第17話 挑戦者1
挑戦者目線です。
「よし、いけるぞ」
そう誰にも聞こえない小さな声で呟いたのは、カシャの御手の第三支部第八班のパーティーリーダーである剣士ルクスだった。
カシャの御手とはロベリカ帝国に所属するギルドの一つだ。
卓越した回復術師、帝国を建国した四英雄の一人、カシャ・クローブリーに因んで、回復魔法を使える事が入団条件となっている。
そんなギルドの一員であるルクスは二日前から帝国の被保護国であるプルメリアの近くに存在するダンジョンに潜っていた。そうして三日間が経ち、今回の潜入は成功だとルクスは内心でほくそ笑んでいた。
三日目の正午頃、ルクスは十階層のフロアボスを倒し、同時にこの戦闘で今日の自分はツイていると確信した。
一日目、二日目、そして三日目の全ての探索は順調という言葉では言い表せない程、思い通りに事が運んでいるからだ。
これまでの潜入ではルクスのパーティーが到達した限界層は八階層で、しかも其処に到達するのにも五日以上を要していた。
しかし今回は三日。さらに現在の階層は区切りと呼ばれている十階層だ。
三日前までの、腐っていた心は何処にいったのか?ルクスは頭から血を流しているのにかかわらず、怪我の痛みを感じないぐらい高揚していた。
幼馴染でライバルでもある別のパーティーを率いる自分と同じ立場のダッグが、このダンジョンで十二階層を突破したと聞いた時から身体の内に嫉妬の火が燻り、それがルクスをしばらく鬱積させていた。
だがそれも今日で終わりだ。
十階層のフロアボスに挑んでも頭の軽傷だけで済んだという事実がルクスの偏った自己愛を増大させる。
ダッグは何度もこの十階層に挑戦をして未だ一度しか十階層を抜けていないのだから、一度目でそれを成した自分なら十二階層も越えられると、ダッグの悔しがる顔を思い浮かべてルクスは久々に良い気分になった。
そんなルクスは怪我をマリナに治して貰いながら、同じパーティーの仲間達に話しかける。
「ようやく俺達も十階層を突破できるな。これでギルドの中でも一人前を名乗れるぞ」
「ああ、そうだね。これで姉さんにもいい報告が出来そうだよ」
長い前髪をかき上げながら応えたのは槍使いのベルモンドだ。
ベルモンドはこの八班の初期からのメンバーで、ルクスとの親交も深い。
「ルクスさん、動かないで下さい。治療中ですよ」
注意したのは修道女の格好をしているマリナ。このパーティーでカシャの御手として誰が一番相応しいかと問われたら、それは彼女だろう。
全員が回復魔法を使えるのに彼女が治療に当たっているのは、その効果が段違いだからである。
「十階層のフロアボスは三体のアイアンゴーレムって噂じゃなかったっけ?私らは一体しか倒してないような」
十階層のフロアボスについて口にしたのは狩人のククル。使い勝手の良い大きさの弓矢を片手で担ぎ、残った片方の手でアイアンゴーレムの残骸から、矢を生成していた。
「モンスター再生が間に合わなかったんじゃないかな?、このダンジョンには僕ら以外にも大勢の人間が挑んでいるわけだし、そういうこともあるよ」
「そっか。運が良かったんだね」
ベルモンドの考察を聞き、ああ、と納得するククル。
「運も実力の内だ。それよりもこれからどうする?」
そんな事よりも、とルクスは一旦話が終わったのを確認してこれからダンジョンの奥へと向かう為の質問を皆にした。
「まだ余力は残しているから、僕は進むに一票」
「私もいいよ、矢の補充も出来たし」
自分と同じ意見の二人の意見を知り、ルクスは良しと思わず声を上げそうになったが、その寸前にマリナによって遮られる。
「私は反対です、今日のダンジョンは何処か様子がおかしい気がします。急いては事を仕損じるとも言いまし、一度引き返すべきです。それに回復魔法はまだ使えますけど糧食と薬の方は半分以上を消費しています。帰還の事も考えると余裕はそれ程ありません」
この冷静さに救われた事も何度もあるのでルクスはいつもならマリナの意見を取り入れていただろうが、今はダッグの鼻を明かすという欲求に囚われているので、この意見を鬱陶しく感じた。
「それは少し消極的すぎないか?確かにマリナの言う通り糧食と薬は減っているかもしれない、でもどちらもダンジョン内なら入手は可能だろ。今までもそうしてきて帰還は成功している。いつもの通りにやれば問題は起こらない筈だ。二人はどう思う?」
マリナの主張が通ってしまえば引き返すことになると慌てたルクスは、先程同意した二人にアピールをしながら、意見を求める。
「僕もルクスの意見に同意する。この程度で一々帰還していたら他のギルドメンバーに笑われてしまうよ。いつも万全を期せるわけじゃないからね」
「私ももう少し進んでみたいかな。十一階層は今までの同じような景色の階層と違って、面白いものがあるって聞いたことがあるんだ。無理そうなら直ぐに引き返して来ればいいよ」
結果はルクスが望んだようになった。
「三対一では仕方ありません、何か異常だと感じたら一度ホームに戻る事を提案します」
「ああ、それなら問題ない」
最後にはマリナも同意した事で、十一階層への挑戦が決定する。
心の中で、上手くいった。とルクスは喜んだ。
その頭の中からはマリナの提案した撤退案など、既に露と消えてしまっていた。
誤字報告、有難うございました。
訂正しました。




