ。でも主観の入った情報は今回はいい、村の人数、ここからの距離、売られているもの、これは買えるなら現物そのものが欲しい。食べ物とかな。兎に角、誰が見ても明らかな情報だけ集めてくれ」
「一人で?」
「俺が行ったら確実に足手纏いになるぞ」
自慢にならない事を自信満々で周は言い切っていた。
「そうだね」
期待してないと、ククルは頷く。というより早く一人になりたかったので、この提案はククルにとって渡りに船だった。
「一番大切なのは、まず怪我をするな、死ぬな。ってことだ。そうなりそうだと少しでも思ったら戻ってこい。次は簡単な情報の入手、あとはそうだな。俺に教えたら誰かが不幸になりそうだと思う情報があったら、それも集めてくれ」
「一番目と二番目はいいけど、最後のは嫌だ」
「気が向いたらでいい、どちらにしろ三日後には一度ここに来てくれ。その時に、また話をする。あと、靴があったら買ってきてくれ………一応な」
「お金がない」
「嘘つくな、さっき鞄の中に銀貨っぽいのが入ってたぞ」
それを周はククルの鞄を覗いた時に確認していた。
「これは私の」
「つまりは俺のでもあるな」
「最低」
一言、屑を見る目を周に向けるククル。
「いつか倍にして払ってやるよ。いいから行ってこい、竜がいるかもしれないから気をつけろよ」
「死んだら呪い殺しにくるから」
「ああ、わかった。三日後にな」
ククルは、呪いの言葉を吐いて周の元から集落を探しに森へと入って行った。
ククルの事を書いていて気づいたのですが、この作品、人の容姿について殆ど触れていませんでした。
ですから時間に余裕が出来た時に順次加筆していこうと思っています。




