第23話 御父様1
「ちょっと、それ寄越しなさい」
「おい待て、はしたないぞ」
契約が本決まりした後、スカーレットは定期報告という名目で度々周の元を訪れていた。
今日の場所は歩道、目的は食べ歩き、側には勿論周がいる。
ペット同伴可の飲食店は増えてきたとはいえ、まだまだその数は少ない。さらにその中でスカーレットが気に入るだろう豊富な種類の料理をいくつも提供している店など周は知らなかった。
縦しんばそんな店があったとしても、そのペットの枠には当然喋られる猫は入ってはいない。
結果としてスカーレットは他の人間に声が聞こえないように肩にだらりんと人形のように乗って、周が持つ生クリーム入りのスイーツにパクつくのであった。
「うん、悪くないわね」
「ねこまっしぐらとは書いてなかったのにな」
生クリームを顔に付けて、ご満悦な表情を隠しきれてもいないスカーレットの顔をハンカチで拭いながら周は突っ込む。
「うるさいわね、財布は黙りなさい」
「今日のお前は特に酷いな」
「いいから」
「はいはい、ご主人様」
「良きに計らえ」
このように今日の周は、スカーレットが飽きるまでその口に食べ物を運ぶ餌付けマシーンとしての役割を続けさせられる可能性が高かったのだが、突然その役から解放される運びとなる。
その理由は周ではなく、スカーレットにあった。
それは周にしばらく食べ物を運ばせ、極楽を味わいながらなんとなく車道を見た時だ。
スカーレットは不意に視線を奪われた。
(―――あれは、御父様の)
なぜならこちらではありえない筈のものが、自分達の横を通り過ぎたからだ。
スカーレットは思わず振り返り、確認をする。
(間違いないわね)
車種は黒塗りのチャイカ。
パッとした見た目にはわからないが、スカーレットのような者達がよく見ると明らかに異質な感じがする車だった。
この時の周がダンジョンマスターになっていたなら違和感で何かに気づいたかもしれなかったが、いまだに普通の人間である為、気に留めることはなかった。
これはある符牒を受け取れる者だけが感じられる事だった。
「どうした?」
今の今まで食べる事をやめなかったスカーレットが突然振り返り、黙って一点を見つめているのだから周が主人の様子が変わった事に気づくのは明白だ。
「そろそろお暇するわ」
「いきなりだな、わかった。またな」
「ごめんね、あと、ありがと」
何も聞かないでくれて、という言葉は発せられない。
「ああ、また今度な。次も美味い飯を食わしてやるよ」
しかし緊急事態であることを言葉の端から察した周は、一人街中へと消えていった。
「突然暴走したりする癖に、あの子はこういう時だけは空気を読むのよね」
遠くなって消える周の背中を見送り、少しばかり待っていると、一台のクラシックカーが目の前に止まりドアが開く。
「じゃあ、行きましょうか」
そうスカーレットが車に乗り込むと自動でドアが閉じ、車は客人を乗せて発進した。
車種で迷っていたら遅れてしまいました。
本当はキャデラックの筈でしたが、それは少し狙い過ぎのような気がしたのでチャイカに落ち着きました。




