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ゼロダンジョン〜最愛の者は異世界より〜  作者: 0
プロローグ 出会い。
24/54

第24話 御父様2

何とか今日中には書けましたが、遅れてしまいました。

御父様とはスカーレット含む十二席の一議席(アルファ)達を誕生させた生みの親の事だ。

正体は一議席の成員でさえ知らず不明となっているが、唯一御父様という名前だけが知られていた。


そんな生みの親に一議席達は気紛れに呼び出しを受けることがある。


それが符牒(ふちょう)の存在である。


符牒というものが、どのようなものかという説明は難しい。

合言葉や記号など分かり易いものではないからだ。

ただダンジョンマスターならばそれを見た途端、呼ばれていると気づくものだった。


そしてそんな父が迎えを出す時には必ず一定の決まり事がある。


それは囲いのある乗り物でやってくるという事。

場に合わせて相応しいものが用意され、普段は馬車や牛車だったり動物や獣が引いているものが多かったりするのだが、今回の場では車が選ばれたらしい。


(どんな用件なのかしら)


呼び出しを受けたスカーレットは窓の外の流れる景色に思いを馳せて、車中で次のアクションを待っていた。


しばらく経つと車内に雨が降り出す。


(今回はこれなのね)


身体の表面を伝う濡れない雨を全身に浴びながら、スカーレットは足元に雨が溜まっていくのを慣れた様子で受け入れていた。


雨はゆっくりと、しかし着々と少しずつ溜まり、水位が喉元を超えそうなところでスカーレットは流石に瞼を数度閉じたが、頭を過ぎれば澄ました顔は元通りになっていた。

なぜならその雨は濡れず、水となっても中では息が出来る特殊なものだったからだ。


出来なくなるのは窓を通して車外を見る事だけ。


そうして水位が車内の天井についた頃に水は排出され、窓の外を確認すると、いつも通りに車外の景色はいつのまにか真っ白に何もない空間になっていた。


こうしてようやく車は止まり、ドアが開く。


ドアが閉じて去っていくと、何もない空間に扉が一つ現れる。

その扉のノブを捻ると意識が飛んだようになり、これまたいつも通り別の場所にいることになるのだった。


(綺麗ね)


花弁が舞い散るその場所は色彩豊かな花々が一面に敷き詰められた場所だった。

場違いなのは白い椅子ににそれと向かい合って置かれている赤の椅子。

赤い椅子にはスカーレット。

そして―――白い椅子には強い紗が掛かったような顔だけが見えない若い男がいた。


「今日は人の姿をしていらっしゃるのですね」


今日は。とスカーレットが言ったのは、この超存在は逢う度にその姿を変えているからだ。

いや正確には見せているというのが、正解か。


「君のお気に入りにしてみたよ」

「………えっと、その」


思わぬ言葉を掛けられ、ここに来るまでの事を思い出した所為でスカーレットは戸惑いを隠せなかった。


「違ったかな」

「いえ、間違いありません」


どこから何まで見られていたのか本当は知りたかったが、スカーレットは質問しない。

聞けば答えてはくれるだろう。しかし聞いてどうなるものでもないし、やめて欲しいとは思わなかった。それにそんな程度の質問で時間を取らせるわけにはいかないと判断しての事だった。


「呼び出したのは、久しぶりに君と直接話をしたくてね」

「光栄です。何なりとお申し付けください」

「そんなに固くならないでくれ。世間話みたいなものだよ」

「はい」


それから紡がれるのは他愛もない話だった。近況やらなんやら毒にも薬にもならないものだ。敢えて核心に触れないような胡乱な会話を父は数分程続けて、時が満ちたのか突然こう切り出した。


「彼はどうかな?」


機会が少ないので類推しにくいが、父の雰囲気が変わったのをスカーレットは察する。


(あまね)ですか?」


ここからが本題ね、と心構えをしつつ(よど)みなく返答することができた。


「そう、佐々木 (あまね)くんだったかな」


「御父様がただの人間の名前を憶えているのは珍しいですね」


スカーレットは驚いた。これは本当に珍しい事だったからだ。父が一議席達十二席それぞれの名を呼ぶ事はしばしばあるが、その配下、ましてやまだ何もしていない人間の事を知っているということ自体、スカーレットの中の父の記憶にはない事だった。


「彼は特別だ。いつものように才能があるだけで選んだ子ではないからね」


「そうなんですか?」


才能とはダンジョンマスターになる才能のことである。


「君の為に(あつら)えた子だ」

「私の?」


通常時、十二席が配下を異世界から引き抜く場合、その相手は才能がある以外は完全に無作為だと父自身が言っていたのだが、その言葉を聞いてスカーレットが心情に抱いたのは、自分だけが。という特別感よりも漠然とした不安感のようなものだった。そしてそういう悪い予想はよく当たる。


(くすぶ)っている火でも油を注いでやれば炎になるかもしれないと思ってね」

「どういう意味でしょうか?」


「ユエを失ってからの君はやる気が感じられないという話だよ」

「私は!」


やっぱりその話か、と思ったのは、気付かない内に遠ざけようとして逆に常にその事を意識していたからかもしれない。


「自覚がないのがさらに質が悪い」


何か言おうとしたスカーレットが口を開く前に父はそれをぴしゃりと止める。

まだ話は終わっていない。と言いたげに話は続く。


「本来の君ならば、数百年間も序列を十二番目にしておく筈がないんだ」

「それは」

「永遠に約束が叶わなくなってしまったからからだね」

「……………………」


またも先に自分の心の内を晒されたスカーレットは黙るしかなかった。

心を読むという十八番を自分自身がやられて何もできないとはどんな皮肉か。


「でもそろそろ目を醒まして貰わないといけないと思ってね。昔の君達に似た子を選んだんだ」


「周はユエの代わりではありません」


普段なら一議席に属するスカーレットが言い返すことなどない。

だがこう言わずにはいられなかった。


「誰も、誰かの代わりになったりは出来ないのは知っているよ。彼の役目は別にある」


「別?」


「彼を見て少しは思い出しただろ?」


「何をですか?」


予定調和とでもいうのだろうか、そこに話を持ってくるための会話の流れだとわかっていても、そうなるように聞き返すことしかできないのは。


「戦いだけが(もた)らす高揚をだよ」


それを言われ、スカーレットは素直に思う。

答えを出すのは簡単だ。

私は久しぶりに誰かと直接戦いたくなった。その相手は成長した周だと。

そうなれば呼応して、他の者に負けるわけにはいかなくなる。


「その為の周ですか?」


「ああ、君の為の彼だ」


「そこまでして頂く必要はなかったのですが…………」


言葉にはしていないが、隠す気がないのかスカーレットの顔には不愉快だという感情が表現されていた。


「君達の為ならこのくらい訳ないさ」


それを無視して朗らかな顔で父は愛おしそうにスカーレットを見る。


(これだけで毒気が抜かれてしまうのだから、まったく嫌になるわ)


「感謝します」


ともすればこう言うしかなかった。


「いいんだ。娘の喜ぶ姿が見られて僕は嬉しいよ。あまり時間はないけれど、もう少し付き合ってくれるかい?」


「はい、御父様」


こうして殺伐とした雰囲気はすっかり薄れ、久しぶりのこの邂逅(かいこう)はもう少しだけ続いた。


これでプロローグは終わりとなります。

次話からが一章目です。


思っていたよりもプロローグが長くなり、内容も違うものになってしまったので、話を自分の中で纏める為、明日は投稿できないかもしれません。

おそらく明後日になるかと思います。

またよろしくお願いします。

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