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第30話 解毒の合間に

(さて、どうするか)


外見的に無防備な半裸の少女と共に取り残される、そんな一日前には考えもしなかった奇異な体験を現在している(あまね)は横目でククルを見ながら顎に手を当てる。


(ダンジョン内に入れないとなると、これは(いささ)かよろしくない)


その理由は簡単だ。


「なあ、まだ動けないか?」


「………………」


現在の周達の状況は実はそれなりに危うい。


見知らぬ場所に動けない少女と新人ダンジョンマスターの二人きり、これだけでも結構不味い。

先程まではスカーレットという竜をも従える強固な盾が側にいたからいいようなものの、今はペラペラな紙二枚ときている。

さらにそのスカーレットから周が得た情報ではここはかつて竜の住処だという話もあった。それは他の竜などの怪物がここに住んでいる可能性も十分にあり得るということだ。


そういう事を周は念頭に置き、一先(ひとま)ずダンジョンに入りたかったのだが、真面な状態でないククルを放っておくわけにもいかずコミュニケーションを取っているという次第だった。


しかしその肝心のククルは口を開こうとしない。


「なにか話せ」


たまらず周が急かすと、しばらく黙っていたククルが口を開く。


「黙ってろって言ったから」


「そう、だったな…………そうか、これも不利益に当たるのか。面倒だ」


言われて周は気付く、ククルの立場からすれば不利益を(もたら)すなという命令は周が何を不利益と考えているか分からなければ、守ることが難しいルールだと言う事に。


この命令はその条件の範囲が講釈によって広くなったり狭くなったりするものだ。

その範囲を狭める為、周はククルにどんな行動が不利益になるか、大雑把に話すことにした。


「あれは忘れてくれ。別のお前が俺に何を言おうが、頭の中で俺の殺害計画を練ろうが、そんな程度じゃ不利益には当たらないから安心しろ。ただ今それを実行に移されると色々困るからな、その為のものに過ぎない」


「話してもいいってこと?」


ようやくククルの一言目。何やら先程までと口調が違う気がするが、周は細かい事は気にしないようにした。


「そうだ。あとできれば早く服を着て欲しいな」


「痺れて身体がうまく動かない」


ククルは動こうとするが、まだ薬の毒性は消えていないようだ。


「着替えさせてはやらないぞ」


「今度勝手に触ったら君の事を酷いやり方で殺すよ」


殺す以外のまともな会話を()わせるようになっても殺意は健在らしい。


「誰もが皆お前に触りたいだなんて思うな」


「さっきは触った」


ククルは周に責めるような視線を向ける。


「あれは必要に迫られて仕方なくだ」


「じゃあ一つ約束して」


「なんだ?」


「今度私に触れたら、奴隷から解放するって」


周はその言葉からククルの真意を気付き、


「いいぞ……………なんて言うと思ったか?なかなか(したた)かだな」


直ぐに断りを入れた。


「気持ちが悪いから、私を評価するはやめて」


「狙いは命令と罰の追加の阻止か」


ククルがこの話題を出した本当の狙いはそういう事だ。

背中の紋印に触れられなければ、呪刻は出来ない。


「最初から私は君が約束を守るなんて思ってない」


「いいや、俺は自分で決めた約束は守る方だぞ。そうだな………ならこうしよう。呪刻をする場合、もしくは事故、あるいはお前が頼む以外の場合で俺がお前に触れたら奴隷から解放しよう」


「私は信じない」


信じないと言いながらもククルは周を見る。その顔にはどうこの男に身体を触らせようか考えを巡らせているように感じられた。


「別にお前が信じる必要はない。俺が勝手に約束を結ぶだけだ」


「むかつく」


「怒りは生きる為には大事な感情だ、大切にしろよ」


「君と話してると頭がおかしくなりそう」


ククルは周から顔を逸らした。


「長い付き合いになるかもしれないから今のうちに慣れておくんだな」


「最悪の気分」


「良かったな、それより下はないってことだぞ。俺のおかげで最短で幸せになれそうだ、礼はいいぞ、取っとけ」


「もう話したくない」


「それより、そろそろ動けるようになったか?」


「ああ、まだ、本調子じゃない」


「いつになったら動けるようになるんだ、スカーレット」


周は毒を盛ったスカーレットの事を思い、空に嘆くのだった。


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