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ゼロダンジョン〜最愛の者は異世界より〜  作者: 0
プロローグ 出会い。
22/54

第22話 握手した足は柔らかい

「あんた、いきなり正気じゃなくなるわよね」


襲われたスカーレットはシュッシュとジャブを(くう)に放ちながら、周を威嚇する。

見た目には可愛くも見えるそれだが、実は(あまね)に向けているその拳には人間の頭部をお手軽にグシャっとする機能が備え付けられている。


「それ洒落にならないし、馬鹿っぽいからやめろ」

「自業自得って言葉を直接身体に教えてあげましょうか?」


スカーレットがわざと空けた一席分の空間を、今度は周が二席分にすると、今件の強制わいせつ事件の被害者は逆に距離を縮めた。

たまらず容疑者は両手を上げる。


「恋は盲目っていうだろ?お前が魅力的なのが悪い」

「自分で言ってて、恥ずかしくないの?」


スカーレットは仏頂面の神様が宿ったかのような面持ちで言う。


「俺の顔を見ろ」

素で聞かれた周はそっと目を背ける、その顔には朱が差していた。


「つまり恥ずかしいわけね、可愛くないから頬を染めるのはやめなさい。気持ち悪い」


「言い方気を付けろよ。そもそもお前が楽しそうに一人で遊んでるから嫉妬したんだよ」


「素直なことが全て善行だとは思わないことね、そういうところを改善した方がいいわよ、素直になるのはここぞというときだけにして頂戴」


「はーい、先生」


しかしながら命の危険を伴いつつも、周は結局スカーレットに構って貰うという願望を達成したのだった。


「わかればいいの、DP(ダンジョンポイント)はこれで入ったわね」


モニターには今回の殺戮で獲得したDP(ダンジョンポイント)が表示されている。

四人の死体に滞在ポイントを合わせて挑戦者から得られるDP(ダンジョンポイント)は6120DP辺りになる予定だったのだが、明らかにそれは足りていなかった。


その理由はモニターの中にいる挑戦者の中の唯一の生き残りだ。


「その前に一ついいか?」

「何よ」


そこには、仲間の血液を寝床に気絶している挑戦者(ククル)がいた。


「どうして一人だけ殺さなかったんだ?」

「あんたが欲しいかと思って」


「……………………」


「当たってるでしょ?」


本当に束の間ではあったが、自分の死を悟ってなお最後まで諦めなかったのはこの挑戦者の中ではククル一人だった。


それを見て、周が目を輝かせていたのをスカーレットは見逃さなかった。


「………よくわかったな、あの子は使えそうだ」

「さっき私を口説いたのに、もう別の女に目移りだなんて気が多いわね」


「そんなに構って欲しいなら毛繕いか一緒にでも寝てやろうか?」

「あの子の後ならお断りよ」


「嫉妬する振りはもういい。というよりお前もあの子が気に入ったから助けたんだろ?」

「まぁ、そうね。でもうちの子にするには弱すぎるからあんたにあげるわ」


「別にお前のものじゃないだろ」


「私が助けたんだから私のものでしょ」

何言ってんの?と殺戮者と救済者の相反する顔を持つマッチポンプ職人は首を傾げる。


いや、そもそもお前が………など云々(うんぬん)、否定の言葉が周の口から出かかったが、

結局「そうですね」と、

弱肉強食の掟を目にして口を挟むのをやめた。


(命の価値の大暴落だな)


「あんたを見てると、嫌がらせにはならなかったみたい」

「何がだ?」

「あれよ」


モニターの映像はいずれもR15もしくはR18でお届けしている。

スカーレットはそれを指し示すように青少年にお見せするにはモザイク処理が必要そうな蛮行が行われた後の現場を顎でしゃくった。


「これが嫌がらせか?趣味が悪いのはさておき、スプラッターは苦手な方だ一応」


「あら以外ね、でも大丈夫そうにみえるけど」


「人が死ぬ様を最初から最後まで見たのは初めてなんだが、モニターで見る分には映画と変わらないな。現場にいる+食事を終えて直ぐという条件が足されたら吐く自信はある」


「どんな自信よ」


周は別に殺人鬼ではないので血が好きとかそういう趣味はなかった。


「生き死にを扱うのにお前ほど慣れてないんだから仕方ないだろ」


「だからそれなりに残酷な殺し方をプレゼントして耐性を作ってあげたの。ダンジョンでは挑戦者が死ぬ。これは当たり前。よく招き、よく殺すダンジョンが良いとされてるぐらいなのよ」


事実を言っている、その言い様に周は一言。

「世知辛いな」と返すのみであった。



実戦の観賞を終え、モニターは消えた。

これでグロテスクな時間はお終いだ。

スタークが淹れ直してくれたコーヒーの香りで心の洗浄をし、話は結末へと近づく。


「それで、私の話は受けてくれるのよね?」


「ああ、勿論だ」


「これからよろしくね。私の周」


「どうぞよろしくご主人様。でいいか?」


といってもこれはもう決まりきった事だ。

だから数言以外に語るべく事もない。

交渉は終了。印を押すなどの手間をかけず、握手をして周は居を移すことに了承した。


「ふう。よかった。じゃあ、今から行く?それとも明日にする?それとも明後日」

「は?何処にだ?」

「だからあんたのダンジョンによ」

安心したといった表情を浮かべるスカーレットは、ご飯にする?お風呂にする?それとも、あ・た・し? のような言い方で提案を繰り出す。

「それは無理だ。今日も明日も明後日も、最低三ヶ月間は無理だな」

だが周はその提案を即座に却下した。


「なんでよ!?」

「俺は一応社会人だぞ、仕事の引き継ぎとか、借りてるマンションの引き払いとか色々あるんだよ。俺は異世界で永遠に生きるつもりだからな。後顧の憂いは絶っておいた方が良いだろ」


その理由は人として至極当然の意見ではあったが、本当は余っている貯金が勿体無いのでそれを使って遊びまわる予定を立てていた為の時間延長だ。


「本当でしょうね?」


疑いの目を向けるスカーレット。


「なんならお前が見に来ればいいだろ?」


周の頭の中にはこいつとあっちで遊ぶのも楽しそうだな書いてある。


「私もそれほど暇じゃないわ。たまに見に行ってあげる」

「暇じゃねーか」


その意図を汲んだか、汲んでないかは兎も角としてスカーレットは周がダンジョンに行くまでの間に何度か周の元に訪れることになりそうだった。


「じゃあ、締まらないけど一応は契約成立の言うことで」


「よろしく頼むよ」


もう一杯スタークの美味しいコーヒーを頂いて、周は自宅に戻っていった。


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