第29話 初耳
呪刻した後、裸で放置しておくのも何なので周はククルを縛っていた縄を全て解いて座らせ、巻かれていた筵を身体に掛けて隠せるようにしておいた。
その気遣いを受けたククルが心底意外な顔をしていたのが心外だったので、周は服を早々に着させるための行動に移る。
「こいつの服は?」
「シモン」
「廃家の側に捨ててあります」
「ーーーーーっ」
何かを言いかけたククルは周の視線を感じ口を結び直す。
(はぁ、この状況じゃ、こういう反応になるのも仕方ないか)
別に周は黙っていろと思って見たわけではなかったのだが、それらをあれこれ一々言う事もなく廃家まで歩いて行く。
そうしてククルの服を探すと、それはすぐに見つかった。
地面に直接置かれてる所為で湿ってはいたが、故意に汚そうとそこに捨てられたわけではないので、泥だらけになっていたりはしなかった。
そこにはククルの服の他にも色々と物が無造作に置かれていたがほとんどは廃材で、服の側にあった弓矢と革の鞄だけは新しい物に見えた。
「この鞄は?」
「この子のものが入ってるわ」
周が思った通り、やはりこれらは元からここにあったものではなくスカーレット達が持ってきたものようだった。
「自分で着替えさせたいからこいつの薬の毒性を消してくれ。いつまでもこのままだと俺の趣味だと疑われるだろ」
「違ったかしら?」
「違う。抱きしめるぞ」
周は言葉でふざけて遊ぶスカーレットに対してセクハラ行為を匂わせて脅す。
「冗談よ。―――シモン」
「はい」
スカーレットはふっと笑って、シモンに命じた。
すると杖の先から赤色の謎の液体がククルに掛けられた。
「これで少し経てば動けるようになるわ」
「お前らは本当に人間を血塗れにするのが好きだな」
「これは解毒剤よ馬鹿」
周の感想にスカーレットは呆れていた。
「これでこいつを配下一号としてダンジョンにおけると」
ククルの所持品を彼女の目の前に持っていき、その側に置く。これで一段落だと、周は配下になった彼女を見下ろして言った。
「それは無理よ」
「なんでだよ?」
スカーレットの言葉に周は振り向く。
「あんたには言ってなかったかしら?ダンジョンにも等級があるって言ったでしょ?」
「それは聞いた」
「ダンジョンの等級には特殊なルールがあって、ダンジョンの等級よりも上の等級の生物は中に入れないようになってるの。だからあんたの第一等級のダンジョンには、私もシモンもこの子も入れないってわけ」
周は頭をポリポリと軽く掻き、ふーっと溜息を漏らして質問する。
「じゃあ何の為にこいつはこんな可哀想な事になってるんだよ。知ってたら無理強いしなかったのに」
「あんたがやったんでしょ」
「言っておけよ」
「門番にでもすればいいじゃない」
「悪いなククル、俺とこの猫は馬鹿なんだ。許せ」
実際、この事を知っていたら周はククルに呪刻をしなかっただろう。
別に周はククルを虐げたいわけではない。貴重な戦力として頭の中で数に入れていて、衣食住の充実は約束するつもりだった。
その当てが端から外れているとも知らずに。
働きには対価を払う。それはこちらでも守る。 周はそう決めていたのだが、今すぐには無理なようだ。
これもスカーレット達との奴隷に対する考えの違いが、またも如実にでた形だろう。
「誰が馬鹿よ」
「貴様、主になんてことを」
「………………」
スカーレットは馬鹿呼ばわりされて、こいつ失礼ねという態度。シモンは信じられないといった感じの声を漏らし、ククルは周の考えとは別になぜか安心した様子を見せる、というそんな三者三様の反応を見せた。
「わかった、ククルには別の事をやって貰おう」
「……………………っ」
別の、と言った部分で、ククルは声を漏らしはしなかったが、首から上をビクッと反応させた。
「別に取って食ったりなんかしないぞ、そう怯えるな」
周はいい笑顔でククルに話しかける。
「それは無理よ、あんた自分のやったこと忘れているの?」
だがスカーレットの反論でそれは台無しになった。
「そういえば、俺の荷物は?」
周はこれ以上のフォローは逆の効果を生みそうだと考え話を変えた。
「竜に運ばせて廃家の中よ、後で確認しなさい。頑張ったら手に入るわ」
荷物というのは、引っ越しの時に出た全ての家財道具と、周がこの半年にスカーレットに色々言われ元の世界で購入した色々なモノの事だ。そこには食料品や娯楽品などが多かったが衣服や家具、嗜好品、医薬品に加え電化製品なんてものも含まれていた。
それをこちらに持ってきているので、周は靴がなくても後からなんとかなると考えてこれを放置していた。
「頑張ったら?含みのある言い方だな」
「別になんでもないわよ」
スカーレットは気にしないでと首を振る。
「そうか?………でも竜なんているのか。お前の所は人材が豊富だな」
「この山が欠けていたでしょ?それをやった子なのよ。昔ここに住んでいたから詳しいと思って手伝って貰ったの」
この廃家がある空間の上空の部分に光が射しているのはこの岩山に大穴が開いているからだ。それをやったのがスカーレットの配下に居ると聞いて周は驚いた。
「お前何者だよ」
「スカーレットよ。十二番目のスカーレット。あんたのご主人様」
偉そうな態度でスカーレットは大仰に名乗る。
「はいはい、ご主人様、ご主人様」
一応周は気を利かせ合わせる事にした。
「じゃあ周。私達は行くから」
話が終わると、スカーレット達は突然そう切り出した。
「ダンジョンはまだ完成してないだろ」
「もうしてるわよ、時間が経てば完成するっていったでしょ。おめでとう。これであんたもダンジョンマスターよ。あとは自分で学びなさい。私達はどちらにしろ中には入れないの」
「全く自覚がないから有り難みも何もないな。わかった。色々助かったよ、またな」
「頑張って遅れを取り戻しなさい、私の予定では半年前にはこちらにいる予定だったんだから」
「程々にやっとく」
「程々じゃなく頑張りなさい。また何十日後にチェックしに来るから、死ぬんじゃないわよ」
「ああ」
スカーレット達はそうして用を済まして自分のダンジョンに戻って行った。
そしてそこに残されたのは裸の上に筵を掛けられただけの少女と、ダンジョンマスターになり不老になったアラサーだけだった。




